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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学16巻3号

1965年06月発行

雑誌目次

巻頭言

薬物の慢性投与動物実験の重要性

著者: 島本暉朗

ページ範囲:P.105 - P.105

 薬物作用を分析するにあたつて薬力学的方法を用いることは薬理学の常套手段であるが,薬物の臨床応用を求める時にはこの研究方法によつてえられた薬物作用の知見のみでは十分でないことは申すまでもない。この比較的単純化された機能系においてえられる薬物作用所見は生理学的または生化学的に理論づけされることが多い。したがつてその成績は魅力に富んだものとみえるし,薬物作用を理解する上にもはなはだ便利であることが多い。しかし,多くの場合,個々の薬力学的成績の積分値のみでは必ずしも薬物の生体作用を十分に説明することができないし,またその成績に拘泥すると誤つた臨床適用を示唆することとなり,社会に与える被害も少なくないことがありうる。以上の点は薬理学を学ぶものにとつて大きな悩みの一つとなつている。
 以上に述べたことは薬力学的研究方法は迂遠なものであるとか,あるいは非生理的であるといわんとするものではない。このような研究方法は薬物の生物作用を知る上にもつとも大切なものであるからである。問題はえられた成績を薬物の生体作用に帰納せしめる積分方法に問題があることを指摘したいのである。しからば具体的な方策如何と問われると実際上は手をあげざるをえないのである。

主題 Polypeptide

綜説 ACTHの構造と機能

著者: 矢島治明

ページ範囲:P.106 - P.116

 ACTH(adrenocorticotropic hormone)は脳下垂体前葉ホルモンのなかで,その構造決定より合成までの一連の研究がなされたもつとも代表的なホルモンといえよう。筆者はおもに合成面を通じてその構造と活性との関連を理解しようとする研究に従事したので,この所には主としてこの問題をとりあげ,最後に最近研究の進んでいると思われるCRF(corticotropin releasing factor)について述べたい。

綜説 インシュリンの構造と機能

著者: 佐竹一夫

ページ範囲:P.117 - P.125

 I
 肝臓が糖代謝に関係の深いことは前世紀末から知られ,その有効成分の抽出精製がいろいろ試みられていたが,血糖降下性ホルモンインシュリンがはじめて結晶化されたのは1926年のことである1)。その後 工業的製法が詳しく検討され2),最近では各種動物から微量のインシュリンを能率よく単離する方法も確立されている3)。なおインシュリンはひろく脊椎動物に分布しているが,魚類てはこの分泌細胞(β細胞)は,膵臓組織とはなれてスタニウス小体として独立している。したがつてこの小器官(カツオで0.5g前後,インシュリン約0.3mgが含まれる)を原料とすると哺乳類膵臓の場合にくらべてはるかに精製がたやすくなる。
 インシュリンの平面構造は1955年ウシのものについて最終的に決定され5),(i)分子量約6000,(ii)21個のアミノ酸からなるA鎖と,30個のアミノ酸が結合したB鎖の2本のポリペプチドより構成され6-8),(iii)A,B両鎖間に2個,さらにA鎖内に1個のジスルフィド結合をもつている5)(第1図(a))。したがつて分子量的にみるとタンパク質というよりはむしろポリペプチドであるが,ふつうの条件下では亜鉛イオンによつて錯塩状の二量体を形成し(第1図(b)),この粒子量1.2万の単位がさらに会合し2.4万ないし3.6万の粒子量を示す9-12)

話し合い ポリペプチドの作用機構

著者: 木村徳次 ,   曾我部博文 ,   江橋節郎

ページ範囲:P.126 - P.133

 江橋 今日はpolypeptideの薬理作用とか,あるいは作用機構とかいう大それた題名の座談会のようです。「ようです」などと申すのは,誠に無責任ないい方ですが,polypeptideの生理的作用機構というものは,実は今のところ何もわかつてないわけですね。そういう意味で,今日の課題というのはscientificに問題を論じるというよりは,われわれが勝手な放談をすることが目的だというふうにいわれて,それならば仕方がない,やりましようということでここに出てきたわけなんです。
 こんな話し合いに,お忙しい,木村先生をひつぱり出して,誠に申し訳ないのですが,話のきつかけとしまして,木村先生のいまやつておられるお仕事を説明して頂いて,それを中心として問題を前後左右に拡げていく,というふうにしたいと思います。

アンケート

中枢神経系について

著者: 大島知一 ,   田中潔 ,   清水信夫 ,   古河太郎 ,   塚田裕三 ,   今泉礼治 ,   小沢俊次

ページ範囲:P.134 - P.137

 遠心性末梢神経とその奏功臓器(effector organ)との間の刺激伝達は,一般に化学的物質によつて伝えられるということになつています。このchemical transmissionという概念は,少なくとも自律神経節におけるシナプスに妥当するようにみえます。次の諸点に関し,日頃この問題に造詣の深い方々の意見をあつめました。
 1.中枢神経系においても,シナプスにおける刺激伝達はchemical transmitterによつて行なわれるものてしようか。もしそうならば,chemical transmitterとして,どのようなものを考えておられますか。特にinhibitoryなtransmitterについて
 2.1について否定的な方は,次の問のいずれかにお答え下さい。
  (1)すべてがchemicalでないとすれば,一部はelectricalと考えてよいでしようか。それはどの部分てしようか。
  (2)中枢においては,すべてelectricalと考えられますか。その理由は,もしそうならば,アセチルコリンやノルアドレナリンなどという末梢におけるtransmitterはどのような生理的意義をもつているでしようか。
 3.上記の質問がすべてに無意味であるとお考えの方は,その理由と,中枢における刺激伝達の機構についてのお考えをおきかせ下さい。

