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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学2巻2号

1950年10月発行

雑誌目次

卷頭

道は近きにある

著者: 小川鼎三

ページ範囲:P.48 - P.48

 電子顯微鏡がかつわれはじめてから,濾過性病原体もみえるようになり,生活体の構造も非常にこまかいところまで明らかにされようとしている.すでに結合組織の纎維や神経の軸索などについて今までの光学顯微鏡ではとうていわからなかつた構造が明らかにされたといわれ,電子顯微鏡の偉力とその將來の発展性が大いに感ぜられるのである.
 一方では同位元素を生活体にとりこませて,その行方を追求することによつて体内でおこる化学作用の一部はこの方法によつて自分の手のひらを眺めるごとく,容易に知られようとしている.

論述

病理形態學から見たアミノ酸單獨投與および所謂アミノ酸平衡—ヒスチヂン代謝に関連して

著者: 新井恒人

ページ範囲:P.49 - P.52

 まえがき
 我々生体に蛋白質乃至アミノ酸が極めて重要な地位を占めることは周知の事実であつて,就中アミノ酸の生体内代謝は生体の生活現象乃至生理的過程に緊要な役割を演じていると考えられる.從つて若しアミノ酸代謝過程に,特に長期に亘つて異常状態が持続した場合には,当然異常な生活現象として疾病の発症が考慮されることとなる.從來生化学的乃至栄養学的の多数の研究業蹟は種々の興味ある重要な事実を物語つているが,斯かる目覚ましい化学的の研究成果に比べ,生体内アミノ酸代謝乃至疾病発症の病理形態学的研究に就ては,其の研究方法の困難なために一般に業蹟に乏しいようである.筆者は予て病理形態学的乃至組織化学的立場から研究を進めつつあるが,ヒスチヂン代謝に就て其の單独投與の生体に及ぼす影響乃至他種アミノ酸との併合投興実驗,所謂アミノ酸平衡に就て若干の知見を述べたいと思う.
 ヒスチヂンは從來必須アミノ酸の一つとして知られて居たが,近年Roseの見解によれば人間には不可欠のアミノ酸ではなく,欠いても差支えないといわれているものである.併し之は若干疑問といわざるを得ないのであつて,一定期間の栄養試驗のみを以つて必須性を云々するのは些か尚早の感があり,事実生化学方面に於て近時ヒスチヂンがアルカリ性燐酸酵素の助酵素的意義をするとの研究1)があり,從つて相当の意義乃至必須性が認められるとの見解2)等,一概に必須アミノ酸から除外し得ないように思われる.

Actinophageの研究—(特にその分離精製と電子顯微鏡的形態に就いて)

著者: 藤原喜久夫

ページ範囲:P.53 - P.58

 緒言
 微生物に吸着せられて溶菌を起し,同時に自らは増殖を行う所の,一群の特徴ある有効原質を一般にPhageと呼んでいるのであるが,これに関する綜合的研究は1917年D'Herelleの発表にその源を発する.放線状菌に作用する所のActinophageの研究は1934年Dmitrieffの記載が最初である.即ち彼はActinomyces bovis Bostroemの比較形態学の研究中にその溶菌現象の発現をみたのであるが,更に1935年Dmitrieff及びFirioukowaはブイヨン培養に於いても同樣の溶菌の行われることをみている.又1936年にDmitrieff及びSouteéffはこのActinophageに対する感受性及び非感受性株の比較を詳細に行い,又このブイヨン培養溶菌液のChamberland濾液をとり,これを放線状菌症の治療に用いて良好な成績を得ている.

展望

筋肉の物性論的研究

著者: 菅原努

ページ範囲:P.59 - P.65

 1.緒言
 最近,生命現象の最も重大な鍵として特に蛋白質の問題が盛に研究せられるようになつて來た.この蛋白質は所謂高分子物質であつてその性質に就ては特に今までの化学や物理とは違つた幾多の新しい問題があつて,その解決には華やかな原子核物理学と並んで地味ながらもう一つの発展の道を進みつゝある化学物理即ち物性論の力をかりなければならない.
 例えば高分子ではただアルブミン,グロブリン,ミオシン等といつただけではその性質は完全には示されず,夫々その環境に應じて分子の形,集合状態,相互の結合の状態等が変り,それがそれらの分子が形造る物体の性質に重大な影響を及ぼす.從つてこの領域では物理と化学とを明瞭に区別することが出來ず,その中間の形のものが大切になり,或は物理化学と言い,又或は化学物理という訳で,こゝではこれらを物性論という言葉のもとにまとめて考える.

