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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学2巻4号

1951年02月発行

雑誌目次

卷頭

基礎醫者

著者: 山極一三

ページ範囲:P.143 - P.143

 醫學と治病は無關係だと云つたら,途方もない事と眞向から叱られるに相異ないが中にはそれが嘘でないことを首肯する若干の人もあろう。前者は多數且無難で,成績良の及第者ではあるが,聊か概念に流れている嫌いもある。後者は小數且偏頗で稍異端者めいてはいるが,眞實を體驗する正直者の部類には屬する。一體醫學は醫に關する科學であり,自然科學の一分科である。茲で先ず醫の何たるかを解明するのが本筋であるが,假に醫と治とを同義語と解し,醫學とは治病に關する科學であると定義しても大過はあるまい。とすれば醫學と治病とは始めから一體であり,無關係どころの騷ぎではなくなる。だが醫學は「科學」なのであつた。それが治病に關する科學である限り,動機も多くは病人乃至病氣ではある。併し一度其行程の第一歩が踏み出されゝば,舞臺は忽ち一變して,問題は科學の俎上に處理されつゝ行くべき道をひたむきに行く。行くべき道とは,せゝこましい思辨に由て識別せらるゝ底のものではなくして,醫學をも含む科學一般の本質的性格的大道を意味する。斯くて臨床的に捉えられた問題も,學的處理と共に次第に病氣を離れ病人を遠ざかる。それを逸脱として,現實問題への復歸を絶えず心がけるにしても,それは研究分野の擴大を阻止するに止まり,而も如何に限局された分野に在つても,學者の活動の實相は或意味に於いて常に必ず目前の現實問題を離れている。

展望

化學的傳導物質と局在ホルモン

著者: 熊谷洋 ,   江橋節郞

ページ範囲:P.144 - P.148

 緒論
 神經衝撃傳逹**機構に關して,Dale等が革命的な化學説を樹立した背後には,當時の生理學に稀薄であつた新しい立場乃至方法,即ち藥理學に負うところが極めて多かつた。勿論,それ以前にも藥物を利用することは廣く行われていたのであるが,それは一つの手段,極言するならば,刺戟興奮,麻痺といつた抽象的概念の止むを得ない身替りであるに止まつていたのである。Daleは藥物の作用の中に,本質的なものか存在することを見拔いた。かくて生理機構との間に存在する連關を洞察することによつて,一見極めて大膽な化學的傳逹説へと發展したのである。それは新しい一つの立場であり,從來の電氣説乃至イオン説に對して排反的に對立さるべき筋合のものではなかつた筈である。しかし對立は現存するのであり,その中には立場の混亂,或は用語の不備にのみ歸せられない幾つかの重要な事實も存在する。問題は將來に屬する。この問題と關連して,物理學と化學が,從來の形式的な區分から脱却して,著しい變貌を遂げつゝあることは,我々に大きな示唆を與えるものである。
 Daleの化學説は,當然化學的傳逹物質と體磯構物質との連關の究明,即ち生化學的或は酵素學的研究を誘起する。(實はDale等の假説の背後には,常にcholinesteraseの問題が影の樣に添つていたことを忘れることはできない。)

興奮、傳播、並びに傳逹

著者: 小西喜久治

ページ範囲:P.148 - P.152

 電氣刺戟による興奮
 Arvanitaki(6)が記述した陽極に於る活動現象を除いては,本問題に就ての新らしい見解は今の所發表されていない。Katz(78),Schaefer(128)の古いモノグラフには興奮過程に關していろいろの理論が採り上げられており,之を實驗的に檢證する爲に種々な形の電氣刺戟が用いられたけれども,未だ判つきりと成功しているものはない。線形上昇電流では動物(138)でも人(87)でも,知覺神經は運動神經程に順應しない。人の神經に局所貧血を起させると順應が増大するが,此の局所貧血操作を解除したあとの可なりの期間は,事實上の順應消失が見られる。線形上昇電流は人の運動單位(motor units)を選擇的に刺戟するのに用いられ成功している(88,89)。神經を直接に刺戟した場合と隨意運動による場合とで電氣的活動を比較した成績から,いくつかの興味ある事實が明かにされた。作働の順序は兩者で同じであること,最初に興奮するものは小電位を出す單位であること,反復活動の頻度も兩者で略々同じであることなどである。
 筋端板に特有な興奮曲線を見出さうとして行われた實驗(84)があるが,單一神經筋線維標品では見出し得なかつた。然し此の實驗でKufflerはCurarineの麻痺量以上を用いても筋線維の興奮曲線に影響しない,と云う既知の知見(64)を確かめている。

