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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学17巻1号

1966年02月発行

雑誌目次

巻頭言

戦後20年,橋田邦彦先生を偲ぶ

著者: 高木貞敬

ページ範囲:P.1 - P.1

 先生が逝かれてから早くも20年の歳月が経過した。敗戦直後の荒廃と虚脱状態から立上り,建設の努力を始めてみて戦争による10年間の空白の大きさに驚いたのも既に二昔まえのこととなつた。昨年国際生理学会が東京で開催せられ,多くの日本の学者が立派な仕事を発表し,日本の生理学会も戦争中の空白を完全にとり戻したことを示した。地下の先生はどんなにか喜んでいられることであろう。
 戦後20年,「もはや戦後ではない」という言葉を耳にする。しかしすべての面において果してそうであろうか?たしかに生理学,特に神経生理学の領域では日本人の研究の発展は戦前の比ではない。しかし反面生理学の研究に従事する人々の「ものの考え方」がずいぶん機械的になり平板になつたように思う。これは時代のせいとばかりいえないと思う。過去20年間戦争の空白を取り戻すために研究業績をあげることに追われたことは仕方ないとしても,一応世界の水準に達し,国際生理学会をもやり終えた現在,日本の生理学会は戦後第二の段階に入つたのではあるまいか。「よい仕事をしなければならない」という考え方は当然の事ながら,「よい仕事をしさえすれば十分」という考え方に堕してしまい,大きい流れに乗つてただ泳ぎ廻るだけで,根本的な研究する「人」への反省が忘れられ,またはおろそかにされすぎていないであろうか?

主題 筋細胞の興奮性

平滑筋生理学の諸問題

著者: 鈴木泰三 ,   猪又八郎

ページ範囲:P.2 - P.11

 平滑筋の生理学は従来生理学のうちでも特に遅れた分野であつたが,最近神経生理学で開拓された種々の方法を平滑筋の研究に導入することにより,やつと平滑筋の性状を細胞のレベルで論ずることができるようになつてきた。本稿では平滑筋のelectrical activityに関する二,三の問題を中心にのべる。

平滑筋における興奮と抑制

著者: 栗山煕

ページ範囲:P.12 - P.24

 平滑筋についてはいろいろの観点から毎年いくつかの総説が報告されている。1964年に発表されたSchatzmannの"Erregung und Kontraktion glatter vertebralen Muskeln"には平滑筋について最新の知見が網羅されており,また研究の現状に対して適確な批判も述べられている。したがつて今さらくり返し述べる必要はないと思われる。そこでここではそこに疑問とされた問題やまた最近の研究によつて得られた興奮と抑制の機序の新しい説明について述べる。たしかにこの領域の学問の発展はめざましいものがあり,数年前に知られていたよりももつと複雑な像を示すようになつてきている。そのかわり今まで不合理に解釈されたりあるいは逆に解釈されていた現象を正しく説明することができるようになつた。
 平滑筋の種類のなかには抑制され得る型のものが存在し,この型の平滑筋では興奮は自働的に発生する(第1図参照)。またそうでない型の平滑筋では興奮は神経のインプルスに由来する(第2図参照),この現象は骨格筋の運動終板でみられるものと同様な過程によると考えられる。もちろんだからといつて平滑筋における神経支配に関する研究が不心要だというのではない。むしろ最近の電気生理学的研究と電子顕微鏡学的組織学の発展とあいまつて機能的に不明な問題点が明瞭になつてきた。

Ca—スパイクの生理と薬理

著者: 萩原生長 ,   中島重広 ,   高橋国太郎

ページ範囲:P.25 - P.34

 はじめに
 Hodgkin18)らケンブリッジ学派の提出した,神経興奮に関する「Na学説」は画期的なものであつた。しかしながらた近年,種々の興奮性組織について「Na学説」と一見矛盾する事実が,つぎつぎと発見されてきた。その中の重要な問題の一つは,「Naなし興奮」という現象であろう。古くから,Lorente de Nóらは27,28),蛙の神経線維の興奮性が,外液のNaがない場合でも,4級アンモニウムイオンや,その他のonium ion中で,保たれているという事実を報告してきた。この系列の研究は,Koketsu22-25)らに引きつがれ,さらに最近ではTasaki,Slnger,and Watanabe43)が,巨大神経軸索灌流法という,もつとも進歩した実験法を用いて発展させた。
 「Naなし興奮」に関し,もう一つの重要な局面は,二価イオン,特にCaイオンが,Naの代りに,活動電位発生の際の内向き電流を運ぶことが,数種の材料について見出されてきたということであろう(以下これをCaスパイクと呼ぶ)。

