icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学16巻6号

1965年12月発行

雑誌目次

巻頭言

基礎医学部の設置を望む

著者: 吉村寿人

ページ範囲:P.261 - P.261

 わが国の医科大学ではいわゆる基礎医学として,解剖学,生理学,生化学,薬理学,病理学,微生物学,免疫学,医動物学などが講ぜられ,それぞれ1〜3単位の講座によつて教育,研究が推しすすめられている。しかしながら今日の基礎医学は,物理学,化学,電子工学,生物学,特に遺伝学,分子生物学などの近接科学の進歩に伴つて飛躍的な発展をとげつつあり,この発展に押されて医学部においては生物物理,電子顕微鏡,放射線基礎医学,高次中枢神経生理学の研究施設または研究室が新設せられ,さらにはビールス,体質医学,遣伝,脳研究所などが独立した研究所として発足し,わが国における旧体制の医学部に入り切らない研究領域の開発を行なつているのが現状である。一方,わが国の基礎医学者のうちで呼吸,循環,消化,吸収,内分泌,排泄などの臨床医学との結びつきの多い領域を専攻する者は甚だ少なく,この人材の不足は学生の教育にも影響し,臨床医学の研究を推進する上に大きい障害となつていることはしばしば臨床医学者より指摘せられている。要するに,基礎医学全般を通じ,生物学としての立場と臨床医学の基礎としての立場の2つの学問の性格をもつているわけである。
 しかも他方において,基礎医学を専攻する若い研究者は近年特に減少する傾向にあり,大学院学生にして基礎医学を専攻するものの数は臨床医学部門の1/3ないしはそれ以下に過ぎないのであつて,将来の基礎医学の発展に大きい危惧を抱かせるものがある。

座談会

『基礎医学はいかにあるべきか』

著者: 吉川春寿 ,   石川浩一 ,   北村和夫 ,   小川鼎三 ,   菊地吾郎 ,   渡辺宏助 ,   熊谷洋

ページ範囲:P.262 - P.272

 基礎医学の振興が叫ばれて久しい。本誌も1年にわたり,諸先生のご意見を掲載してきたが,このたび,その総括として,基礎と臨床の先生方をお招きして,それぞれの立場からの自由な発言をして頂いた。読者諸賢のお考えもお寄せ頂ければ幸いである。
 司会(吉川)この"生体の科学"では,しばらく前から「基礎医学に何を望むか」ということで,臨床の先生方からいろいろなご意見を出して頂き,それに引き続いて,「基礎医学と臨床医学との関係はどうあるべきか」,ということが,主として基礎の先生方からそれに対する答という形で交見欄に載せられました。今日はそこに掲載されたことばかりでなく,基礎医学は,医学の中でどういう位置にあるべきかとか,あるいは,臨床の方との関係はどういうふうになるか,ということについて,もう少しお互いに顔と顔と合わせて話したいという事で,この座談会が企画されたわけです。今日は冲中先生がお見えになれなくて,基礎医学側の方が少し優勢で,臨床側は順大内科の北村先生と東大外科の石川先生お2人になつてしまいました。それに対して基礎の方は,解剖の小川先生,生化学の菊地先生,それから生理の渡辺先生,それから編集委員側として薬理の熊谷先生がお見えになつております。

主題 免疫・2

補体結合反応

著者: 井上公蔵

ページ範囲:P.273 - P.278

 古く1874年にTraubeは新鮮血液が種々の細菌を殺すことを見出しているが,1880年代になると,Buchner,von Fodor,Nuttalらにより新鮮血清による殺菌作用の研究が行なわれこの作用が血清を長く保存したり56°Cに加熱したりすると失なわれることを見出している。1893年から数年間PfeifferおよびIssaeffはコレラ菌で免疫したモルモットの腹腔内にコレラ菌浮遊液を注射し,経時的に腹腔液をとり出して検鏡するとコレラ菌は漸次運動性を失ない膨大して球状体(spheroplast)になり,ついで菌体の破壊が認められた(Pfeiffer現象,免疫溶菌現象immune bacteriolysis)。つづいてBordetはin vitroで免疫血清が細菌を溶菌および殺菌することを見出し(immune bacteriolysis in vitro),この作用は血清を56℃に加熱することにより失なわれる(非働化,inactivation)が,もしこの加熱免疫血清に新鮮正常血清を加えるとこの作用が回復されることを示し,免疫血清中には溶菌現象に関与する少なくとも2つの因子が存在することを明らかにした。

補体の生物学的活性—抗体産生の問題をめぐつて

著者: 西岡久寿弥

ページ範囲:P.279 - P.283

 補体は,その生物学的活性にもとずいて次のように定義されよう。
 「抗原抗体反応の結果,形成された結合物に一定の順序を追つて反応し,その結合物をある種の生体細胞表面に粘着させたり,生体膜の透過性を変化させる機能をもつた,脊椎動物の体液中に存在する一群の高分子物質である」1)

同種移植免疫

著者: 藤井源七郎

ページ範囲:P.284 - P.291

 今日,移植免疫の研究が重視される理由の一つに,外科領域で臓器移植研究の機運が熟し,その技術的進歩と,細胞毒物質の免疫反応抑制への応用がある程度の効果をあげてきたことから,基礎的問題である同種移植免疫反応の研究が要請されていることがあげられる。他方,異種抗原(heterologous antigen)を対象にしてきた古典免疫学—そういういい方があるならば—に,最近のほぼ10年の間に,免疫学的トレランス(immunological tolerance)の現象が,生体の自らの種(species)に属する同種抗原(homologous antigen)を対象とする同種移植において証明されたのをはじめ,同種(homo-),同系(iso-)ないしは自己抗原(autoantigen)を対象とする新しい免疫学の領域がひらけ,腫瘍免疫や自己免疫疾患などの研究が展開されているが,そこでも,同種移植反応は一つの典型であり基礎となつている。同種移植反応では,古典免疫学が扱つてきた液性抗体(humoral antibody)の関与なくしても移植片拒否(homograft rejection)反応がおこるところから,細胞性抗体(cellular antibody),細胞性免疫(cellular immunity)などの概念が導入された。

