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文献詳細

雑誌文献

生体の科学19巻5号

1968年10月発行

文献概要

主題 嗅覚・1

サカナの嗅覚—その神経生理学的研究の現状

著者: 高木貞敬1

所属機関: 1群馬大学医学部生理学教室

ページ範囲:P.206 - P.223

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 Ⅰ.緒論—帰巣の機序について
 魚がするどい嗅覚をもつていることは,たとえば,サケやマスの帰巣の習性の研究によつても明らかである。十和田湖にヒメマスをはじめて放流した和井内貞行はその後毎年湖岸の木に上つて終日水面を見つめ成長したヒメマスの帰つてくるのを首を長くして待つた。サケやマスは卵からかえると,1年間をその水で過ごした後,河を下つて海に出る。オレゴン海岸のAlsea河の孵化場で産れた稚魚に印をつけて放流した所,5ヵ月後3,200キロ離れたアラスカ海岸沖で捕えられ,この魚たちに別の印をつけて放した所,2年後に3年魚となつて元の孵化場で捕えられたという報告がある(cf. Hasler, 1960 and Wright, 1964)。同様な研究は大西洋でも行なわれ,Cape Breton島のMargaree河から放流されたマスが,2年後1,000キロ近く離れた所で捕えられ,これに札をつけて放した所,3ヵ月後に元のMargaree河で捕えられたという(Huntsman, 1942)。
 マスやサケは2ないし7年間を太洋の中で過ごした後,元の育つた川に帰る習性を身につけているが,これらの魚が広い海の中を幾千キロも泳いで元の海岸に帰りつき,多数の河口の中からひとつをえらび出して本流をさか上り,その途中幾百幾千とある支流の中から元の支流を選んで遂に故郷の水に帰り着くのはいかなる方法によるかまことに興味深い問題である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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