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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学16巻4号

1965年08月発行

雑誌目次

巻頭言

日本人の研究に思う

著者: 高木康敬

ページ範囲:P.161 - P.161

 外国ではいたるところで日本人留学生がすばらしい活躍をしており,多くのすぐれた研究に中心的役割を演じているのに全く驚かされる。なかでもアメリカはこの状態が極端で研究室がユダヤ人と日本人に占領されたと嘆く人がいる程である。ところがこのように優れた研究者であるはずの日本人の国内における研究はあまり芳しくない。「日本人は研究のextensionには長じているが,revolutionを期待はできない」ということをしばしば耳にする。もちろん我が国にも独創的な研究はあり,それらは海外でも十分高く評価されているが,全体としてはやはりこの評を残念ながら受け入れざるをえないし,外国での活躍も大部分は優れた学者の許で単なる実験の手としてにすぎないのかとさえ思われる。
 生化学の歴史をみても欧米では分析を主とした古典生化学の基礎が作られその上に動的な酵素化学が発達してきた。そしてそれが確立された後,分子生物学というように一つの流れとなつて学問が発展してゆくのにくらべ,我が国では先に酵素化学をむかえて驚かされ,それを十分消化できないうちに,今また新たに分子生物学を入れる。これではおそらく何年かして分子生物学を完全に理解しないうちに次の新しい学問をまたとり入れねばならないかと案ずるし,このように完全に自己のものを打ちたてることなく,次々とその時代の尖端を輸入するのであれば追随のみに終始して外国との差は大きくなるばかりであろう。

綜説

血管の神経支配

著者: 入内島十郎

ページ範囲:P.162 - P.167

 今,もし十分な量の神経節遮断剤(たとえばhexamethonium bromide,メトブロミン)をヒトに静脈注射すれば,血圧はただちにショック・レベルとなり,脳貧血のため,もはや起立していることは不可能となるであろう。生体の末梢血管には絶えず循環中枢から交感神経血管収縮線維を介してインプルスが送られており,血管を一定の収縮状態に保つている。交感神経節を遮断すれば,このインプルスはそこで途絶するため,末梢血管は拡張して十分な量の血液を動脈系に貯えていることができなくなる結果,血圧の著しい下降が起こることになる。
 血管の神経支配は骨格筋のそれと同様に,まず遠心性神経支配と求心性神経支配に大別できる。遠心性神経は血管運動神経(vasomotor nerve)とも呼び,これはさらに収縮神経(vasoconstrictor n.)と拡張神経(vasodilator n.)とに分類される。前者はその神経の活動により支配血管の径を小とする神経であり,後者は径を大とする神経である。すなわち,収縮神経は血管平滑筋の収縮を起こし,拡張神経は弛緩を起こす。哺乳動物の骨格筋には能動的な弛緩を起こす神経支配は存在しないから,この関係はむしろザリガニの鋏におけるような相反性二重神経支配を想起させる。しかし以下にのべるように,血管に対する収縮神経と拡張神経とは決して相反的に働くものではない。

脂肪組織の生化学

著者: 大野公吉 ,   横山彰

ページ範囲:P.168 - P.176

 まえがき
 脂肪組織,adipose tissueは動物体内のある特定の場所に局在する細胞群からなる。その細胞は主として脂肪を蓄える役割を有し,したがつて脂肪細胞,adiposecellまたはfat cellと呼ばれる。しかし脂肪組織には豊富に毛細血管が分布しているので,血管内皮細胞(en_dothelial cell)が脂肪細胞と共に主要な構成要素である。なお,ある脂肪組織では上記の2種の細胞の間に肥胖細胞,mast cellの存在がしばしば認められる1)。なお,脂肪組織には交感神経の末梢枝が豊富に分布し2),その末端は脂肪細胞や毛細血管には直接関連なく,主として小動脈および静脈,特に後者の血管壁を取り囲んでいる。
 脂肪細胞,adipose cellは間胚葉,mesenchymeに発生的起原を有し,脂肪沈着以前には他の間胚葉性細胞,mesenchymal cellから区別され難い3)

論述

輸尿管の興奮発生とその伝導

著者: 小林惇

ページ範囲:P.177 - P.185

 腎臓において生成された尿は腎盂に集まり,ここより細長い中腔の輸尿管を経て膀胱に至ることは周知の通りである。輸尿管は,組織学的には管の内面を覆う粘膜,輪走および縦走の平滑筋よりなる筋層,および外膜から成り立つているが,この平滑筋の収縮によつて,尿は腎盂より下位輸尿管さらには膀胱へと運搬される。輸尿管の収縮は,比較的長い時間間隔をおいて周期的に腎盂に始まり,その伝導速度もゆつくりしている等の事実のために,平滑筋における興奮伝導のよい研究材料として古くEngelmannの時代から研究されてきた1-6)。Bezler7)は輸尿管の歩調取り部はその腎端にあつて,興奮は常にこの部から始まると考え,この部位に大きい表面電極をおくことによつて緩除な立上り相をもつたいわゆる歩調取り電位を記録した。この様に歩調取り部が局在しており,興奮波がこの部から組織全体に伝播するという様式は,心臓の興奮伝播様式と比較して非常に興味深い。さらに輸尿管の活動電位は,腸や子宮筋などの他の平滑筋と異なつて,スパイク波に続く長いプラトー相を有しており,その波形はむしろ心筋の活動電位波形に似ている。これらの事実は,輸尿管における興奮の発生とその伝導とについて,新たな角度から研究を試み,その結果を総合し考察を加えることの意義を痛感させた。
 ここでは主として,輸尿管歩調取り部の興奮,その伝導速度,および活動電位の波形などについて筆者らの研究を中心に述べることとする。

