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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学17巻3号

1966年06月発行

雑誌目次

巻頭言

学会などにおける討論のやり方

著者: 藤森聞一

ページ範囲:P.105 - P.105

 若い時代には,学会発表のさい司会者や先輩から一言でもほめられると,その嬉しさはなかなか忘れられず,反対に手きびしくやられた場合にも悪印象が長く残るものである。
 自分のこのような経験から,一般学会などでは討論に手びかえをしなければならないかとも考えられるわけである。しかし真剣な研究者の集まりであるシンポジウムや班研究などでは,このような斟酌なしに卒直な意見の交換を行なうことが望ましく,ただその場合,感情を混えずにどこまで学者として冷静な討論ができるかが問題であろう。

主題 微小循環

微小循環の問題点

著者: 高木健太郎

ページ範囲:P.106 - P.111

 I.神経支配
 終末血管床と神経系との関係については明らかでない部分が多い。真性毛細血管には運動性の神経支配のないことはまちがいがない。組織学的に無髄の細い線維の網目(Boeke's terminal reticulum)で取囲れているのが見られる。これが知覚神経という人もあるが,神経かどうかを疑う人もある**。一般に神経線維は毛細血管を足場にして組織に入りこむ故に,神経と毛細血管の関係はどちらにしろ機能的ではなく状況的である。
 methylen blueで生体染色をして強拡大しても終末細動脈と前毛細血管の大多数では筋細胞に神経線維が終つている状態は見られない。しかし薬物学的には2種のadrenergic神経と1種のcholinergic神経とを区別しているが,直接の証拠はない。

毛細血管の電子顕微鏡的形態学

著者: 山元寅男

ページ範囲:P.112 - P.133

 はじめに
 毛細血管は,血液循環器系機能の究局目的である血液と組織との間の物質交換の場である。したがつて,その構造は物質交換という重要な機能との関係において理解されなければならない。
 血液と組織液との間には,大量の水と溶質とが毛細血管を通して絶えず交換されているが,それがどのような機構によつて行なわれているかは古来生理学者および形態学者の興味を惹き,それに関する多くの研究がなされてきた。従来の光学顕微鏡的研究により,1)毛細血管はその周りに格子線維の纒絡した内皮細胞管であり,2)その血管壁に物質の透過性が認められること,3)組織内に複雑な網構をなして分布すること,しかも4)物質代謝の盛んな組織ではその網構分布が密で,毛細血管の態度と組織機能との密接な関係を示唆する多くの知見が得られてきた。しかし,毛細血管壁の物質透過性に対する形態学的裏付けが可能となつてきたのは,電子顕微鏡が組織学の分野に導入されるようになつてからである。

交見 「生理学者は生化学者に何をのぞむか」/「生化学者は生理学者に何をのぞむか」

共同の大きい旗のもとに両者の学は相補ない相助けよ,他

著者: 竹中繁雄

ページ範囲:P.134 - P.136

 50年前なら生理学を親の家と思つて下さる生化学者も多かつたので,「生」について研究しにくいことがあれば生理学へ相談しなさいと言わねばならなかつた。「生」の問題をふたつに分けることはできないから生理学と生化学とは先棒をかつぐか,後の方をかつぐことになる。この前となり後となつて共に担うということは困難なことであつて,生理学にかつがせる生化学者も多かつた。
 私は日本語の自生理学」は徳川時代の人身窮理を明治にはいつて改めたもので,現在のアメリカのPhysiologyに当るものではないと思う。現在アメリカにはPhysiologyand Biophysicsという部局があるが,日本語の「生理学」はPhysio-10gy and Biophysicsと英語で示すのがよい。そしてPhysiologyを「古典生理学」といい,Biophysicsを「生理学」という方がよいと思う。なぜなら古典生理学よりもBiophysicsの方が「生」の問題を一層力強く担つているからである。アメリカのPhysiologyと日本の生理学とが独英から受入れた時期もその程度も違い,また発達が違うからにはアメリカ流のPhysiologyを日本の生理学と違うとしても必らずしも誤まりではない。

実験講座

流量測定法(3)