談話

ロング教授の一般講演

著者: 有山登

ページ範囲:P.66 - P.67

7月17日から開催の予定であつた日米医学協議会は,米國講師團の到着遅延のため1週間延期となつたので,その間の「つなぎ」に19日から3日間,先着のロング教授とサクラド博士がそれぞれ生化学と麻酔学の一般的講演を行つた.
 ロング教授はエール大学の生化学主任教授兼医学部長で年齢50歳前後,白髪であるが溌刺たる動作と自信に満ちた態度は研究に油が乘り切つていることを物語つていた.しかしわが生化学界に於て教授を知つている者が殆んどないということは戰争によつて日米学界の交渉が絶えていた期間の長さを今更の如く思わせるものがあつた.
 米國の基礎医学殊に生化学の教授はたいてい理科出身であるが,氏は医科出である故かその研究題目も医学的色彩が濃い.今回教授はわが医学全科の専門家を前に,脳下垂体前葉ホルモン及びそれに関聯する糖質代謝について講演したが,これは氏の最も得意とする演題ではあり,生化学以外の専門家にも深い感銘を與えた模様である.ロング教授の講演内容を生化学の立場から数項に要約してみよう.

研究報告

急性傳染病の病勢診斷に對する所謂疲勞判定法の價値(2)

著者: 福岡良男

ページ範囲:P.68 - P.71

(ⅱ)體温とDSR反應値.
 体温と反應値の関係は,一般には,35℃台では10点以下,36℃台では3.0〜12.0点,37℃台では10.0〜16.0点,38℃台では16.0〜23.5点,39℃台では20.0〜24.0点であり大多数のものは本温と比例する(第5図及第6図).尚この他に体温と比例せぬものがある.これを図表上の位置からその集團によつて,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,【IIII】の各群に分類することが出來る(第6図),Ⅰ群は体温が低き割に高きDSR反應値を示せるものであつて4例とも再燃前に出現せるものである,即ち間もなく再燃の始まることを示せる集團といえよう.Ⅱ群は体温の高いのに比して反應値の低い群であつて全例とも下熱期に入つて病勢が快方に進むと共に出現せるものである.即ち病勢の快方に進展せることを示している.Ⅲ群も体温に比して反應値の低い群であつて,しかもⅡ群よりも体温が一層平熱に近い群である.これは恢復期に微熱を示せる患者に出現せるものであり,これが如何なる意味を有するかは更に例数を重ねてから檢討する必要がある.【IIII】群は体温が平熱にあるにも拘らず本反應値が割合に高い群であつて,11例中下熱期に体温が弛張せる際に出現せるものが2例,恢復期に自覚的にも臨床的にも明らかに衰弱せる患者より出現せるものが7例,恢復期に歩行後出現せるものが2例である.即ち下熱期に出現せるもの以外のものは病後の衰弱のために出現せるものと考えられる.

網状赤血球(2)

著者: 妹尾左知丸

ページ範囲:P.72 - P.75

 前号に於て私は網状赤血球の網状物質が從來一般に考えられていた樣に核物質であるとするよりもポルフイリンであると考えた方が妥当である事を説き,又網状赤血球は全てが若い細胞ではなくて,幼若なものは全網状赤血球の略7318は老癈型である事を示し,之より赤血球の壽命を計算して,兎では30日余,人間では120〜130日であるとの結論に到達した.
 次に私達は病的状態に於て出現する網状赤血球に就て檢討すべく,瀉血性貧血,フエニールヒドラチン貧血等に就てこゝに増加する網状赤血球の性質を追及した所,何れも幼若型網状赤血球が著しく多く,老癈型は全網状赤血球の112113にまで減少している事を認めた(挿図7).之に依つてこの種貧血が著しく速かに恢復する事が理解される.然し老癈型は幼若型に比して著しく少いとはいえ,その絶対数は正常よりはるかに増加している.即ちこの時は赤血球の産生は旺盛であるが,一方その破壊も又促進されている事はこの実驗に依つて明かである.破壊促進の原因は貧血に依る酸素の欠乏に原因がある事は,試驗管内で酸素が欠乏すると赤血球の破壊が亢進する事実から推定出來るが,更に次の事実もこの推理の正しい事を示している.即ち瀉血を何回も繰返し続けて行くと,赤血球数が減少し,生体の酸素欠乏が著しくなるにつれて,老癈型網状赤血球の数は漸次増加して來る.即ちその含有率は全網状赤血球の18となり,更に14となり13となる(挿図7).

