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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学19巻1号

1968年02月発行

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巻頭言

生体の情報

著者: 大島正光

ページ範囲:P.1 - P.1

 最近「情報処理」とか「情報の科学」とか情報についての情報がきわめて多くなつてきている。生体の現象はその点では生体の示す情報であることには変わりはない。しかしながらこれらの情報は生体のもつているメカニズムの中の情報であつて,そのメカニズムを知るのにも役に立つものである。ところが生体のもつているメカニズムには種々の点からのアプローチが行なわれている。
 一体このメカニズムをどのように理解すべきか。ある場合にはその一つの情報が何によつて起こるかを究明することも大切であるし,またその情報の動態を明らかにすることもメカニズムの究明につながつている。また環境との相互の関連性,刺激と反応の相互関係,行動科学といわれる一人の個体としての動態もあるし,また一つの臓器,組織,細胞に至るまでの動態もあろうが,その中に一つ「全機性」といわれるものもみのがすことのできないものであろう。この「全機性」と呼ばれる言葉は橋田先生の初めて使われた言葉と記憶をしているが,これを機能をもとに考えるならば全機性とは種々の機能の相互の関連性を示す言葉である。生体は相互に関連をもつた機能の有機的な集まりであるとみることができるであろうと思われる。すなわち個々ばらばらに機能があるのでなく,それらは相互に関連性をもつて全体が構成されていろとみるのである。

主題 Polysaccharide・1

「ポリサッカライド」について

著者: 山川民夫

ページ範囲:P.2 - P.4

 生体の科学の編集委員会は,ポリサッカライド(多糖)で企画をまとめるよう要請されたが,その意図する所はグリコゲンや澱粉のような一種類の単糖のポリマーであるいわゆるホモポリサッカライドでなく,多種の糖より構成されているへテロポリサッカライドや,むしろそれが蛋白や脂質を結合している多糖複合体というべきものの化学,生化学,生体における意義についての特集を希望しているらしい。これこそ‘glycosubstances’あるいはムコ物質といわれるもので,われわれのように少し人間に甘い所のある者だちが好んで取り扱っている領域である。
 ムコ多糖(mucopolysaccharide)という言葉が以前から使われている。ムコ(muco,英米人はミューコと発音する)とは何かというと,古く病理学者が呼んだ粘膜(mucous membrane)の分泌物(mucin)に由来するもので粘性の高い物質を指すようであるが,1945年Ad vances in Carbohydrate Chemistryの中で,K, Meyerが‘muco’というのを‘hexosamineをもつ’という定義にしようと提案した。

糖タンパクの構造と機能

著者: 山内卓 ,   山科郁男

ページ範囲:P.5 - P.14

 糖タンパクと一般に呼ばれているものは,補欠分子族として,比較的少数の単糖から構成されるヘテロオリゴ糖を一つ,またはそれ以上含む複合タンパクである1)。糖成分は共有結合によつてポリペプチドに結合している。オリゴ糖には,ヘキソサミン(グルコサミン,ガラクトサミン)のほかにガラクトース,マンノース,グルコース,フコース,シアル酸などが含まれる。糖部分は反復単位構造をもたず,しかも多くの場合枝分れしている。糖タンパクの構造を考える場合,単純タンパクにはみられないような糖とアミノ酸との結合様式,オリゴ糖の数,大きさの多様性,オリゴ糖を構成する単糖の組成,配列順序の多様性という糖タンパク特有の問題が含まれる。糖部分の構造の複雑さ故に,現在では生物学的活性と構造の関係が十分に明らかにされるまでには至つていない。ここでは補欠分子族としての糖部分の関与する生物学的問題をその構造研究の結果を基にして考察してみたい。まず,ここで取り扱う糖タンパクの糖組成を第1表に示した。