著者: 入内島十郎

ページ範囲:P.137 - P.141

 心拍出量の測定
 上行大動脈に電磁流量計ヘッドを装着すれば心拍出量を測定することができる。冠動脈よりも末梢で血流を測定することになるから,実際に測定されるものは(心拍出量)—(冠動脈血流)であるが,冠動脈血流は心拍出量の5%程度に過ぎないから,普通はほとんど問題にならない。
 ネコやウサギにおいて上行大動脈に達するには普通正中胸骨切開(median sternotomy)を行なうが,イヌの場合には左の第3または第4肋間を開く方法の方が出血が少なく優れている(文献26参照)。いずれの方法による場合でも,心拍と共に拍動している大動脈を周囲組織から遊離し,大動脈の外壁にあつて,ヘッドの電極との接触に障害となる脂肪組織を除去し(この脂肪組織は出血し易い),第9図(前回)に示したようなヘッドのシヤッターを通す狭い間隙を通して素早く大動脈を押し込み,さらにシヤッターをその間隙に戻して大動脈にヘッドを安定させる操作はやや修練を要するが,装着後閉胸し,適当に気胸を取除けば,自然呼吸の下に実験することができる。電気的測定法であるから,動物をどこかで適当にアースすることが必要であるが,シールド室へ入れる必要はまつたくない。ただ,動物の体につけた止血鉗子などが相互に接触したり,これが接地したりすると雑音が入るから注意を要する。なお,血流測定中ヘッドの近くに鉄でできたものを近付けると磁界が変るからやはり測定誤差の原因となる。

アンケート・9

「平滑筋について」

著者: 栗山煕 ,   福原武 ,   横山正松 ,   玉重三男 ,   市河三太 ,   川端五郎 ,   白鳥常男 ,   田北周平 ,   鈴木泰三

ページ範囲:P.143 - P.147

 平滑筋細胞間における興奮あるいは収縮の伝播の問題については,現在非常にまちまちな意見が述べられてしるようですが,日頃この問題に造詣の深い方々の意見をあつめました。
 1.先生のご経験から次の考え方についてのご批判をお聞かせ下さい。
 (A)細胞と細胞との間に明らかな間隙のあるsynapseと同様の伝達様式を考えた方がよし
 (B)細胞間橋があつて原形質的な連絡のあるsyncytiumを考えた方がよい
 (C)細胞間橋はあつても原形質は境界膜で仕切られているnexusを考えた方がよい
 (D)隣接細胞と限局した部分で接触するephapseを考えた方がよい
 (E)構造のいかんに関わらずある細胞の収縮によつて隣接細胞は伸張され興奮しうる
 (F)興奮の伝播は神経を介して行なわれる。
 2.今後どんな点がはつきりしたらこの問題が解決されるでしようか。将来の見通しなどをご放言下さい。

抄録

「生体運動機構」セミナー(3)

著者: ,   酒井敏夫 ,   ,   名取礼二 ,  

ページ範囲:P.148 - P.149

□ 収縮弛緩サイクルの調節と小胞体
 筋原線維の弛緩に関する諸問題
 十分量のMgとATPが存在する時にのみCa除去によつて,無傷の筋原線維(江橋の蛋白を含んでいる)の弛緩が起きる。Mgは筋原線維からCaを引き離す(pCaが8のとき,Mgを加えないならば,筋原線維はCaで半飽和に保たれている)のに必要なだけでなく,結合Caの大部分が除去されたあとにシネレシスが起きるのを妨げるのにもまた必要である。筋原線維のシネレシスは,0.5〜1.2μmole/g‐筋原線維の結合Caがある場合Mg存在下では完全に阻害されるが,Mgを加えない場合は85%の程度のシネレシスが起き得る。ATPの濃度が4μMよりも低い場合は,ATPase活性はCa除去によつて阻害されることは決してない。0.1mM ATPのときにのみATPase活性は最低値に達する。同じようにATP濃度が10μMに達するまでは,Caがあろうとなかろうと,部分的シネレシスの起こる程度は同一である。Caのある場合とない場合のATP結合量を比較検討して,われわれは丸山とともに,Caがない場合の方がATP結合量が多いことを見いだした。このATP結合の増加は,江橋によつて示されたように,トリプシン処理によつて弛緩能力を失つた筋原線維では見られない。

文献案内・8

ポリサツカライドの研究をするにあたつてどんな本を読んだらよいか

著者: 山川民夫

ページ範囲:P.150 - P.152

 医学書院からの左記のような依頼をうけて,うつかり引き受けてしまい,もつと適当な人があると思うのだが,締切も迫つているので,私の目にふれたものを思い出しながら,短評と紹介をしてみたい。
 唯,恐らく来年初めには共立出版から「多糖生化学」上,下二部が予定されているし,朝倉書店から「生化学研究法」が出版される中に西沢一俊教授が糖質研究法を編集されるのでそれらも期待してよかろう。何といつても日本語で書かれたものの方が便利なので,間違いさえなければそれにこしたものはないが旧版の「多糖類化学」(左右田,江上編,共立出版,1955)は,少しクラシカルではある。同様に河出書房の化学実験学の中,天然物取扱法Ⅰに荒木教授が書かれているのも,オールドフアンにはなつかしく未だ役立つ部分が多い。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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