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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学17巻4号

1966年08月発行

雑誌目次

巻頭言

脳研究の重要性と将来

著者: 白木博次

ページ範囲:P.153 - P.153

 脳を中心とする中枢神経系は,身体各器官の諸機能を統御する最重要の器官で,複雑,難解を極め,医学と生物学の両分野で,最もひろい未知領野を残すのに,過去数年間のわが国の死亡統計をみると,脳卒中や脳出血による死亡数はその最高位を,脳外傷のそれも第4〜6位を占め,さらに急増しつつある。したがつてすべての脳疾患の死亡数は膨大な数にのぼることはもとより,精神活動に密接する脳の損傷,また遺伝因子に規定され,狭義の精神病はもとより,精神薄弱や性格異常が発生し,数多くの社会問題を醸成しているのは衆知の通りである。以上の傾向はまた世界的なもので,脳研究関係の多数の国際学会と,それらの連合母体的機関,たとえば臨床関係では,世界神経学連盟,世界脳神経外科学連盟,世界精神医学連盟,また基礎関係では,国際脳研究機関(International BrainResearch Organization,略称IBRO)などは,わが国にもその緊密な協力方を強く要請してきている。
 ひるがえつてわが国の脳研究の重要性の認識と推進方法については,戦後,文部省の国立大学研究所協議会において,癌とともにとりあげられ,文部省内に癌・脳小委員会の設置をみた一方,1962年9月の日本学術会議総会においては,脳研究連絡委員会(略称,"脳研連")の設置が満場一致可決された事実となつて現れている。

主題 微小循環

毛細血管の血管構築

著者: 小川義雄

ページ範囲:P.154 - P.167

 まえがき
 心臓からでた動脈系が毛細血管系となり,さらに静脈系を経て心臓に還る循環路のうち,毛細血管領域は灌漑する組織,器管により,その分布様相が種々で,それぞれの組織,器管の機能に応じた合目的な形態変動を示すものと考えられる。
 一般に毛細血管領域とは内皮細胞,基底膜およびこれらを取りまく少量の結合組織から成る管腔で,組織細胞と血液との間の物質交換が行なわれる部位であり,組織,器管によりその機能に相違のあるごとく,血管壁構造にも当然差異が認められる。最近の電子顕微鏡的な検索ではその詳細な観察像が図示され1),またこのような血管壁構造の差異は,毛細血管領域における分布様相にも関連し,その循環路は簡単な,平面的な網目を形成するものから,複雑な,立体的な網工を示すものへと形態変化を伴つているようである。この毛細血管領域における循環路の変化を,それぞれの組織器管ごとにまとめて相互に比較し,機能に応ずる合目的な分布形態をみようという試みが,臓器組織における毛細血管の血管構築的な検索となるのである。

血流のレオロジー

著者: 岡小天

ページ範囲:P.168 - P.174

 はしがき
 過日編集部より「血流のレオロジー」なるテーマで原稿執筆の依頼があり,引受けはしたものの,このテーマの範囲は私にはそうはつきりしていない。おそらく「血流のレオロジー」はヘモレオロジー(hemorheology)や,血行動態(ヘモダイナミックス,hemodynamics)の分野を意味するのであろう。しかし主題が「微小循環」になつているとのことなので,なるべくそれにそうように配慮しながら記すことにした。もつとも「血液のレオロジー」なるテーマもあるが,私は必要最小限度に止めた。
 血行動態は心臓・血管系における血液の運動,循環を研究する生理学の一分野である。血液の運動を論ずる際には血液の流動的性質や血管の力学的性質が基礎になり,これらを研究するのがヘモレオロジーである。歴史的には血行動態の研究の方が早く発展し,ヘモレオロジーは最近急速に発展しはじめた新しい分野である。一般的なレオロジーの発展にともなつて血液や血管という特殊な物体を対象とするレオロジーが発展したわけである。

アンケート・10

「Transportについて」

著者: 岸本卯一郎 ,   山田英智 ,   須田正己 ,   遠藤実

ページ範囲:P.175 - P.177

1.active transportはtransportあるいは透過性の問題の一部をなして いるものでしようが,生物あるいは細胞にとつてtransport全体からい つてどの程度の重要性をもつているでしようか
2.上記と関連して生命の発生のどの段階でactive transportが発生した とお考えですか
3.多くのtransportにcarrierないしは中間体が仮定されながら,物質 としてはいまだに全くとらえられた事がない現状をどうお考えですか
4.pinocytosis, phagocytosisを含めて細胞膜はどの位,代謝回転を示し ているものでしようか(他の細胞内小器官と比較して)
5.多くのホルモンの作用点として細胞膜のtransportがあげられていま すが,今後に残された問題とはいえ,現状ではtransportの問題の過 大な評価でしようか。それとも,もつと多くの努力をはらうべき価値あ る領域でしようか

