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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学17巻5号

1966年10月発行

雑誌目次

卷頭言

「基礎医学振興」について

著者: 中井準之助

ページ範囲:P.205 - P.205

 基礎医学を振興させるためには多くの問題を根本的に解決しなければならない。考えてみれば,それは基礎医学だけでなく,一応隆盛をきわめているかに見える臨床医学にも当てはまることであり,日本の科学すべてが,本気で振興を考えなければならぬ底の浅さを露呈していることに気づく。
 いまは,しかし,問題を基礎医学に絞り,さらに専攻者の確保と,テクニシアンの問題だけとしたい。「振興」を叫ばれた先輩方は,かつて旧制学位論文のための,経済的にも将来のポジションについても指導者をわずらわさずに済んだ夥しい研究者に恵まれた最後の教授達であり,それゆえに新制度が生んだ変化が一種の危機感を呼んだとも解釈される。正確に調べれば,おそらく昔も今も医学科出身の基礎医学専攻者は数において大きな差はないのではないか。

主題 微小循環

微小循環の研究方法

著者: 入沢宏 ,   二宮石雄

ページ範囲:P.206 - P.213

 従来,微小循環の研究は顕微鏡による血行の観察または大きな血管を含む末梢血管の血流量や容積変化の測定から微小血管野の諸現象を類推するという方法をとつてきたために,直接微小血管系の物理的な計測は十分な検討が行なわれなかつた。この論議はWiederhielm,Rushmerらによつて主として発展された電気的方法および筆者ら自身の方法を紹介し,微小循環の研究には積極的な新方法のとり入れと現象の物理学的な整理の方法とが望ましいことを述べている。
 微小循環という特殊な学問の分野が多くの人々に認識せられるようになつた理由を考えてみると,多くの末梢循環調節についての概念が,比較的口径の太い管系(すなわち動脈や静脈)の内圧や流量の測定を基にして組立てられており,その間にある微小循環内の諸現象は外挿的に想像考察し,顕微鏡的にしか観察できない毛細血管流域の血流についての知識は全く欠如していたため,特に再検討の必要性が生まれたと思われる。それでは,微小循環については全く研究がなかつたかといえば,歴史的には顕微鏡の進歩と共にきわめて古くから血行の観察がなされていたことは,西丸の綜説1)2)に明らかな通りである。現在でも,医学や生物学の各分野で微小循環系への興味はきわめて多く,あるいは形態学的に,あるいは生理学的にまたは臨床医学的に研究が行なわれていることは周知の通りであろう。

毛細血管の透過性

著者: 森堅志

ページ範囲:P.214 - P.223

 毛細血管の透過性については医学の各分野からすでに幾度となく論ぜられていて,この雑誌の3号にも高木健太郎教授28)が生理学的立場からまた山元寅男教授29)が形態学的立場から述べておられる。
 われわれ形態学の立場から最も問題になることは,物質が毛細血管壁を通過する時,内皮細胞内を通過するかあるいは内皮細胞間を通過するかという点にある。電子顕微鏡所見による研究以前は,生理学解剖学ともに物質の主な通路は内皮細胞間である事にほとんど一致していた。しかるに電子顕微鏡による形態学的所見から内皮細胞間通過はほとんど否定され,もつぱら物質は内皮細胞内をvesiclesまたはvacuolesによつて運ばれて通過するといういわゆるpinocytosisによる説が支配的になつている。また物質の毛細血管の透過について一般に生理学で教えるところによれば,物質の透過は毛細血管のみによつて行なわれ,この際,動脈性毛細管から物質が組織へ出て組織からは静脈性毛細管へ物質が吸収されるといわれている。われわれが多年行なつてきた実験や生体観察の結果によれば,ことに以上の二点に関し異なる成績を得ているのでまずそれについて記述し,次に透過性についての形態学的根拠の今までの変遷とわれわれの見解について若干述べて見たい。

色素法による微小循環の研究—粥状動脈硬化治療剤(Pyridinolcarbamate)の末梢循環への働き

著者: 藤田勉 ,   須永俊明 ,   久保田昌良 ,   石井恭正 ,   佐々木俊明

ページ範囲:P.224 - P.231

 はじめに
 全身の臓器および組織は微小循環によつてその栄養の補給を受けている。動脈系もその例外であるはずがなくvasa vasorumによりそのェネルギー源が供給されている。この事実が判明した時は驚くべきことに1964年Clark1)にょつてである。Clarkは微小循環研究法上きわめて新らしいX-ray micrographyを応用して人の大動脈栄養血管の分布を調べ,大動脈壁におけるvasavasorumの分布は内膜直下にまでおよぶ事を発表し,Aschoff(1908)2),Woerner(1959)3)らの「動脈壁におけるvasa vasorumの支配は中膜外側3分の2で,内膜および中膜内側3分の1はavascularでその栄養は直接内腔の血流から受ける」という記載を見事にくつがえした。
 一方,動脈硬化症の発生機構に動脈内壁の透過性異常が関連している事は,すでに19世紀後半Virchow4),20世紀に入つてもRössle5)やSchürmann & Mcmahon6)らによつて指摘されている。その後,粥状硬化症治療の研究はおもに脂質代謝にその目が向けられ血管透過性異常の面からの研究はきわめて乏しく,現在粥状硬化症の治療剤の開発はほとんどなされていない。

