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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学17巻6号

1966年12月発行

雑誌目次

巻頭言

生物物理学研究の多様性

著者: 右衛門佐重雄

ページ範囲:P.257 - P.257

 ケンドリュー,ペルツやワットソン,クリックらの仕事以来,分子的生物学のめざましい発展がみられ,生命現象に対する分子のレベルにおける統一的な見解によつて,生物学者,生理学者,生化学者,生物物理学者たちが共通のことばで協同研究ができるようになり,最近これら諸学の協力によつて数々の豊かなみのりが得られ,生物学的物質の存在様式や生物学的諸過程が物理化学的手法で研究される場合,どのような形でなされるかという多くの実例が示されてきた。これらの実例は,他の自然科学の場合と同じく,将来の生物物理の問題の性質について貴重な見透しを与え,これらの事実の発展によつて,生物物理学の内容が形成されていくことはいうまでもない。
 日本生物物理学会では,研究連絡や協同研究の便宜のため,かりに,生物物理の研究分野を,生体物性,分子遺伝,分子生理,細胞生物,生体機能の5つに分類しているが,これらの分野においても,種々のレベル,組織細胞,分子集合体,分子,電子などのレベルの研究がありうるし,研究法の色彩にしても,生物学的,生理学的,生化学的,物理学的,数学的,あるいは医学的特徴をもつたいろいろのものがありうる。

主題 微小循環

循環系における静脈系の役割

著者: 伊藤宏

ページ範囲:P.258 - P.268

 はじめに
 循環系に関する仕事に手を染めるようになつて従来の研究成果を通覧している間に気付いたことは研究の対象が非常に偏つていて,ある領域は多数の研究者によつてほとんど余すところなく解明されているように思われる一方,たとえばここにとりあげた静脈系の機能の研究は不当に見過されているということであつた。少し長くなるが,以下に,2,3の研究者達の言葉をかりてこの間の消息をのべてみよう。
 R.S.Alexander1)は,"我々がもし静脈系の生理学についての知識を得ようとして教科書を開いてみても,この主題に関する知識はWilliamHarveyの古典的な観察以来ほとんど進歩していないのではないかという印象をうける"とのべており,FolkowとMellanderも1964年の総説4)において次のように記している。"静脈系の機能とその調節については今日現在においてさえ僅かの研究しか行なわれておらず,したがつて理解もされていない。循環系の研究者達がHarveyの時代以来,循環系の他の側面に比べて静脈系の機能についてどれだけ注意を払つてきたかをしらべてみるならば,われわれはこの問題が驚くほど無視されてきていることを知るであろう。

病的血管透過とその問題点

著者: 林秀男

ページ範囲:P.269 - P.273

 いとぐち
 "微小循環"は,本誌でもくりかえし,その主題としてとりあげられ,この問題の影響する領域,研究方向への指示など,いろいろな形でよく討議されてきたように思われる。著者は,あたえられた課題,"病的条件における微小循環",とくに血管透過性の亢進を中心として,この問題への接近方法を,主としてわれわれの経験を軸として考えてみることにする。この問題はまず,現象の場としての血管の部位,その形態が解析されなければならない。さらに,その形態変化をひきおこすべきnatural mediatorを追求しなければならない。したがつて,ここには形態学と生化学の直結が不可欠になる。このような直結をどのように展開していくか,これが著者にあたえられた課題といえよう。もちろん,この本質的な,しかも困難な問題を理解し,納得するには,得られたデーターはあまりにすくないといわなければならない。まさしく"これから"の課題であり,読者諸賢のフランクなお批判をつよく期待する所以である。
 この小論では,特別な場合をのぞき,文献的な考察をできる限りひかえることにした。その理由は,すでにすぐれたいくつかの綜説があるからで,著者はむしろ,かくされた重要な問題のいくつかを考えることにしたのである。

