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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学2巻3号

1950年12月発行

雑誌目次

巻頭

物質と機能

著者:

ページ範囲:P.97 - P.97

 生物体を構成している物質に現在ほど多くの分野の学者が眼をむけている時代はないだろう.直接この方面の学問にたずさわつている生化学者のほかに,生理学者,純正化学者,物理学者,動物学者,植物学者,までが,一樣に生体構成に深い関心をよせている.20年前,私が大学の講義室で生化学の講義をきいた頃はビタミンA,B,C,D,Eという名前はわかつていたが,その化学構造は勿論わかつていなかつたし,純粹の物質として取出されるまでにもいたつていなかつた.それはただ生物学的,乃至臨床的の作用によつて知られていたに過ぎなかつた.それが今日では,ビタミンA,B,C,D,Eのいずれも構造がわかつて,そのあるものは合成によつて大量生産出來るまでになつた.
 最近にいたつて,蛋白質に関する研究,ことに蛋白質の物理学的性質と,分子内の構造に関する研究が非常に進んで,ある蛋白質ではその主体をなしているペプチード鎖の折れまがり工合まで推定されるようになつた.酵素に関する研究はことに色々の方面と関係がふかいだけあつて,毎年の進歩はまことに目ざましいかぎりである.新しい酵素が次から次へと報告されるし,酵素反應の反應動力学も微に入り細を穿つて少し専門をはずれた者には中中理解しにくいまでになつた.

展望

皮膚電氣反射(精神電流現象)に關する最近の知見

著者: 藤森聞一

ページ範囲:P.98 - P.103

 1.序言
 所謂皮膚電氣反射は感動をよく現す所から特に心理学的に興味がもたれているが,自律神経乃至汗腺機能の鋭敏なる標識として生理学的にも興味深い現象であり,特に近年Richter等によつて臨床生理学的研究が目覚ましく展開された結果,今後交感神経外科等臨床の実際面にも應用され得るものと思われるもので,以下此の現象に関する最近の知見を述べてみたいと思う.
 なお此の現象の名称についてはGildemeisterはGalvanischer Hautreflexの名称を提称しており,米國に於てもGalvanic skin reflex(response)の名称が使用されているので,心電図の場合と同樣にGildemeisterの名称を日本流に皮膚電氣反射と訳した方が穩当の樣に思われる.

論述

生体電氣發生論(1)—("膜説"批判)

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.104 - P.108

 1.前がき
 生体に電氣発生のあることは古くから知られている.西歴1世紀のDioscorideの"Materia medica"には,シビレエイに触れるとしびれることが記されている.しかしこの現在電氣魚として知られているものの電氣発生が確認されたのは1770年代たなつてからである.
 電氣発生が生体一般の生活現象とみなされるようになつたのは,周知のごとくL. Galvaniの"蛙の筋に関する研究"(1786-93)に端を発するもので,Volta,Nobili,Matteucciを経て,E. du Bois-Reymondが,多数の事実を系統的に研究して,神経,皮膚,筋肉について,その働作に伴う電氣発生を発見してからである.その後,Hermann,Engelmann,Biedermann,Bernsteinらが相ついで研究を進めて,生体の電氣発生および電氣生理学一般に関する基礎をつくりあげたのである.

神經及び筋纎維現象についての一つの考察(1)

著者: 吉田克己

ページ範囲:P.109 - P.114

 1.神經纎維の働作電流
 神経纎維に所謂矩形電撃を與えた時に,その電圧が,一定の時間に対して一定の強さを越えたときに,例えば0.5msec.位の持続に対して3)ミリボルト位を越えると,そこに所謂働作起電力が発生する.1)この事はその神経纎維が興奮したと言われ,從來神経生理学に於いて基本的な現象として知られていたものである.
 この動作起電力の起因に関しては色々と言われ,色々な物理化学的な仮設が立てられ,2)数学的取扱いが行われて興味あるものとなつている.

化學療法剤Gantrosanの試驗管内抗菌作用並に生体内濃度

著者: 八田貞義 ,   靑山好作 ,   丹治園枝 ,   中島富子 ,   林長男 ,   小澤茂子 ,   中井毅 ,   山本一朗 ,   長澤弘明

ページ範囲:P.114 - P.118

 1.まえがき
 病原細菌に対する化学療法剤の研究ばProntsilの発表以來,撓ゆまざる努力の成果としてSulfonamide誘導体(S誘導体と略す)はSulfathiazole(S. T. と略す),Sulfadiazine(S. Dと略す)と相次で有効な新藥の報告がなされ一つの頂点に達したかの感を與えたが,最近Nu-445,Gantrisin,1〜2)或はGantrosan-La Roche(3.4-Dimethy1-5-Sulfanilamino-isoxazole以下G. Sと略す)と呼ばれる高級Sulfonamide誘導体の合成並にこれについての成績が報告され,わが國に於いても最近それの臨床的効果が問われようとしている.そこでわれわれは基礎的な成績を得るためにこのもののもつIn Vitro抗菌作用並に生体内濃度について檢討を加えることにした.
 以下その成績について報告する.