実験講座

位相差顕微鏡と干渉顕微鏡—その構造と有効な使い方

著者: 水平敏知

ページ範囲:P.178 - P.182

 ■ 位相差顕微鏡の歴史
 われわれ人間の眼は,明暗の差や色の差を識別する能力はかなりすぐれているが,ガラスのように透明な物体になると,よほど大きい傷やよごれがつかないとなかなかこれを見分けることができない。光学顕微鏡が医学・生物学を今日の発展に導いた偉大な礎の1つであつたことに間違いはない。しかし,なまの細胞や菌などのように透明で明暗・色調の差に乏しい物体を見ても,それらの内部の細かい構造を知ることは甚だ困難である。われわれの先輩達はそのために絞りをうんと絞つて見ることや,組織などを固定・染色して強い色調の差をつくり出して観察することを教えてくれたが,しかし生きているままでそれらの形態や微細構造の詳細を知ることはほとんど不可能なこととされていた。
 ところが,1935年,オランダのF.Zernikeは透明な物体でもそれらの中にごくわずかに存在する屈析率や厚さの差(位相差)をとらえ,顕微鏡の光路中に特殊な仕掛けを施すことによつて,その位相差をわれわれの眼で識別できる明・暗の差になおして見ることに成功した。これはAbbeが前世紀の終りに出した輝かしい光学理論以来のすばらしい業績というべきで,そのおかげで生きている細胞でも,菌でも,原虫でもなんら染色を施したり処理することなしに,鮮明にそれらの形態や微細構造を知ることが可能になつたのである。

交見

医学部の教育課程について

著者: 山本郁夫 ,   杉江三郎 ,   松田勝一 ,   問田直幹 ,   山田肇

ページ範囲:P.183 - P.186

 医学部における教育の主眼が,臨床医の養成におかれ,医学者ことに基礎医学者の育成という点には全く顧慮が払われていないことは万人の認めるところと思います。このようなことでは生命科学の時代といわれる今世紀後半に,真に基礎医学者の名に値いする人がやがていなくなるのではないかと憂える声のあるのは尤もなことです。
 では,我々はどのようにして基礎医学者を養成すべきか。その教育課程はいかにあるべきか。このような点について,諸賢の意見を伺つてみました。

文献案内・9

Feedback機構を研究するにあたつてどんな本を読んだらよいか

著者: 畠山一平

ページ範囲:P.187 - P.190

 Feedbackという言葉は現在においては専門語というよりも一般日常語といつてよいくらいに普及するようになつた。私も生理学の講義で大学生諸君にこの言葉を紹介し,その概念を解説し,乱用を慎むよう注意しているのであるが,試験の答案の中で簡単な反射機構を説明するのにこのfeedbackという文字を用いる者が少なからずいる。そこで試みに"負フィードバックについて述べよ"といつた問題を出したところ満足な解答を行なつた者は皆無に近い状態であつた。私に与えられた課題に解答するに際し先ずfeedbackの概念を確実に把握するための基礎から始めることをおすすめする次第である。
 とはいつてもこの概念をわかりやすく解説した書物をそのものずばりで紹介するというわけにはいかない。本誌が対象としている生物学畑の人々にとつては何といつても生物学におけるfeedbackの概念の哲学が大切であり,その入口として次に述べるような単行本や論文をおすすめしたい。

報告

肝癌細胞の電気生理学

著者: 菅野義信

ページ範囲:P.191 - P.198

 はじめに
 ショウジョウバエ(Drosophila flavorepleta)の幼虫の唾液腺を用い,細胞内核膜の研究を行なつていた当時,しばしば核膜を傷つけることなく細胞膜を破壊し,核を外液に露出させ,電気的性質を測定した13)14)18)。細胞膜の破壊,あるいは穿孔により,電気的には細胞膜静止電位を消失(完全に脱分極)させると,隣接の細胞には何らの損傷を加えないにも抱らず,まもなくその細胞の静止膜電位も消失することに疑問を覚えた。たまたま1962年,Atlantic Cityでの生理科学連合会で当時LosAngelesのU. C. L. A. におられた萩原教授にお会いする機会があつた。この疑問を話したところかつて蚕糸試験所の石川氏とカイコの唾液腺を調べた所見と同様であり,この研究はその後中止していることを伺い得た。
 翌年Woods HoleでKuffler研究室のFurshpan,Nicholls,Potter氏らと意見交換の機会があり,その年の秋よりColumbia大学Werner R. Loewenstein教授と共にこの問題に取り組むことになつた。

抄録

「生体運動機構」セミナー(4)

著者: ,   神谷宣郎 ,   黒田清子 ,   上坪英治 ,   ,   団勝磨 ,   平本幸男 ,   ,   ,   木下清一郎 ,   内藤豊 ,   安増郁夫 ,   木下治雄 ,   ,   朝倉昌 ,   江口吾郎 ,   飯野徹雄 ,  

ページ範囲:P.199 - P.204

 □ アメーバ運動と原形質流動
 アメーバ(Chaos chaos)の膜と原形質の運動について
 巨大アメーバ(Chaos chaos)についての最近の研究から飲細胞運動(pinocytosis),食細胞活動(phagocytosis)および,イオン的なまた浸透圧的恒常性の調節は緊密な相互関係があることが示された。これらすべての本質的な作用は,膜の運動の動的なサイクルと,膜から原形質,原形質から膜へと細胞内で起こる形態変化に依存しているのである。
 この動的な輸送の系の原動力が原形質流動に関与しているのと同じサイクルによつて与えられることを指し示す結果が得られたので,われわれは原形質の性質についての今までの仕事(Marshall, Shumaker, and Brandt, Ann. N. Y. Acad. Sci., 18, 315, 1959;Thompson andWolpert, Exp. Cell Res., 32, 156, 1963)をさらに発展させた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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