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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学19巻3号

1968年06月発行

雑誌目次

巻頭言

超マクロの生物学

著者: 佐々学

ページ範囲:P.101 - P.101

 新しい生物学の研究は,ミクロからさらに超ミクロ,超々ミクロの世界へと進みに進んで,まことに目ざましい成果をあげている。それは,電子顕微鏡の進歩と普及で,超微細構造がいろいろな生物,いろいろな組織や細胞で解明されていくばかりでなく,分子レベルでの生物化学がとくに近年においてすばらしい進展を見せているからである。
 こうした潮流は私どもが相手にしている寄生虫学という分野にもようやく流れこんで来た。電子顕微鏡による超微細構造がいろいろな寄生虫でわかつてきただけでなく,免疫学の進歩に伴つて,微量の抗体や抗元を用いての反応がしらべられるようになり,寄生虫感染にもはつきりした抗元抗体反応が現れることがいろいろな面で証明されてきつつある。うちの研究室でも,乏しい予算をやりくりして,小型の電子顕微鏡をそなえたり,微量の免疫反応をしらべるのに必要な器具をそろえたりして,ようやく近代生物学の仲間に入れてもらえそうな体制をつくつて,ほつとしたところである。

主題 Polysaccharide・3

動物細胞の表面特異性と細胞性多糖—細胞の悪性変化を中心として

著者: 箱守仙一郎

ページ範囲:P.102 - P.114

 I.はじめに—細胞の社会生活
 最近の生化学は生命に不可欠な二つの物質—たんぱくと核酸について,その構造と機能がいかにして生命のからくりを維持しているかを見事に解明し,いわゆる分子生物学の発展をもたらした。しかしこれらの知識は生命にとつてあまりにも重要な,必要最少限の機構をとりあつかつているため,より複雑な生命現象,特に医学的に重要な種々の病態現象を分子しベルで解明しようとする場合,ほとんど役に立つていない。
 すべての細胞には本質的に相異なる二つの機能があるようにおもわれる。一つは細胞自らの生命保持に必要最少限の機能で,たんぱくと核酸がその主役であり,今までの生化学,とくに古典分子生物学の主な目標があつた。ほかの一つは,細胞の生命保持にとつては不必要な余剰機能で,細胞がよりあつまつて,組織化し,集団生活をおこなうために必要な機能で,いわば,細胞の社会生活機能といえよう。最近の細胞生物学の進歩により,このような細胞の社会機能が明らかになつてきているが,その生化学はほとんど開拓されていない。この第二の機能は,おそらく,主に細胞の表面特異性によつて遂行されると考えられ,機能の主役は糖や脂質,とくに糖脂質であるといいたいところであるが,そこまではつきりいえない。しかし,糖や脂質を度外視して,この細胞の高等機能を論ずることはできないであろう。

多糖体の代謝調節

著者: 二階堂溥

ページ範囲:P.115 - P.129

 多糖体の代謝調節を論ずるには,多糖体を構造多糖体(structural Polysaccharides)と貯蔵多糖体(storage polysaccharides)とに大別するのが便利である。前者は細胞ないし組織の構造の一部を作つている多糖体で,現在知られている大部分の多糖体がこの分類に入つてくる。他の組織成分または細胞成分と共同して種々の構造をつくることが多く,その点からもその種の多糖体の量は他の成分とつねに一定の比率を保つように調節されなければならない。したがつて構造多糖体の代謝調節は主としてnegative feed-backの原理に基づいて,均衡のとれたレベルを維持する方向に行なわれると考えられる。これに反して貯蔵多糖体は本来エネルギー源,炭素源が余剰の時に貯蔵し,不足の時に放出するのが目的であるから,そのレベルも環境条件に応じて大きく変動する。したがつてその生合成に際しては,終産物が原材料の生合成を抑制するnegative feed-backの原理よりはむしろ,原材料の過剰が終産物の合成をますます促進するpositive feed-forwardの原理に基づいてユニークな代謝調節が行なわれている。

実験講座 細胞内成分の分画・6

動物細胞核分離法および脳細胞核の分別分離法(1)

