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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学18巻6号

1967年12月発行

雑誌目次

巻頭言

臨床と基礎の正しい評価

著者: 福島要一

ページ範囲:P.273 - P.273

 科学技術という言葉がある。この言葉はいつも大変論議の的になる言葉で,何かというと問題になる。科学・技術なのか,科学的技術なのか,科学と技術だとするとその区切りはどこなのか,そういつた点がいつも議論になるのである。
 科学技術会議,科学技術基本法,科学技術庁,等々の命名のとき,必ずむし返されるのだが,どうもはつきりした結論はないようである。

主題 GABA(2)

甲殻類神経系におけるγ-アミノ酪酸の分布と遊離

著者: 大塚正徳

ページ範囲:P.274 - P.288

 I.はじめに
 γ-アミノ酪酸(GABA)が高等動物の中枢神経系に特異的に存在することが知られたのは1950年のことであるが(Roberts,Frankel 1950;Awapara Landua,Fuerst,Seale,1950;Udenfriend,1950),その後1956年この物質が中枢神経系において伝達物質として働いていろ可能性が示唆された。すなわち第20回国際生理学会においてHayashiらはGABAおよびγ-アミノ-β-ヒドロキシ酪酸を哺乳動物の大脳皮質に適用すると抗痙攣作用が現われることを発見し,特にγ-アミノ-β-ヒドロキシ酪酸が生理的機能を果していると想像した(Hayashi,Nagai,1956)。一方Floreyらは哺乳動物中枢神経系から得た抽出物中に甲殼類の伸展受容器の求心性インパルス発生を抑制する物質が含まれていることを発見し,これをFactor Ⅰと呼んでいたが(Florey 1954),1956年の論文においてFactor ⅠがGABAに他ならないと結論し,さらにこの実験結果からGABAが高等動物中枢神経系において抑制性伝達物質である可能性を示唆した(Bazemore,Elliott,Florey,1956;1957)。

哺乳類ニューロンに対するGABAの作用

著者: 小幡邦彦

ページ範囲:P.289 - P.296

 1950年,GABAが哺乳類においては中枢神経系に特異的にしかも高濃度に存在することが見出されて以来,その生体内での役割が大別して二つの面から,すなわちメタボリズムが生化学的に,またニューロン活動に対する作用が生理学的薬理学的に追求きれてきた(Elliott & Jasper18);Roberts33);Curtis & Watkins13)参照)。後者については,この物質を全身的にまたは脳および脊髄の表面に局所的に投与した場合に,誘発電位,脊髄反射,薬物および電気刺激によるけいれん発生などのいずれもが強く抑えられることが明らかになり,このGABAの抑圧作用が抑制性シナプス伝達物質としての作用によるものかどうかに議論が集中した。しかし1959年Curtis,Phillis & Watkins10)は同軸電極(後述)により脊髄運動ニューロンから細胞内誘導を行ないつつ,その細胞の周囲にGABAおよびβ-アラニンを適用し,これらは細胞膜のコンダクタンスを上昇させることによりニューロン活動を抑えるが,伝達物質の作用とは二つの重要な点で異なることを示した。すなわち伝達物質により生ずる抑制性シナプス後電位(IPSP)は過分極方向の電位変化であり,ストリキニンにより拮抗されるが,GABAの抑圧作用には過分極が伴わず,ストリキニンによる影響もみられなかつた。

ザリガニ神経筋接合部に及ぼすGABAの作用

著者: 竹内昭

ページ範囲:P.297 - P.301

 γ-アミノ酪酸(GABA)は,過去10年あまり多くの研究者の注意を集め,これについて膨大な研究が行なわれてきた。この理由の一つは,この物質がまだ伝達物質不明のシナプス,主として中枢神経系の伝達物質として働いているのではないかと想像されたからであろう。GABAはすでに1950年数名の研究者によつてそれぞれ独立に中枢神経系で発見された1)2)。しかしながらこのアミノ酸の生理学的重要性が認められるのにはさらに数年の歳月を要した。アミノ酸の中枢神経系に対する興奮もしくは抑制作用はHayashi3)によつて初めて報告され,その後中枢神経系に対するアミノ酸の生理学的作用が多くの研究者によつて追求された。しかし,薬物の投与方法および中枢神経の活動の記録方法が適当でない場合には,脳の構造の複雑さによつてその効果の判定が困難である。近年薬物を微小電極から電気泳動的に1個もしくは数個の神経細胞に与え,これによつて起こる電気変化を,微小電極でその細胞から記録することによつて,この問題は非常に改善された。この方法を用いてCurtisら4)は各種の薬物の中枢神経系に対する作用を調べた。彼らは数本の微小パイペットを熔して作つた特殊な微小電極を用いて,膨大な種類の薬物を中枢神経細胞に与えた。そして自然界で得られるアミノ酸の中でグルタミン酸およびGABAが神経細胞に対してもつとも強力な興奮および抑制作用を持つことが認められた。

