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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学19巻5号

1968年10月発行

雑誌目次

巻頭言

基礎医学と臨床科学

著者: 鈴木泰三

ページ範囲:P.205 - P.205

 最近,研修制度をめぐる嵐が医学のなかを吹きまくり,医学教育の焦点が研修制度にのみ向けられているように思われがちであるが,基礎医学の間には,今後の基礎医学の体系はどうあるべきか,あるいは基礎医学の教育をどう改めていくべきか,という静かではあるが着実な試みが検討されつつあることを見逃すべきではない。
 いつの時代にも,臨床の立場からは基礎医学が臨床に役立つことを期待するという声がきかれる。ことに最近の傾向として基礎医学は,医学から離れて,次第に生物学自体に近づく傾向があるという批判もある。しかし,これは基礎医学の側からみると,たいした問題ではない。医学に限らず,科学では一般に,より素な,より基本的なものへと進む流れがあり,基礎医学も次第に細胞のレベルから分子のレベルへと進展するのも当然である。また,医学は周辺の科学の進歩を自らのなかに旺盛にとり入れていく力をもつているので,たとえば工学の進歩をとり入れていくと,医用電子学のみならず,医用工学,診断工学,情報医学,診断論理学などのような分野も生まれてくるはずである。このような自然の勢いを抑制する方がかえつて不自然であり,基礎医学は従来よりも広い意味で医学の基礎学ということになつていくであろう。

主題 嗅覚・1

サカナの嗅覚—その神経生理学的研究の現状

著者: 高木貞敬

ページ範囲:P.206 - P.223

 Ⅰ.緒論—帰巣の機序について
 魚がするどい嗅覚をもつていることは,たとえば,サケやマスの帰巣の習性の研究によつても明らかである。十和田湖にヒメマスをはじめて放流した和井内貞行はその後毎年湖岸の木に上つて終日水面を見つめ成長したヒメマスの帰つてくるのを首を長くして待つた。サケやマスは卵からかえると,1年間をその水で過ごした後,河を下つて海に出る。オレゴン海岸のAlsea河の孵化場で産れた稚魚に印をつけて放流した所,5ヵ月後3,200キロ離れたアラスカ海岸沖で捕えられ,この魚たちに別の印をつけて放した所,2年後に3年魚となつて元の孵化場で捕えられたという報告がある(cf. Hasler, 1960 and Wright, 1964)。同様な研究は大西洋でも行なわれ,Cape Breton島のMargaree河から放流されたマスが,2年後1,000キロ近く離れた所で捕えられ,これに札をつけて放した所,3ヵ月後に元のMargaree河で捕えられたという(Huntsman, 1942)。
 マスやサケは2ないし7年間を太洋の中で過ごした後,元の育つた川に帰る習性を身につけているが,これらの魚が広い海の中を幾千キロも泳いで元の海岸に帰りつき,多数の河口の中からひとつをえらび出して本流をさか上り,その途中幾百幾千とある支流の中から元の支流を選んで遂に故郷の水に帰り着くのはいかなる方法によるかまことに興味深い問題である。

実験講座 細胞内成分の分画・8

カテコールアミン含有顆粒の分離法

著者: 岡源郎 ,   吉田博

ページ範囲:P.224 - P.232

 アドレナリン(Ad),ノルアドレナリン(NA),ドーパミン(DA)などのカテコールアミン(CA)は,生体内に広く分布し,それぞれ重要な生理的役割を果しているものである。このうちAdは副腎髄質ホルモンとして多量に副腎髄質に存在し,NAは交感神経末端での刺激伝達物質として,また脳内とくに視床下部などに局在し,神経機能に関与していることがしられている。
 DAも単にAd, NAの前駆物質としてのみならず錐体外路系,腸,肺などに存在し,独立した作用物質として働いている可能性が示唆されている。

細胞内成分の分画・9

色素顆粒の調製法

著者: 清寺真

ページ範囲:P.233 - P.239

 色素細胞1)2)は発生学的に神経櫛に由来する細胞で広く動物界一般に存在している細胞である。そしてその外被の色彩をいろいろと形成する役目をしているその種類は非常に多くほとんどあらゆる色調がみられるがこの中で現在もつともよく解明せられているのが黒褐色の色素メラニンを生成するメラノサイトである。また魚類の赤ないし黄色の色素はxanthophoreやerythrophoreによつて生成されるカロチンやプテリンである事もわかつてきている3)。ここに記述しようと思う色素顆粒とはしたがつて主にメラニン顆粒についてである。
 今から約10年前頃には動物の皮膚,毛根,脳などに認められる黒褐色の色素穎粒はこれを総称してメラニン顆粒とよんでいた。ところが電子顕微鏡の発達により細胞内の微細構造が明らかになつてくるに及び光学顕微鏡下に認められたメラニン顆粒は主に上皮では基底細胞,毛根皮質細胞,真皮では組織球に含まれるmelanosome4)が数個集合した塊,ないしはmelanosome complex5)―一種のlysosome―である事が明らかとなつてきた。そしてまたメラニン生成をいとなむ細胞:メラノサイトの微細構造6)7)8)9)10)が明らかとなり,さらにこの細胞の生化学的検索11)12)が行なわれるに及んでメラニン顆粒の生成される過程がほぼわかつてきた。ここで少しメラニン顆粒について説明をしておきたい。

解説講座 対談

逆説睡眠について(2)

著者: 時実利彦 ,   島津浩

ページ範囲:P.240 - P.244

 睡眠の体液説
 島津 先ほど,睡眠の体液説というお話が出て,その例としてコリン作動性物質などを直接脳に入れて睡眠を起こすことができるということですが,もしこういう物質が,シナプスの伝達物質,あるいはそれに関連する物質であれば,それは脳の電気的な刺激と同じことになつてしまうわけで,これを体液説の根拠にできるかどうかは問題だと思います。ただそこにインパルスがいけば遊離される物質をたまたまそこへ入れたというだけになりますから。もう少し体液説に関連の深いような実験的な研究があるのでしようか。
 前に先生のところで低級脂肪酸を注射すると,はじめオーソ睡眠,つづいてパラ睡眠が起こつてくることをみておられましたね。こういう物質はもし注射したときのような高濃度では体内に普通にはないとすれば,麻酔薬というべきなのかどうか議論がでてくると思います。また麻酔薬と正常睡眠との関係ということになりますと,非常に複雑な問題があると思いますが,その辺についての先生のお考えを……。

海外だより

Columbia大学Grundfest研究室

著者: 山岸俊一

ページ範囲:P.245 - P.248

 研究室の雰囲気
 私は1967年9月末に,2年間の予定で,東京医歯大生理渡辺研から,このColumbia大学医学部の中にあるProf.Grundfestの研究室にやつてきた。きてみると話に聞いていた通り大変住み心地の良い研究室である。これには多分二つばかり理由があつて,第一にはDr.Grundfestの人となりがおうようで人徳があり,この研究室に,アメリカ国内はもちろんヨーロッパ,南米,日本の各国からやつて来る研究者達のテーマの希望を尊重して,あれこれ縛りつけるようなことはせずに,いわば1〜2年にわたつて放牧?している感じだからである。たとえいいdataがなかなかでなくとも,あまりしめつけるようなことはしない。このようなbossの影響もあろうと思うが,Associate Prof.のDr.ReubenもAssistant Prof.のDr.Krtzもそれぞれ個性的かつ良い人柄でdataや装置のことで話をもちかけると良く相談に乗つてくれる。三役が良ければ,この辺で作られる雰囲気は研究室全体に影響を及ぼすものとなるから,かくして気持の良い研究室となつているようである。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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