シヨックに於ける糖質中間代講

著者: 茂手木皓喜 ,   飯島登

ページ範囲:P.119 - P.122

 1.緒言
 古來二次シヨックに於いては糖の代謝が最も強く障碍されると云われている.Aub and Wu(1920)並びにRoberston1)(1935)は動物の出血シヨックに於いて過血糖,乳酸焦性ブドウ酸の増加等を指摘し,以來これらに関していろいろの研究が行われている.しかし何れも同時にこれらの成分の消長を研究したものはない.又シヨックの種類もまちまちで,採血もせいぜい2,3回で,シヨック経過中の各成分の変化を時間的にみたものは殆んどない.シヨックに際してこれら成分の変化を知ることは,糖質中間代謝を研究する上に極めて重要なことである.そこで私達は,出血,外傷,熱傷,腸閉塞,腹膜炎に続発するシヨックにおけるこれら成分の分析をなるべく時間的に頻回に行つた.実驗動物は犬を用いた.

談話

アレルギーに密接するもの—第63回 東大病理学教室記念講演会

著者: 緒方富雄

ページ範囲:P.123 - P.127

 今日思いがけず,歴史あり.名譽あるこの教室の記念講演会の講演者に選ばれたことはまことに光栄である.
 私は,三田定則先生がやめられる9年前,先生の所望によつて血清学教室に入つた.特殊な血清学のことであるから,先生の後を継ぐ者がなかつたのである.三田先生がその後継者を人選されたとき,病理の心得ある者という條件をつけられたので,私がそれに当てられたわけである.それで今日は,三田先生のお心にしたがつて,病理学につながりのある血清学として,アレルギーを採りあげてお話をしたい.

Chrom酸酸化法による尿Vakat酸素測定法

著者: 齊藤利信

ページ範囲:P.128 - P.130

 Ⅰ 緒論
 1927年Müller1)は尿中不完全酸化物の酸化に要する酸素量を測定し,これをVakat酸素と名づけた.1932年Kanitz2)はこれを改良し爾來Kanitzの変法として用いられて來た.併し乍らこの方法によるときは,特殊な装置と比較的長時間を要し,又別に塩素量を測定して補正する等操作が複雜であり,又この方法は血液に應用し得ない等の欠点があつた.この点に注目した当教室渡辺3)はChrom酸酸化による血清Vakat酸素微量測定法を考案発表したが,余はこの方法を尿に適用し尿のVakat酸素を從來の方法に比し遙に簡易に且つ正確に測定しうることを見出した.

コロイド滴定の臨床的應用(その1)—人腦脊髓液蛋白量の簡易新定量法に就いて

著者: 森益太

ページ範囲:P.131 - P.133

 コロイド滴定法1),2)は昭和22年東大理学部生物化学教室寺山宏氏に依つて創始せられ,今日迄未開の分野として遺されていた諸電解コロイド(水溶性蛋白を含む)の微量定量法を完成された所のものである.氏の業績は昭和24年4月 日本生化学会に於いて発表せられ,私は氏の絶大なる御厚意の下に試藥其の他の分譲に與り本法の生化学的乃至臨床的應用を試みることとなつた.その結果先づ本法が人脳脊髓液蛋白定量法として應用せられる時は,從來臨床諸家によつて愛用せられつつある所の簡易脳脊髓蛋白定量法に比べて遙かに優秀にして,その簡易性,鋭敏性,正確性に於いて他の追從を許さないものがあることを確め得た.依つて其の方法並に成績を簡單に茲に紹介したい.
 私は脳脊髓液に対して寺山氏コロイド滴定法を実施して次の事実を確めた.

インフルエンザ・ヴイールスの赤血球凝集現象(Hirst現象)に及ぼすコロイドイオンの影響—第3報 各種動物の赤血球を用いた場合

著者: 宮本晴夫 ,   赤眞淸人 ,   古津曉

ページ範囲:P.134 - P.136

1.まえがき
 吾々は種々の生物学的反應現象に正負コロイドイオンを添加した場合の影響について多方面より檢討を加え,さきに負コロイドイオンが溶血反應を阻止する事実を認め,その作用本態について追求と考察を試み,1)ついでインフルエンザヴイールス(I.V.と略す)が鷄赤血球を凝集する現象(Hirst現象)に於いて,B型による赤血球凝集は負コロイドイオンにより阻止され,A型によるそれは何等の影響をも受けないという注目すべき新知見を確認するに至つた.2),3),4)
 しかして今回は鷄以外の他種動物の赤血球を用いてⅠ.Ⅴ.による凝集及びこの場合に於ける正負コロイドイオン添加の影響を観察した結果,知り得た2〜3の興味ある成績を報告する.

平滑筋及心筋の變形電位に就て

著者: 澤野正晴

ページ範囲:P.137 - P.138

 1.緒言
 皮膚の変形電位に就いては本川1)の報告があり,又最近,江藤2),3),4)は骨骼筋の変形電位に就いて種々の実驗を行つたが,余は平滑筋及び心筋等に於いても変形電位が観察される事を知つたので,此れに就いて行つた実驗の結果を報告する.

p-Oxybenzolsulfonamid誘導體の合成研究

著者: 太田淸彦

ページ範囲:P.139 - P.139

 余はp-Aminobenzolsulfonamid及び其の誘導体をdiazo化し,p-Oxybenzolsulfonamid及び其の誘導体を合成せるを以つて茲に報告する.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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