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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学18巻4号

1967年08月発行

雑誌目次

巻頭言

日本の微生物学

著者: 池田庸之助

ページ範囲:P.165 - P.165

 わたくしは元来,応用微生物畑で育つた人間である。たまたま15年ほど前に微生物遺伝学の担当を命ぜられ,以来,東大応用微生物研究所で基礎とも応用ともつかない仕事をしてきている。そしていまある年齢に達し考えることは,日本の微生物学の現状と将来である。
 わたくしは,日本の微生物学はある片寄りをもちつつも健全に育つてきた方だと思う。微生物学誕生の初期にわれわれの先輩が果たしたはなばなしい業績は,いまもなお世人の記憶になまなましく残つているし,また戦後わが国の微生物学者によつてなされた新抗生物質の発見やジベレリンの発見は世界の注目をあびた。そしてこれらの業績を通じ日本の微生物学は二つの性格をもつようになつたと,わたくしは思う。その第一は,微生物学といえば医学,農学につながる応用の学問であるという偏見であり,第二は"もの"(病原微生物や微生物生産物)の発見を通じて微生物学に貢献しようとする傾向である。この二つの性格のうち,"もの"を見つけるという伝統は日本のお家芸でもあり,今後とも育ててゆきたいことである。

主題 視覚 無脊椎動物の光受容機構—構造と機能

軟体動物

著者: 田崎京二

ページ範囲:P.166 - P.176

 Ⅰ.軟体動物視覚系の構造
 軟体動物視覚系の特徴は,まず第一に網膜の著しく簡単な構造である。第1図に頭足類のタコの視覚系の模式図を示してあるが,イカでもまつたく同様である。図から明らかなように頭足類の眼は無脊椎動物の中で最大のものであり,光学系は角膜,瞳孔,レンズ,硝子体などからなり脊椎動物のものと大差ない。ただし脊椎動物では眼の調節をレンズの曲率半径を変化させて行なつているのに対し,頭足類では眼球の前後径の変化によつていることは一層写真機に似ているといえる。
 網膜に投射する光の強弱によつて瞳孔の大きさが変わる(瞳孔反射)ことも脊椎動物と同様であるが,縮小した瞳孔はスリット状で頭の位置,方向にかかわらず常に水平方向を向くように調節されていることも特徴的である37)(後述)。

カブトガニ

著者: 菊地鐐二

ページ範囲:P.177 - P.191

 アメリカ産カブトガニの眼,特に側眼の構造はすでに二世紀以前に記載されているといわれるが88),前世紀の終りに日本の研究者によつてかなり詳細な報告が行なわれている(Watase, 1890)84)
 しかし光照射に対する応答を単一視神経放電として捕え,光—入力—に対する視神経放電—出力—という入出力関係を定量的に追求したのはHartlineおよび協同研究者であつた。

昆虫

著者: 桑原万寿太郎

ページ範囲:P.192 - P.202

 Ⅰ.昆虫複眼の構造と機能
 1.光学系と視細胞
 昆虫の成虫の主要光受容器は複眼である。複眼は個眼(ommatidium)といわれる単位構造の集りである。個眼は典型的な例を示せば第1図のような構造をもつ。もつとも表面には角膜レンズ(corneal lens)があり,複眼表面からみると,角膜レンズがビッシリつまつて六角形の網目にみえる。この角膜レンズを分泌する細胞はごく原始的なある種の昆虫を除いては,角膜レンズのつぎにくる円錐晶体(crystaline cone)の縁にあり,色素粒をふくみ,角膜色素細胞(corneal pigment cells)といわれる。
 角膜レンズは近紫外部までの光を透過させるが,ある種の昆虫ではその表面は0.2μ程の高さの乳首状の突起でおおわれている。

解説講座 対談

糖の輸送について(1)

著者: 星猛 ,   酒井文徳

ページ範囲:P.203 - P.207

 赤血球における糖のとり込みと腸,腎における輸送
 酒井 最近,赤血球,腸管,腎臓あるいは筋肉におけるsugarのtransportの問題はだいぶ進展したと思いますね。きようこれをすべてとりあげたら大へんなことになりますから,一応概観を総括し,それから特に星先生が現在腸管で実験をされているところを中心にして少しこまかい話をうかがいましよう。
 sugarの問題ではinsulineの問題がありますが,これは僕らあまりやつていないので話の中には出てくるかもしれませんけれども,あまり深くふれないでおきましよう。最初,星先生に一般論として腸管,腎臓などの臓器の特色についてかんたんにお話しをして頂きましよう。

実験講座 細胞内成分の分画・1

酵母のミトコンドリアの調製法

著者: 萩原文二 ,   川口久美子

ページ範囲:P.208 - P.212

 酵母はウシの心筋と共に初期の呼吸系の研究に最もよく用いられてきたものであつて,1925年にKeilin1)がチトクロームを再発見したときすでに研究材料となつており,1930年にはこれからチトクロームcが抽出精製されている。また1929年にWarburg2)がphotochemical action spectrumによつてチトクロームオキシダーゼ(当時彼はこれをAtomungs fermentと称していた)がヘム蛋白質であることを発見した有名な研究も酵母について行なわれたものである。また,酵母は単細胞生物にもかかわらず,高等生物と同様の世代の交代があり遺伝学的にも興味のある材料であり,事実呼吸系に関してはきわめて容易にいわゆる呼吸欠損変異株を作ることが可能で,これについてはEphrussi3)4)以来数多くの研究が行なわれている。このような研究の発展に伴つて酵母の細胞分画の試みもある程度はなされてきたのではあるが,良質のミトコンドリア(Mt)を得る方法は比較的最近まで報告されていなかつた。これは酵母が強じんな細胞壁をもつていて,これを破壊してMtをとり出すときには同時にMtが破損を受ける可能性が高いためである。筆者らの研究室においては,まず細胞は破壊するがそれよりもはるかに小さなMtには破壊力があまり及ばないような特殊なホモゲナイザーを考案して,これを用いて比較的intactなMtを調製することができた5)

アンケート・16

発生について

著者: 竹内正幸 ,   黒田行昭 ,   石田寿老 ,   岡田節人 ,   椙山正雄 ,   山名清隆 ,   高田健三 ,   金谷晴夫

ページ範囲:P.213 - P.217

 一口に発生学といつても非常に広範ですので,ここでは発生生理学の中心点であり,かつもつとも困難な研究課題である分化に問題をしぼつてご意見を伺いました。
 1.分化とは核における一つの遺伝的表現によるもののごとくに解釈され,発生初期での非核支配の機能,形態変化を分化とよばない人がいます。この定義上のご意見を伺いたく存じます。

抄録

「小胞体」セミナー(2)—その構造,機能および発生について

著者: ,   江橋節郎 ,   浜清 ,   黒住一昌 ,   永野俊雄 ,   小川和朗

ページ範囲:P.218 - P.220

 細胞内膜の細胞化学
 未固定組織またはaldehyde固定を行なつた組織を緩衝液,基質または金属塩のcapture reagentを含んだ種々の細胞化学用反応液の中でincubateした。これらの組織を続いて,オスミウム酸て再固定し,脱水し,エポキシ樹脂で包埋した。
 これらの組織の超薄切片はcapture reagentと基質の加水分解したものと結合した結果できた不溶解性の電子線を透過しない沈澱物である最終反応産物が酵素活性のある微細構造部位あるいはその近くに沈着することを示した。すなわち証明された酵素系の種類に従つて,粗面小胞体,滑面小胞体,核膜あるいはゴルジ複合体の構成要素などの上または内面の近くに多分沈着すると思われる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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