第1回国際ヘモレオロジー会議に出席して

著者: 岡小天

ページ範囲:P.274 - P.280

 この会議の目的
 第1回国際ヘモレオロジー会議(The First International Conference on Hemorheology)が1966年7月10〜16日にアイスランド大学で開催され,私は唯一人の日本人として出席した。
 まずこの会議のテーマであるヘモレオロジーHemorheologyとは何かということである。ヘモレオロジーとは血液の流動,赤血球の運動や変形,血管の変形などを研究する科学の分野で,生物レオロジーBiorheologyの一部をなし,さらにレオロジーの一部でもある。ヘモレォロジーはhematology,blood transfusion,fluidmechanics,biophysics,microcirculation,macrocirculation,blood and cardiovascular physiology,angiologyなどときをわめて密接な関係にあることはいうまでもない。

アンケート・12

lysosomeについて

著者: 小川和朗 ,   黒住一昌 ,   品川嘉也 ,   山田英智 ,   渡辺陽之輔 ,   藤田尚男 ,   梶川欽一郎

ページ範囲:P.281 - P.285

 今日,細胞内小器官の一つとして数えられるようになつたIysosomeは当初生化学的な方面から解明され,形態学的研究が遅れていたために基本的な問題がいくつか残されております。その中から次の諸点について各方面のご意見を伺つてみました。
 1.lysosomeの細胞学的定義は?,また微細構造上どの範囲の構造までlysosomeと呼んでよろしいでしようか
 2.primary Iysosomeとsecondary lysosomeとに区分する者がいますが,その可否とご意見
 3.lysosomeにはどのような酵素が含まれていて,かつlysosomeの果す細胞学的機能をどのように理解したらよろしいでしようか
 4.酸性フォスファターゼを主としたlysosome内酵素の起源について
 5.lysosomeの形態発生に関するご意見
 6.lysosomeの邦訳はどれが適切でしようか?
 リゾゾーム,ライソゾーム,その他

実験講座

位相差顕微鏡と干渉顕微鏡(Ⅱ)—その構造と有効な使い方

著者: 水平敏知

ページ範囲:P.287 - P.293

 位相差像の原理と特性
 さて,話を少々はじめにもどし,なぜ位相板を用いると位相差像として見得るかを考えてみよう。
 さきに一寸ふれたように,無染色のために一見まつたく無構造に見える標本でも細胞内の各構造物間,あるいは細胞体と封入剤との間には多少とも屈折率や厚さの差(位相差,phase difference)があるが,ここを通過してきた光を光学系を通し終像としてみるときにわれわれの眼はそれらの間に存するわずかの位相差を見分け得ない。なぜだろうか。

リン脂質の分離精製法(Ⅱ)

著者: 下条貞

ページ範囲:P.295 - P.301

 2.溶媒による分劃法
 各種リン脂質の有機溶媒に対する溶解度の差を利用して,適当な溶媒の組合せによりリン脂質を分画することが可能である。しかしリン脂質の溶解度は,それに結合している脂肪酸およびカチオンの相違により影響されると共に,共存物質(特にリン脂質)によつても大きな影響を受けるので,この方法で単一のリン脂質を分離するには同じ操作を繰り返し反覆しなければならない。それ故この方法による収量は一般にきわめて低いので,少量試料の分離には用い難いといえる。

交見

医学部の教育課程について

著者: 武内忠男 ,   大木幸介 ,   上代淑人 ,   野々村禎昭 ,   伊藤隆太 ,   竹内正

ページ範囲:P.302 - P.305

 医学部における教育の主眼が,臨床医の養成におかれ,医学者ことに基礎医学者の育成という点には全く顧慮が払われていないことは万人の認めるところと思います。このようなことでは生命科学の時代といわれる今世紀後半に,真に基礎医学者の名に値いする人がやがていなくなるのではないかと憂える声のあるのは尤もなことです。
 では,我々はどのようにして基礎医学者を養成すべきか。その教育課程はいかにあるべきか。このような点について,諸賢の意見を伺つてみました。

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生体の科学 第17巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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