文献詳細
文献概要
主題 視覚
網膜の電気現象
著者: 村上元彦1
所属機関: 1慶応義塾大学医学部生理学教室
ページ範囲:P.7 - P.16
文献購入ページに移動 網膜の電気現象の話はHolmgrenのERGの発見から始まるが,これは1865年のことであり,すでに1世紀が経つてしまつた。しかし多くの研究者の多年の努力にもかかわらず,ERGの発生機構すらまだ殆んどわかつてはいない。とにかく網膜の構造と機能は非常に複雑であつて,網膜は発生学的に脳の1部分であることを如実に知らされる。ERGはもちろんmass responseであるから,発見以来その要素電位の分析およびそれらの発生層の探究など多くの研究がなされた一方では,ERGを示標とすることによつてそれまではもつばら心理学的方法に頼らなければならなかつた視覚機序の研究に新らしく視覚生理学的方法が加わつた。それらの研究はGranit22)の著書"The sensory mechanisms of theretina"(1947)に集成されているが,当時のことであるから網膜内微小電極法はまだ開発されておらず,ERGは網膜を挾んで両側から誘導したものであつたからデータの解析はどうしても間接的であり,"black box"を手で撫で廻している感はまぬがれなかつた。しかしこの本の中で示されたGranitのすばらしい洞察力は,実験技術が進み,より直接的なデータが得られるようになつた現在から振り返つてみても決してその輝きを失つてはいない。
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