アンケート

心筋のプラトー電位について

著者: 前川孫二郎 ,   佐野豊美 ,   柴田二郎 ,   中島重広 ,   山岸俊一 ,   田中一郎

ページ範囲:P.292 - P.295

 心筋のプラトー電位はヤリイカの巨大軸索の活動電位には見られない特有な現象であり,その成因に関して種々のご意見があるかと思います。次の2つの質問に対して日頃この問題にご造詣の深い先生のご意見をお聞かせ下さい。
1.(AまたはB)
 A プラトー電位も,ナトリウム説にある修正を施すことにより,結局はNaとKの透過性の変化として完全に説明されると考える。この場合どのような修正を施したらよいか。
 B ヤリイカの巨大軸索にはない,まつたく別の因子を考えに入れなければならない。この場合
   1.Na,K以下のイオンが関与するか
   2.心筋に特有な構造が関与するか
   3.収縮が関与するか
   4.その他の因子が関与するか
2.(CまたはD)
 C 将来AかBかを決定するためにはどのようなことが証明されればよいか
 D 現在すでに決定的だとお考えの場合,Aとお考えの場合はB(Bとお考えの場合はA)の可能性を示す実験をどう解釈したらよいか

実験講座

流量測定法(1)

著者: 入内島十郎

ページ範囲:P.296 - P.299

 医学研究においてしばしば流量測定が必要となる流体は,液体として血液,リンパ液,および尿,気体として吸気および呼気などであるが,ここでは主として血液の流れ,すなわち血流の測定法についてのべる。リンパ液の流れおよび尿管内の尿の流れは,低圧小流量の血流測定法をそのまま用いうるし,尿道からの尿の流出は動脈血流と同様に測定することができるであろう。気体の流量測定についてはここでは一切ふれないことにする。
 血流ほど,種々雑多の測定方法が記載されている生体変量は少ないのではないかと思われる。Kramer1)によれば,固体力学、流体力学,音響学,電気学,磁気学,光学,熱力学,原子物理学のすべてがこの目的のために動員されているという。一般に血流測定法の記述はこれら種々の流量測定法を列挙し比較することのようであるが,おそらくこの講座の目的はそのようなものではなく,もつと実用的なもの,すなわち実際に自分の実験の必要から血流測定を行なうことを余儀なくされた研究者の役に立つようなものであろうと思う。したがつて,ここでは現在のところもつとも信頼性があり.多目的な用途をもつ交流式電磁流量計を中心に話を進めたい。血流計についての総括的な記述は文献1,2)などを参照せられたい。

抄録

「生体運動機構」セミナー(1)

著者: 殿村雄治 ,   ,   ,   ,   関根隆光 ,   山下辰久 ,   山口正弘 ,   久保周一郎 ,   ,   堀田健 ,   八木康一 ,   ,   ,   浅井博 ,   太和田勝久 ,   葛西道正 ,   大沢文夫 ,   Andrew G Szent-Györgi ,   浜浩子 ,   野田春彦 ,   秦野節司 ,   田沢等 ,   大西勁

ページ範囲:P.300 - P.307

 本セミナーは,日米科学協力計画の支援のもとに,1965年9月14日から17日に至る4日間にわたり,東京虎ノ門国立教育会館において行なわれたもので,本セミナーの計画運営は,米側T. Hayashi(コロンビア大学動物),日本側,神谷宣郎(阪大理),江橋節郎(東大医)が当つた。以下はその講演要旨である。
 ミオシンの構造と機能
 筋収縮における基幹反応としてのミオシンのリン酸化
 ミオシン-ATP系から反応初期に遊離するHとPiとを測定すると,ミオシン-ATPaseはATPを2つの異なつた経路をへて分解する双頭酵素(double-headed enzyme)であることがわかる。一つの径路はミカエリス複合体をへての単純な分解であり,他はミカエリス複合体がリン酸化ミオシンに転化して後,はじめておきる加水分解である。リン酸化ミオシンはトリクロルサク酸中で不安定であり,その生成は,ふつうATPase反応をトリクロルサク酸で停止した際に起こる初期のすみやかなPiの遊離として観察できる。リン酸化ミオシンは結合ADPをふくまず,ミオシンのリン酸化に際してはHの濃度は一定である。リン酸化ミオシンは大量の活性炭によつてATPase反応を停めた後に,その懸濁液を低イオン強度においてミリポアフィルターで急速に濾過することによつて単離された。

文献案内

プラスミンの研究をするにあたつてどんな本を読んだらよいか

著者: 岡本彰祐

ページ範囲:P.308 - P.309

 今日ではプラスミン系に関する医学的知識は,ほとんど常識化しようとしつつある。しかし,実際にテーマを選び,研究を行なうに当つて「何を読むべきか」という問題に,簡単に答えることは容易ではない。
 一般に特定のテーマに関しては,特定のいくつかの雑誌を,key journalsとして,いつも注目しているという方法が便宜的である。しかし北里図書館の津田と関口の統計によると,プラスミンの文献にはこのような特定の雑誌への集中化がみられないという(私信)。

--------------------

生体の科学 第16巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?