ヘパリンの構造と機能

著者: 吉沢善作

ページ範囲:P.15 - P.26

 1916年Mclean1)による発見以来,heparinが血液凝固に役立つていることはよく知られたことである。その後heparinのlipolytic activityも見出され2)より注目されることになつた。したがつてheparinについては,枚挙にいとまがないほど多数の研究報告があるが,その化学構造の大要が明らかになつたのは,近年のことであり,生物活性の発現機序にいたつてはまだ十分解明されていない。加えて,最近鯨の臓器から従来のheparinとやや組成を異にする,anticoagulant activityの高い標品(ω-heparin)も分離され,ますます複雑な問題を提供するに至つた。本テーマでは,多少の歴史的研究経過をまじえ,現在の知識や著者らの最近の知見を主として述べたい。

解説講座 対談

痛みの生理(2)

著者: 清原迪夫 ,   内薗耕二

ページ範囲:P.28 - P.33

 鎭痛剤
 内薗 たとえばゲートが開きつぱなしで,どうしても痛みがとれないというような現実の場面になりますと,臨床的には,いろいろな麻酔薬を使いますね。
 清原 鎮痛剤ですね。

実験講座

位相差顕微鏡と干渉顕微鏡(Ⅳ)—干渉顕微鏡とその利用法

著者: 水平敏知

ページ範囲:P.39 - P.47

 17巻4,6号および18巻2号の3回にわたり位相差顕微鏡の解説を試みた。まだ充分ではないが,このあたりで干渉顕微鏡に目を転じてみることにしよう。
 位相差法は無染色の標本や生きている細胞を観察するにはきわめてすぐれた装置であるが,位相差法にも大きな欠点がないわけではない。そのもつとも大きい一つは,位相差物体を位相差法でみると,17巻6号の34頁第16図に示したように像が正しく表現されていないということである。その結果像の周囲に明るく光る光輪haloを生じたり,互いにoverlapする回折像のために試料本来の像がこわされる恐れがあるばかりか,もしも封入剤の屈折率,使用波長など条件を規定した上で試料の位相差,長さ,太さなどの計測を試みたいと願つてもその結果には信頼度が少ない。つまり位相差法は観察には無染色の透明標本の観察にはコントラストもあり,よく適しているが反面計測顕微鏡的価値はほとんど期待されない。位相差法のもとで細胞の生活条件の差によるコントラストの差が見えたとしてもそれは定量的判定の試料としては不充分である。この目的にかなうためには位相差物体である試料を通つた直接光と回折光があまり強い光学的変化を受けないで干渉し合うことが必要である(17巻6号31〜35頁)。そのためには位相差顕微鏡の生命ともいうべき位相板を用いないで他の方法をとらなければならない。

細胞内成分の分画・4

葉緑体の調製法

著者: 田川邦夫

ページ範囲:P.34 - P.38

 光合成研究で最初に緑葉の無細胞標品を用いて,成功を収めたのはHill1)である。すなわち,約30年前Hillはハコベやオドリコソウから本質的には現在用いられているのと同じ方法で葉緑体標品を得て,適当な酸化剤を加えて光照射すれば酸素が発生することを観察した。ところがこのHill反応は光合成的炭酸固定の一部であるかもしれないが,生体内で行なわれる反応とは程遠いものであることが,その後十数年間の研究で示され,光合成反応には葉緑体だけでなく細胞全体が必要だという誤 つたことが結論されていた。そのため,光合成研究のための葉緑体の生化学的単離調製ということはあまり重視されない時期があつた。
 1954年になつてArnonら2)によつてホウレンソウから単離した葉緑体標品を用いて光りん酸化反応および炭酸固定反応が証明され,葉緑体は光合成の完全な単位であることが確立された。その後,光合成細菌からも光りん酸化反応を行ない得るクロマトフォア標品も得られるようになり光合成の研究にはたいていの場合ホウレンソウの葉緑体かクロマトフォアが用いられるようになつた。最近では葉緑体は核外自己増殖系としてミトコンドリアと並んで遺伝学的にも研究されるようになつてきた。この分野では高等植物は遺伝生化学的には取り扱いにくいので,藻類やユウグレナなどから葉緑体標品が単離されている。ここでは光合成反応を中心にして葉緑体標品の調製法について述べていくことにする。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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