インフルエンザヴィールスの赤血球凝集現象(Hirst現象)に及ぼす正負コロイドイオンの影響並にその本態に關する研究—(B型ヴィールス(Lee株)を用いた場合のコロイドイオンの影響について)

著者: 宮本晴夫 ,   赤眞淸人 ,   吉津曉

ページ範囲:P.75 - P.79

 1.まえがき
 吾々は1)さきに溶血系に正及び負のコロイドイオンを作用せしめてその影響を観察したととろ,負コロイドイオンが溶血反應を阻止し,当量の正コロイドイオンが再び之を活性化するという興味ある事実を確認し,更にこの作用機構について種々の檢討を加えた結果,負コロイドイオンが感作血球に結合せずに補体の作用を不活性化していることを明かにし,負コロイドイオンの阻止作用量と溶血素量及び補体量との間には比例的な関係の成立することを認め,之と同樣な現象をカタラーゼに見た寺山2)等の実驗と照合するとき,補体作用を酵素系の作用と結びつける一つの絆として興味深い所見であると結論した.   ,かゝる正負コロイドイオンの影響は恐らく他の種々の生物学的反應現象に於ても観察されるであろうと推測し,その一つとしてインフルエンザヴイールスの赤血球を凝集する現象(Hirst現象)3)に適用してみたところ.インフルエンザヴイールスB型(以下I. V. B. と略す)が赤血球を凝集せしめる場合に,負コロイドイオンの添加によつて血球凝集が阻止せられ,正コロイドイオンがこの負コロイドイオンの阻止作用を中和するという溶血系に見られたと大体同樣な現象を確認するに至つたので,この新知見は現今全く不詳の域を脱しないHirst現象の本態の究明に多大の興味と示唆とを與えるものと信じ,こゝにその実驗の概略を述べる.

電撃に依る血小板數の推移に就いて

著者: 伊藤秀三郞 ,   牧野秀夫

ページ範囲:P.79 - P.83

 緒言
 電撃作用が生体機能に如何なる影響を及ぼすかと言う問題の中此処では特に末梢血液中の血小板数の変動に就いて調べた.此の実驗の動機は第25回日本獣医学会に於て伊藤が電撃作用の他の報告を行つた際市川氏が動物の電撃死の1次的死因は心臓麻痺ではなく血小板異常増多に依る血栓形成で心臓麻痺は2次的のものであると述べた事に依つている.血小板計算法は從來の手技を用いずして直接計算法に依り,供試した動物は兎猫犬及び海猽であつて其等の正常血小板数値をも定めて見た.

ツベルクリン過敏症に於ける豚の特異プリン體代謝樣式に就いて

著者: 大野乾 ,   諸林武俊 ,   和田卓

ページ範囲:P.83 - P.85

 豚が非常に特殊なプリン体代謝を行つている事実に就いては,本誌第1卷3号に報告させて頂いたが,其の後豚血清中の核蛋白の由來に就いて,又何故グアニンやサンチンというこの分解プリン体が,其の儘体液中を巡り,尿中に排泄されるかに就いて研究を続け,第2の点に関しては一應の解決を得る事が出來たので,此処に第2報として報告させて頂きたいと思う.私は最初核蛋白(デゾキシリボ核蛋白),ニユークレオタイド・グアニン・キサンチンをデゾキシリボ核蛋白の代謝に関係する一連の代謝過程産物であると誤解していたが,其の後,豚血清中に核蛋白が常在するという事と,多量のニユークレオタイド・グアニン・キサンチンが血清中に含有されているという事実とは,2つの全く別な豚属の特徴である事を知つた.1897年にE. Fischer1)は各種プリン体を人工合成したが,その中でグアニンに性質酷似せるその異性体2-アミノ-6歳キシプリンを得て,アデニンの部分的分解産物であると考えられる此の者の生物界に於ける存在を予言した.事実Buell,Perkins2)は1927年に豚血清より之を單離して,オキシアデニンと命名したのである.この重要な事実はその後顧みる人なしに葬られていたが,私共は氏等の業蹟を追試確認し,更に豚血清中にはアデノーシン3燐酸の代りにオキシアデノーシン3燐酸が存在するという興味ある事実を明らかにする事が出來た.