アンケート

ミトコンドリアの形態について

著者: 品川嘉也 ,   小川和郎 ,   佐藤七郎 ,   山田英智 ,   村上悟 ,   水平敏知 ,   田代裕

ページ範囲:P.187 - P.191

 現在ミトコンドリアの形態については,技術的な限界から,ある程度の一致した見方が生れておりますが,なお未解決な点も多く残つており,今回は身近な問題点をいくつかとりあげてみました。次のことに関し,日頃この問題に造詣の深い方々の意見をあつめました。
 1.ミトコンドリアの超微構造において,膜の形態がネガティブ染色によるときと,超薄切片法による場合とでその電顕像に大きな差を生じますが,これをどのように考えたらよいでしようか。
 2.これに関連して,Greenのいうミトコンドリア膜の分子構造モデルはどのように理解したらよいでしようか。あるいは,これに代るモデルをお考えでしたら,どのようなものでしようか。
 3.クリスタル以外のミトコンドリア内部に含まれるものはどんな構造物で,どのようにその機能を考えたらよいでしようか。
 4.ミトコンドリアの成長についての問題は,将来どんな形で研究が進められるとお考えですか。

実験講座

電子顕微鏡試料作製法—超薄切片法(2)

著者: 五十嵐至朗

ページ範囲:P.192 - P.195

 電顕用固定液として利点の多いglutaraldehydeを用いたとき,極端なミエリン様構造とかミトコンドリアの膨化などをできるだけ少なくするには次の諸点に注意をはらう。1)前号に述べた純度の高い試薬を使用する。2)濃度は1.25ないし6%の間で器官や組織によつてそれぞれに適した濃度を選ぶ。現在のところまだ完全に資料が出揃つていないが,脳では2.5%13),肝臓や膵臓では2ないし3%,腎では1.25ないし3%,筋肉では4ないし6%,また一般に胎生組織ではやや高めの濃度を使用する。3)滲透圧の調節は非常に重要であつて,緩衝液を加えてもなお低張のときは電解質または非電解質を加えてやや高張気味にして使用する。4)固定したのち余分なアルデヒドを洗い出すが,同じ緩衝液と0.2Mないし0.3Mの蔗糖液で洗い洗浄時間を30分以内にとどめる。長くした場合は写真像の背景が明るく抜けて見え,細胞膜の接触部構造の変化像が見られる。組織化学的な面を重視するときはやや長目に洗つた方がよい。5)二次固定には十分時間をかけ,脱水も完全に行なうようにする。以上の点を注意してもなお出現するミエリン様構造物は恐らくその部分に多量のリポイドが存在していることを示しているのであろう。

交見

一丸となつた協力態勢が緊要,他

著者: 伊藤宏

ページ範囲:P.196 - P.202

 戦後間もない頃,笠信太郎氏の「物の見方考え方」という本が出てベストセラーになつたことがあつたが,その中で印象にのこつているのは,日本と英国における国会議員の討議のしかたをたくみに比較論評された個所である。日本人の議論はそれぞれの側の主張が動かし難く定つてしまつていて,討論はただいかにして相手を打ち負かすかということが主眼となる。しかるに英国議会における討論は,両者がそれぞれ定見をもつた上で,はじめから結論を出さずに,討論の間によりよい,より正しい,より目的にかなつた立場を発見し,築きあげてゆくというようなものであつた。医学における基礎と臨床も政党内の派閥のように互いにあげ足とりや繩張り争いをすべきものではないであろう。
 今までこの欄に提出された諸賢の御意見を拝見しても,多くの方々が分化した基礎と臨床が改めて綜合医学(和田教授)の立場を回復することの必要を痛感しておられる。それは綜合研究所(三浦教授)の確立,大学研究室の機構・体制の改革(真下教授,佐野教授).医学が生物学と一線を劃す側面—病態基礎医学(冲中教授)(臨床生理学,生化学,薬理学等)の研究の促進の提唱という形で現われている。

海外だより

ボストンにて—Kuffler研究室から

著者: 大塚正徳

ページ範囲:P.204 - P.205

 厳しかつた北国の冬も去つてボストンは今五月,大学の中庭の木々も緑をとり戻し,ひる時芝生の上は日光浴を楽しむ人々で賑わつています。
 ボストンの街については既に何度も紹介が行なわれたことがあると思いますが,私の印象は案外期待に反して大都会共通のごみごみした,東京と同じような感じでしたが,もつともこれは一つには私の通つているHarvardMedical Schoolや住居がdowntownに近い為もあつて,Harvard大学の本拠がある川向うのCambridgeはもつと落着いた大学街の感じです。

文献案内

蛋白質の生合成について研究するにあたつてどんな本を読んだらよいか

著者: 緒方規矩雄

ページ範囲:P.206 - P.208

 蛋白質の生合成については多くの著書や綜説があり,また最近特に進歩しつつある分野として年々新しい綜説も発表されている。ことに最近この分野は微生物,植物,動物を含めて広汎な研究が相互にからみあつている状態でもあり,これをここに紹介することは浅学の筆者のよくすることではない。ただ私の手許にある本から適当な紹介をさせてもらつたという非常に偏つたものになつてしまつた事をお詫びしておく,また特異な題目ではなく一般的な本や綜説を紹介するにとどめることをおことわりしておこう。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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