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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学18巻2号

1967年04月発行

雑誌目次

卷頭言

生物物理研究の発展における問題点

著者: 今堀和友

ページ範囲:P.53 - P.53

 生物物理学会が日本で発足して5年経つたところで生物物理は文部省科研費の特定研究に指定された。先日,班長会議が行なわれ,各班の活動状況が報告されたが,たしかにこの特定研究によつて従来存在した理医薬農工の枠が外されて,生物科学の研究者の協力体制は強められたという印象をうけた。
 しかしながら,これでもつて日本の生物物理学また生物科学の基礎が定まつたというのは早計であろう。むしろ特定研究によつて芽を出したこの科学を今後いかに育ててゆくかが最も重要な問題であると考えられる。これに関して考えなければならぬ事柄をいくつかのべてみよう。

主題 視覚

網膜の微細構造

著者: 山田英智

ページ範囲:P.54 - P.66

 網膜はいうまでもなく感覚器としての光の受容装置として,本質的役割を果す部位である。発生学的には脳の側壁の膨出としてできる,いわゆる眼杯に由来するから元来は中枢神経の一部と考えうるものであり,事実その構造は完成されたものでもなお,中枢神経組織と同様の構築を示すのである。その意味で,他の感覚器とは基本的に異なつていることをまず注意しておく必要がある。つぎに,中枢神経組織と同様ではあるが,この組織を構成する神経要素,神経膠組織,血管などはそれぞれ特有な分化をしていることはいうまでもない。しかし,これらの構成要素は他の中枢神経の部位にくらべると,その配列が規則正しく,相互の連絡も比較的簡単であり,またその種類も比較的少ない。したがつて,他の中枢神経の部位にくらべれば,その構造も,生理的活動などもこれを分折する際にやや便利であるといえよう。網膜で得られた知見は他の中枢神経にもあてはめることも可能であり,研究の対象として興味があると共にまた便利であるといい得る。おそらく,このような理由もあつて,網膜は現在まで電子顕微鏡によつて最もよく検索された組織の一つといつてもよいであろう。
 網膜の構造に関する知識は,その大部分は1850年代以降のすぐれた組織学者の研究によつてうちたてられたものである。

視物質の生化学

著者: 吉澤透

ページ範囲:P.67 - P.80

 視覚興奮の初期過程の解析において,最も興味ある問題の一つは,視物質がどのような機構で光のエネルギーを電気的なエネルギーに変換し,神経細胞に興奮を伝達するかということである。この問題の全貌を理解するには,現在のわれわれの知識はあまりにも貧困であるといわねばならない。しかしながら,過去10年間に蓄積された視物質の生化学的な研究は,その再生ならびに退色過程の機構に対して,かなりの程度まで論じられるようになつてきた。一方,網膜の電気生理学的な研究は視細胞そのものから発生すると思われる電位変化の記録に成功し,かような電位変化が視物質の退色過程のいかなる段階から発生するものであるか論じられてきている。ここではまず視物質の基礎的な性質を記述し,その再生と退色の機構について論述してみたいと思う。

実験講座

位相差顕微鏡と干渉顕微鏡(Ⅲ)—その構造と有効な使い方

著者: 水平敏知

ページ範囲:P.81 - P.91

 位相差法の変則的使い方(暗視野法)
 すでに説明したように,位相差法Phasc(contrast)microscopyは集光レンズ前焦点の位置に置かれた環状絞りと,それに対応する対物レンズ後焦点の位置に組み込まれた位相板によつて成り立つ。もちろんこの場合は対物レンズの倍率に対応した大きさの環状絞りが必要で100倍の対物(位相差用)には100倍対物用の大きさの環状絞りをターレット・コンデンサーのターレットを回転してその光路中に正しく入れてやる。その他の倍率用の絞りを入れたのでは多少の"絞り"の効果はあるが位相差効果は得られない。
 ところがたとえば次のような組み合せをつくつてみると,ほとんど完全な暗視野効果が得られる(第25図,第34図の5,6,7,8)。

解説講座 対談

止血機構をめぐつて(1)

著者: 浅田敏雄 ,   江橋節郎

ページ範囲:P.93 - P.100

 江橋 血液凝固というと,わかりにくいものの代名詞になつていまして,まるで血液凝固のメカニズムのようだと言えば,みんながああそうか,とうなずくというわけです。その領域を浅田先生にわかりやすく解説していただきたいと思います。今日のお話のきつかけとして,血液凝固の中心になつているフィブリノーゲン,フィブリンの問題からお話を始めていただきたいと思います。

アンケート・14

記憶について

著者: 高橋秀俊 ,   吉井直三郎 ,   南雲仁一 ,   永田豊 ,   吉田博

ページ範囲:P.101 - P.104

 生物学に残された最大の難問の一つは,脳の機能の解明にあると思いますが,その中でも記憶,学習についての生理学的あるいは生化学的研究はすでに始まりつつあるようです。これらの研究はまだ始まつたばかりで,その解明までにはほど遠いように思われますが,一方"遺伝的情報"の処理について過去四半世紀の間に得られた理解の進歩を思い浮べるならば"精神的情報"の処理についてもまもなく色々なことがわかつてくるのではないかという気もします。そこで記憶について次のような点に関し,この間題に造詣の深い方々のご意見,見通しなどを伺つてみました。
 1.記憶という機能が,脳の特定の部位に局在しているとお考えでしよう か。それとも脳全体の綜合的機能と考えた方がよいのでしようか。

海外だより

ブタペストの「筋肉シンポジウム」

著者: 丸山工作

ページ範囲:P.105 - P.106

 Ⅰ
 アルベルト・セント・ジェルジのATP-アクトミオシン系発見の20周年を記念して,ハンガリーのブタペストで筋肉のシンポジウムを開くという話をきいたのは,もうずい分前のことであつた。彼の高弟であるF. B. StraubとK. Lakiが主になつて計画するという話であつた。しかし,それは米ソ関係の悪化で中止され,さらにワルソーで行なうといううわさもあつたが,結局,この9月12日から16日にわたって,ブタペストのハンガリー・アカデミーで開かれることになつた。
 プログラムをみて,おどろいたことに,最初Introductory Remarksを話すことになつていたセント・ジェルジはとりやめとなり,以下のようなものであつた。

抄録

「小胞体」セミナー(1)—その構造,機能および発生について

著者: ,   渡辺陽之助 ,   ,   ,   田代裕 ,   山田英智 ,   ,   浜清 ,   山元寅男 ,   ,   山本敏行 ,   ,   水平敏知 ,   永野俊雄 ,   ,   林槐三 ,   橋本一成 ,   黒住一昌 ,   ,   ,   安澄権八郎 ,   小川和朗 ,   ,   ,   ,   江橋節郎 ,   大村恒雄

ページ範囲:P.107 - P.111

奈良シンポジウムの報告
 小胞体の形態機能および発生に関する日米科学協力会議シンポジアムは1966年9月5日から7日にかけて奈良で行なわれた。
 日米の会議出席者は別表の通りで主として細胞生物学者および組織学者から成つていた。その他韓国,台湾,アルゼンチンからそれぞれ一人ずつの学者がObserverとして参加した。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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