解説講座 対談

痛みの生理(1)

著者: 清原迪夫 ,   内薗耕二

ページ範囲:P.302 - P.307

 最近クローズアップされてきた問題
 内薗 痛みの問題は最近とくにクローズアップされてきたと思うのです。この問題は,医学の本質的な問題にも結びついていますし,われわれ生理学に携わつている者でも,終局的には,そういうものの解決を目ざして勉強しているわけです。ふだんは下等動物やあるいは哺乳動物にしても,人間以外のものを取り扱つてはいますが,われわれの終局的に指向するものは,人間についての知識になるわけです。その中でも,痛みなどというのは,実は人間でなければほとんど研究できないものです。
 そういう問題を清原講師は生理学を15年やつてこられて,それから,実際の臨床にそれをアプライすることで,まことにユニークなチャンスに恵まれておられるわけです。現実の生理学と,実際の臨床からみた痛みとの間には,大きなギャップがありすぎて,日常,非常な悩みを感じておられると思うのです。

実験講座 細胞内成分の分画・3

リン酸化諸因子の調製法

著者: 香川靖雄

ページ範囲:P.308 - P.313

 生体のエネルギー獲得系の主役はミトコンドリア,クロロプラスト,細菌形質膜などの膜系であり,その中には電子伝達系(フラビン,チトクロームなど)があり,それによつて解放されたエネルギーをATPの合成に共役する機構が存在している。この機構を解明するために企てられた高エネルギー中間化合物の単離は現在までのところすべて失敗に帰したが,リン酸化を担うと思われるいわゆる共役因子が相ついで単離された。膜から共役因子を機械的または化学的処理によつて,完全にあるいは部分的に除去すると,電子伝達能のみが残り,膜から遊離した蛋白質性因子を再吸着させることによつて酸化的リン酸化(あるいは光リン酸化)が回復きれるのである.電子伝達で遊離されたエネルギーは,少なくともある条件のもとでは化学結合としてではなく,イオン集積などの物理的状態として貯え得ることが示された。チトクロームの酸化還元そのものが,共有結合を介する基質レベルのリン酸化にみられる酸化機構とは根本的に異なつており,膜で起こるイオン輸送,変形,光吸収,発光,電子逆流などの現象もむしろ生物物理学の分野から関心がよせられている。この方面での発展の解説は他書にゆずり1)2)3),ここではこれら諸因子の調製法を中心にのべる。

アンケート・18

蛋白合成について

著者: 西塚泰美 ,   次田皓

ページ範囲:P.315 - P.317

 蛋白合成についての設問の中から,適当にいくつかを選んでお答えいただきました.
 1.遺伝情報(genetic code)はすべての生物について普遍的(universal)であると考えら れています。しかし,いわゆる縮退(degeneraey)という現象の細かい機作については,種による差異が認められているようです。

文献案内・14

発生,分化の生化学的な研究をはじめるにあたつてどんな本を読んだらよいか(Ⅱ)

著者: 岡田節人

ページ範囲:P.318 - P.321

 前回で,発生生物学に関する著書を三つのカテゴリーに分けて,その第二にあたるものの,題名だけを紹介するところまで述べておいた。さて,これら四冊は,いずれもが,1960年代の読者のための発生生物学への手引書である。Spratt,Waddington,Ebertのものでは正常の発生過程に関する形態学的な記述は,最少限に止められている。だから,「発生の生化学的な研究」を志す方が,材料の選択や,その取り扱いについて,なんらかの知識をこれらの著書からえられようとすれば,たいへんに期待はずれ,ということになるだろう。しかし,発生という現象の中に,これから機構を分子的に探るような糸口があるか,という指針にはなるであろう。しかし,いずれも,ごく小型の本なので,とても詳しいことは判らない。また,技術的にもどんなに困難が沢山あるかも述べられていないから,ともすると,読者に今後の研究にあまりに甘い見通しでも持たせる危険もあるわけである。
 しかし,これらの書物を十分注意深く読み通すことは,大変有益なことになると,私は考えている。Waddingtonのもの(日本訳出版の予定がある)は,この中でも一ばん手軽なもので,読みようによつては,手引書としてきわめて秀れたものではある。過去に何冊ともなくこの種の著書をものしてきた,この著者の書物の中でも,これはできのよいものである。

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生体の科学 第18巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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