著者: 加藤尚彦

ページ範囲:P.131 - P.135

 近年の核酸代謝の研究や細胞生物学の発展にともなつて,動物組織の細胞核分離法が工夫されてきた。臓器としては核の得られやすい小牛胸腺・核酸や各種の酵素の研究に適当で,大部分1種の実質細胞からなる肝臓などが,主な材料として用いられている。また癌に対する興味から種々の腫瘍組織についても適切な方法が工夫されてきている。
 一方,中枢神経組織はノイロン(神経細胞)と3種のグリア細胞(アストログリア・オリゴデンドログリア・ミクログリア)から成つており,他の体組織にくらべて複雑な構成をもつている。ノイロンは電気的な現象からも活発な機能を営むと思われ,また再生がまつたく不能であり体細胞の内でももつとも成熟したものの一つである。3種のグリア自体もそれぞれ特徴的な構造をもち,組織培養や病理学的な所見から,それぞれ特殊な機能をもつと考えられている。これらの細胞の細胞生物学的研究には,現在は特殊なミクロ技術が用いられるが,得られる材料が微量のため微量定量が可能な範囲で研究されているにすぎない(Hydén,Edström,Lowryなど)。ノイロンの軸索やグリア細胞の細胞質は複雑にからみあつており,これらの細胞を単離して,種々の生化学的測定に必要な量をあつめようとしても不可能である。

解説講座 対談

逆説睡眠について(1)

著者: 時実利彦 ,   島津浩

ページ範囲:P.136 - P.140

 逆説睡眠という言葉は……
 島津 はじめに,逆説睡眠という言葉の問題ですが,どうして脳波が徐波を示すような場合に,普通の睡眠,あるいはオーソ睡眠といつて,脳波が速波を示している状態のときに逆説睡眠,あるいはパラ睡眠というのですか。
 普通の睡眠というのが先に発見されて,それにあわないから,逆説睡眠とよばれたわけですか。それとも何か片方をオーソと言つて,片方をパラという生理学的な理由があるのでしようか。

研究の想い出

不減衰学説の回顧

著者: 加藤元一

ページ範囲:P.141 - P.149

 1.新発見は受け入れ難いもの
 1616年4月17日William Harvey(1578-1657)がロンドン医学校の演壇に現われた。これは生理学にとつて正に記念すべき日である。この時初めて「血液は循環する」と発表されたのである。この日まで血液がからだ内を循環するものだとは世界中ただの一人も思つていなかつた。古く,HippocratesやGalenの思想に支配されて,血液はあたかも潮の干満のごとく「さしたり,引いたり」するものだと信じられていたのである。これが有史以来の大発見で,生理学は正にこの日から始まつたといつてよかろう。しかし当時これを信ずるものははなはだ少なく,報いられたものは疑惑と非難のみで,彼はその論文を国内で印刷に付することさえできなかつたのである。なおその後約100年もたつてから,この血液循環論に反対する講演を知名の学者**がロンドンにおいて行なつた記録が残つている。
 今や小学校の児童さえ知つているこのような明々白々たる事実さえなお斯くのごとし。以つて新発見がいかに世に受け入れられ難いものかを知るべきである。

文献案内・15

小脳の生理の研究をするにあたつてどんな本を読んだらよいか

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.150 - P.151

 小脳の生理について初心者むけの参考文献を紹介するようにとのことであるが,筆者自身5年ほど前までは小脳のことについては普通の教科書にかいてあること以外は何もしらない,いわば門外漢であつた。それがたまたまダイテルス核細胞を手がけたところ,これに対する小脳プルキンエ細胞の直接投射を通して,ちようど小さな窓からのぞき見たような具合に,小脳内の諸現象が次々と目に入つてきた。小脳についての勉強を始めたのはそれからであつて,したがつてここでは結局のところ筆者自身の勉強過程を逐一紹介するようなことにならざるを得ない。この点はじめにおことわりしておきたい。また生理学の教科書ないし類似の文献はすでに参考にされたものとして,ここではとくにふれないでおく。
 筆者が手始めに大きな感動をもつて読んだのはG. Moruzzi著「Problems in Cerebellar Physiology」C. C. Thomas(1950)である。講演原稿をもとにした比較的小冊子の本で,Ⅰ.姿勢トーヌスに対する小脳抑制,Ⅱ.姿勢トーヌスに対する小脳促通,Ⅲ.小脳と大脳運動野との機能的連関.Ⅳ.自律系統での小脳作用,の四章にわたつて論じてある。題名の通り,小脳についての問題点を明らかにし,これに対して古典的な刺激実験の結果がきわめて理路整然と分析され,さらにこれを手がかりに小脳の神経機構についての明快な推論が展開されている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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