實驗室より

超遠心器による細菌學的研究—(九大式超遠心器と2,3ウィールスの分離)

著者: 戸田忠雄 ,   中川洋 ,   松田正彦 ,   大友信也 ,   福田武夫

ページ範囲:P.86 - P.89

 1.緒言
 昭和21年初めより九大理学部物理学教室に於て水野教授御指導の下に松倉保夫が超遠心器の製作をはじめ,22年12月には我國ではじめて圧搾空氣駆動によつて直径10cm重量約3kgのローターを48,000 rpmの高速度で回轉せしむることに成功した.昭和23年度より日本学術会議「超遠心器の製作とそれによる蛋白質及びウィールスの研究特別委員会」より研究費の配分を受け写眞1に示すような分離用超遠心器装置を完成し,現在直径約18cm重量約3kgのローターを使用して30,000 rpm(約65,000g)の遠心力場を得ることが出來各種ウィールスや蛋白質の分離が或る程度可能となつて來た.今回はこの超遠心器の構造の概要の紹介と,2,3ウィールスの分離成績とを簡單に報告する.

副腎皮質材能檢査法(Thorn's Test)

著者: 田多井吉之介 ,   森悠子

ページ範囲:P.89 - P.90

 意義:副腎皮質ホルモンが凡ゆるストレスにたいする生体の防禦材能に大きな役割りを演ずることは古くから分つていたが,その最新の知見についてはすでに綜説した1).この線に沿いThorn等2)が循環好酸性白血球数の変動を指標にした副腎皮質材能檢査法を発表してから,同方法が弘く臨床へも應用されるようになつた.たとえばRoche,Thorn等3)の最近の報告をはじめ,Davis等4)は外科的手術(帝王切開)の患者10例の好酸球変動を逐日的にしらべ,その経過が恢復状態に一致していること.かつ好酸球数が手術により減少しなかつた1例が死亡し剖見の結果副腎皮質機能不全が証明されたと報告しているしGabrilove5)も軽い婦人科手術後の好酸球が著しい減少をしめし,のち漸次恢復し手術前の値よりも上昇することをみたが,化膿症を併発した1例は2週後にいたるも手術前の値に達していないと述べている.さらにPerrault等6)は,腸チフスなどの傳染病患者において,経驗による症状からの予後判定よりも好酸球数の増減よりの判定がさらに正確であつた事実を報告している.

日米醫學者協議會の印象(生化學),他

著者: 宮本璋 ,   淸水文彦 ,   熊谷洋 ,   藤本克己

ページ範囲:P.91 - P.95

 少くとも吾々の部門に於いて,今度の協議会が,開会前にいろいろ危憂されたような不愉快な事も一寸もなく,甚だ円満にそして甚だ効果的に終始出來たのはうれしい事であつた.これは誰れでも云い合つたように偏えに團長のロング教授や生化学担当のキヤナン教授の人柄によつた事でこれらの両教授が米國でも一流の,ほんとの学者であつた爲めに,吾々は今度の協議会の長い期間を通じて,其の意味の"國境のない"科学の雰囲氣に浸る事を得たのであつた.
 私は今度の協議会に出席されなかつた方々に先ずこの雰囲氣に関して詳しく御報告しなければならないと信じている.何んとなれば,たとえもし今度の協議会が,発生的には巷間傳うるところの──これは勿論信じたくない事ではあるけれども──或種の不愉快な因子があつたにしろ無かつたにしろ,或は又実際に開会式の当日に於ける或る日本側の委員の式辞演説が,日本語のそれと,英語のそれとの間に,その内容が全く違つたものであつたりした不愉快さはあつたにしろ──こんな妙な,式辞の形式が公開の席上でなされた事は,恐らく文明國ではあまり類例のない事であるに違いないのであるが──しかしこんな不愉快さも,ほんとの"國境のない"科学の雰囲氣と云うものの前には,常に無視され蔑視され得るものである事を吾々が正しく確認し得た事丈でも,今度の試みは吾々にとつて誠に大暑を忘れさせる涼風であつた事はうれしかつた.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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