実験講座

電子計算機(3)

著者: 清水留三郎

ページ範囲:P.138 - P.141

 応用プログラミング
 電子計算機の機能にしたがつて,その機能を利用するためにはどのようにプログラムを書けばよいかを基本プログラミングとして述べたのに引きつづいて,電子計算機に計算させたい問題にしたがつてプログラミングの基本をどう応用するか,ということを応用プログラミングとして説明しよう。とりあげるべき問題は多数あるが,ここではその中のいくつかにとどめる。

電子顕微鏡試料作製法—超薄切片法(1)

著者: 五十嵐至朗

ページ範囲:P.142 - P.145

 この実験講座は次の三つの点を主眼として書かれたものである。
(1)これから初めて電子顕微鏡を利用する研究者のためにできるだけ平易に,かつ具体的に説明すること。(2)副題にあるようにもつとも問題の多い超薄切片作製技術を中心に記述し,できるだけ原理的な説明も加えて内容の理解を深められるようにすること。(3)著者の過去の失敗例から,それを避けるために必要な要領を記載すること。

交見

基礎医学者のもつ根本理念は,他

著者: 三浦義彰

ページ範囲:P.148 - P.151

 近くて遠いのは基礎医学と臨床医学の仲である。双方とも理念としては協同研究をめざし,実際にはお互いに不信の念をもつて眺めあつている。
 生化学の領域でいえば,生化学的な方法を臨床的な研究領域に導入すれば,もつともつと医学は進歩すると思いつつも,ふだんは基礎側では臨床の片手間仕事といい,臨床側では理科の人々の猿マネと冷かす。

海外だより 印象記と研究室だより

Yale大学訪問記

著者: 高木貞敬

ページ範囲:P.152 - P.153

 12月16日DetroitのMetropolitan空港8時出発。New Yorkまで1時間余り,New York市内のタクシーが車の混雑でなかなか走らずやつとPen Stationに着き汽車に乗る。昼すぎNew Havenに着く。10年前には汚らしい町でこれでは"Old"Heavenだなどといった町が,今度きてみると最新の高層ビルが建ち,スーパーハイウエイが走り,まつたくBrand"New Heaven"という感じ。
 まずDr.M.R.Delgadoを訪問する。スペイン系アメリカ人でAssociate Professer。初対面にもかかわらず私の論文を読んだといつて大変親しく応待される。まず今何をやつているかとたずねられ,つぎに教授が今やつていられることの説明をされる。私が動物の行動,とくに嗅覚行動に関心をもち,できるだけ早い機会にその研究を始めたいというと,"それはまだ全然やつていない"という答であつた。日本のモンキーセンターも話題となつた。ついで地下の実験室へ降りて行く。途中,フルトン教授を慕つてスペインからきたなど話を聞く。若い方の秘書とはスペイン語で話をされる。地下の実験室は二室からなり,小さいガラス窓を通して一室の中におかれた檻(目測では横7尺,高さ5尺,奥行4尺)の中に猿が5匹入つていて2匹と3匹の二群に分れている。

Bad Nauheimの2年間

著者: 入来正躬

ページ範囲:P.153 - P.155

 昭和37年9月から39年11月まで,Alexander von Humboldt-Stiftunkの奨学生として滞独,Bad NauheimのWilliam G. Kerckhoff-Herzforschungsinstitutder Max-Planck-Gesellschaft der universitätGiessenのProf. Dr. Rudolf Thauerのところで,研究に従事する機会を得たのでありますが,その間の見聞印象,などを思い出すまま記してみたいと思います。

文献案内

結合組織の研究をするにあたつてどんな本を読んだらよいか

著者: 水平敏知

ページ範囲:P.156 - P.159

 結合組織は骨や軟骨などの硬組織と共に,われわれのからだの中に広く分布する支持組織の一種である。その主成分は膠原線維(collagen,collagenous fiber)や弾性線維(elastic fiber)のような線維成分と,細胞を含む基質から構成されている。われわれが戦前おそわつたような細網(格子,好銀)線維と呼ばれる線維も,その周囲をとりまく物質に多少の差はあるにせよ最近の研究では,電子顕微鏡(電顕)的にも生化学的にもcollagenとして扱われるのが正しいと考えられるようになつて来つつある。このことからもうかがえるように,約20年この方,電顕の応用によつてこの方面の研究も驚くべき進歩がもたらされた。たとえば,collagenを構成する高分子蛋白maculomolecule(いわゆる分子)1コの大きさや性質までも明らかにされ,しかも直接電顕下に観察が可能で,さらに10〜20年前までは線維芽細胞のまわりに,はたしてどのようにしてcollagenが形成されるのかも明確でなく,2・3の有力な説に分かれて論議されていた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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