実験講座

リン脂質の分離精製法(Ⅰ)

著者: 下条貞

ページ範囲:P.235 - P.240

 生体組織のリン脂質は一般に不飽和脂肪酸に富み不安定であるから,これを分離精製するときは可及的に変性せぬよう注意せねばならない。また従来,種々のリン脂質分離法が報告されているが,収量の低い分離法では特定の脂肪酸組成を持つリン脂質のみが選択的に分離され,高度不飽和脂肪酸に富むリン脂質を逃がす可能性があるので留意を要する。

アンケート・11

スライド説について

著者: 真島英信 ,   玉重三男 ,   名取礼二 ,   葛西道生 ,   八木康一 ,   遠藤実

ページ範囲:P.241 - P.244

 A. F. HuxleyとH. E. Huxleyが,独立に,しかもそれぞれ異なつた根拠に基づいて,いわゆる"sliding mechanism"を提唱してから,はや12年を経過しました。この説は,人々の意表を鮮やかについたものとして,ひとり筋研究者ばかりでなく,他領域の研究者に大きな波紋を投げかけたことは周知の通りです。
 すべての画期的な学説がそうであるように,この説にも数多くの反論が次々と投げかけられました。しかし,そのいずれも不発に終るか,あるいは致命傷を与えるに至らず,最近ではどうやら,確立された説として教科書などでも取り扱われるようになりました。
 しかし,この説には,本当にもはや疑問はないのでしようか。このような段階において,皆様の忌憚のないご意見を承ることは,筋研究の前進の為にきわめて重要な意義をもつものと考えます。なお以下の質問は,お考えをまとめられる上のご参考ともなればと記しましたもので,これに拘わることなく,自由にご討論いただいて結講です。
 1.この説に対し,具体的な反論をおもちでしたらぜひお聞かせ下さい。一応弁明済みとなつている問題も,その解答が不充分と思われる場合は,問題点を指摘して載ければ幸いです
 2.この説を支持されるとして,現在まで与えられた証明で充分と考えられますか。あるいは,さらにもつと積極的な証明を必要とお考えですか。それはどのようなことでしようか

交見

医学部の教育課程について

著者: 額田粲 ,   陣内伝之助 ,   川村太郎 ,   勝木保次 ,   中井準之助 ,   三浦義彰 ,   野田春彦

ページ範囲:P.246 - P.250

 医学部における教育の主眼が,臨床医の養成におかれ,医学者ことに基礎医学者の育成という点には全く顧慮が払われていないことは万人の認めるところと思います。このようなことでは,生命科学の時代といわれる今世紀後半に,真に基礎医学者の名に値いする人がやがていなくなるのではないかと憂える声のあるのは尤もなことです。
 では,我々はどのようにして基礎医学者を養成すべきか。その教育課程はいかにあるべきか。このような点について,諸賢の意見を伺つてみました。

文献案内・10

ステロイドホルモンの化学と代謝(生合成を含む)の研究をするにあたってどんな本を読んだらよいか

著者: 玉置文一

ページ範囲:P.252 - P.256

 研究をはじめるにあたつて,どの点で新しい仕事をはじめようとするのか,またそれに関して,自分はいかなる所が無知であるかを,正しく認識しなくてはならない。漠然と文献をよみ,または盲目的に実験に従事したり,いたずらに,他人の行なつた結果を集積しても,創造的な研究の発展は期待できないと思う。漫然と文献を紹介しても,果して役立つかどうか覚つかないが,これからのべる文献が足がかりとなつて効率よく知識をとりこむための一助となり,また研究の発展のための礎となれば幸である。
 ステロイドの化学に関しては,本誌の読者が広い意味での生物学の分野に属すると思われるので,有機化学に関する文献を省略し,基礎的なものと,代謝研究に役立つ化学反応や,物理化学的方法を簡単に紹介するに止めたい。しかし,ステロイドの生化学の一つの特徴は,あくまでも,ステロイドの化学構造の上にたつての生化学であつて,巨大分子のそれとくらべると,有機化学的傾向が強く,低分子化学での厳密さが要求されることはあらためて申すまでもない。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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