アンケート・7

アイソザイムについて

著者: 大河内寿一 ,   服部信 ,   和田博 ,   瓜谷郁三 ,   小野哲生 ,   坂岸良克 ,   荻田善一 ,   勝沼信彦

ページ範囲:P.35 - P.39

 ここ数年来のアイソザイムに関する活発な研究により,基礎から臨床まで多くの成果をうみましたが,研究の観点が多岐にわたるため,専門以外の人には曖昧な点もないわけではありません。つぎの諸点について,日頃この問題に造詣の深い方方の意見をあつめました。
 1.基質特異性のきわめてよく似た,しかし物理化学的に異なつた分子種と認識される2つの酵素があつた場合,ただちにこれをアイソザイムと呼んでよいでしようか
 2.アイソザイムの分化は細胞や組織の分化の際の随伴的現象ではあるが,何か積極的に生体の(あるいは局在している場所の)機能と結びついているとお考えですか
 3.医学と生物学の領域で,アイソザイムを指標にしてえられた重要な成果のうち,もつとも興味のあるものを1つご紹介下さい(もちろん御自身のお仕事も含みます)。またアイソザイム研究の将来の発展の見通しについて

実験講座

流量測定法(2)

著者: 入内島十郎

ページ範囲:P.40 - P.45

 ■ 交流式電磁流量計の電子回路
 第5図はKolinら16)により開発された交流式電磁流量計のブロック線図であり,第6図Ⅰ-Ⅳにその電子回路の全容を示してある。
 まず第6図Ⅰの音叉Fを用いた発振器により400サイクルの正弦波を発生させ,これを第6図Ⅱの電流増幅器により増幅し,0.2-1Aの400サイクル正弦波電流により電磁石C1,C2を励磁する。このとき生ずる磁界は
 H=H0 sin ωt (16)
となる。もちろんω=2π×400である。式(16)を前号で示した式(15)に入れれば,血管に接した誘導電極E1,E2(前号第4図参照)に生ずる起電力が得られる。すなわち,
 e=H0 ν sin ωt (17)
したがつてeを適当に増幅し,整流すれば平均流速vが求められるはずであるが,誘導電極E1-E2の間は血管および血液により短絡されており,誘導回路はループを形成し,捲き数1のコイルと等価となつているので,コイルC1,C2にかかる交流電圧はこの誘導側のループに誘導起電力を発生する。これはあたかも変圧器の1次コイルが2次コイルにおこす効果と同じであるから,変圧器効果(transformer effect)と呼ばれる。

交見 「生理学者は生化学者に何をのぞむか」/「生化学者は生理学者に何をのぞむか」

機能にむすびついた生化学研究に期待,他

著者: 内山孝一

ページ範囲:P.46 - P.48

 わがくにの生化学は,東大の生理学者大沢謙二教授(日本生理学の父)の卓見と,ドイツで生化学を専攻した隅川宗雄が東大生理にいたことにより,1893年東大生理の一部に生化学が生理学から分れて独立したのがはじめである。
 生化学者の研究が生理学の中で十分にすることが不可能となつた。生理学者が生理機能の研究を進めていくうちに,その内容が豊富となり,生化学を分けなければ,どうにもならなくなつたからである。

海外だより

Ciba Foundationシンポジウム "Touch, Heat and Pain"

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.50 - P.52

 さる9月21,22,23日の3日間にわたり,"Touch,Heat and Pain"というシンポジウムがロンドンのCiba FoundationにおいてO. E. Lowenstein教授の司会で開かれた。筆者もspeakerの一人として招待されたので,9月19日に東京をたち,Cibaシンポジウムに参加したのち,スコツトランド,アメリカ,オーストラリアと旅行して,11月9日に日本にかえつた。次にその概要を記してみたいと思う。
 Cibaシンポジウム"Touch,Heat and Pain"は,講演者の講演題目を指定してあること,参加者がきわめて少数にしぼられていること,討論の時間を長くして上記問題の基礎的面について詳細な討論をなしたという点で,きわめて特色のあるシンポジウムと考えられる。このシンポジウムに発表された論文は,まとめて単行本としてちかじか出版される予定であるが,以下にその内容の概略を記してみる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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