論述

生體電氣發生論(2)—「膜説批判」

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.153 - P.157

 6.新しい膜説の誤謬
 Bernsteinの膜説は上に述べたように靜的な單純な電氣二重層を持つ分極膜を想定しているのであるが,新しい實驗事實は次第にその再検討と改訂とを要求して來つゝある。すなわち,Hodgkin and Huxley1)(1939)はヤリイカの巨大神經纖維の中に細い導子を突込んで,膜の裏と表との間の靜止電位を測定し,神經が活動する時には,この靜止電位の消失を超えて陰性化がおこり逆向きの分極がおこることを觀た註)。ついでCurtis and Cole2) 1942)も同樣のことを確めた。
 この實驗事實から,活動時の電位は膜説が主張するように,たゞ靜止電位が脱分極によつて消失したというだけでは説明がつかないことを觀て,活動時にはたゞ膜に孔があく(脱分極)だけでなく—從つて膜説のような考え方だけではいけないのであつて,どうしても逆向きの分極(膜の外側に積極的に陰荷電がおこるということ)がおこるのでなければならない,というのである。すなわち,この活動部に積極的に陰荷電のおこるということが,膜説において改訂されなければならないといつている。さらに,Graham and Gerard3)(1946)は,カエルの單一神經纖維においても,ヤリイカにおけると同樣に,活動時において逆向き分極を確かめたといつている。

神經及び筋纎維現象についての1つの考察(2)

著者: 吉田克已

ページ範囲:P.158 - P.161

 §5.神經纎維内のイオンの運動
 以上に於て,神經纖維に刺戟電流を與えたときにどのような變化がおきるかを,刺戟電壓の高く時間の短い時から刺戟電壓が低く時間の長いときに至る各部分について觀察してみた。
 前述せるような構造を考えた時に,この神經纖維に電壓を與えて行つた時に起るイオンの擧動について更に考えてみよう。

談話

國際生理學會見聞記(要旨)

著者: 久野寧

ページ範囲:P.162 - P.164

 第18回國際生理學會の模樣をお話します。大變な學會で,集る者は男女合せて1,700〜1,800名,演題の數は約600で,後に云う8つのgeneral discussionのほかは,10ヶ所に分れて發表された。ヨーロッパの人々にはかなり前に抄録がくばられておつて,それによつて大體見當をつけることが出來るのであるが,此方にはその樣なことがないし,第一出發に色々困難があつて,8月14日午後9時に開會されるその當日のしかも午後6時にやつと着いた始末であるし,ホテルの事などで開會の時にやつと間に合つた位であるから,それらの演題について,都合よく聽くことは出來なかつた。それに,行きの飛行機で腹をこわして,最初2日間は殆ど病人の有樣であつた。申譯ないことであるが,今日申上げるのは,全くの斷片,管見のしかも斷片であることを御諒解願いたい。
 まず演題のことであるが,演題の多いのには昔から困つていたのである。それは,この會が生理だけでなくて,生化學,藥理を一緒にするコングレスである爲であるけれども,これを分離することは出來ない事情がある。分離の話も出たことがあるが,それでは折角のこの學會の意味がなくなる。1838年チューリヒの學會前には,學會の1年か半年か前に演題を申込み,事務局でそれを印刷して,各國にくばり,討論の申込みのあつたものだけを發表させ,他は誌上發表ということにしようということになつた。私共は中國と協同して,それに反對した。

癌の生物學管見

著者: 中原和郞

ページ範囲:P.164 - P.168

 私はこういうお話をするのが不得手なので何時もお斷りすることにしているのですが,この會には昨年も呼ばれましたし,是非にというので參りました。昨年春,久留君に頼まれて,金澤まで講演に參りましたが,その時は,標題をどうするかと云うので,私は癌のことについて何でもしやべれる樣にしておいてくれゝば題はどうでも良いからと云う樣なことを云つときました所,行つて見ますと「癌研究の過去,現在及び未來」ということで,成程それなら勝手にしやべれるわけですが余り題が大袈裟なので降參しました。今度はそんなわけで,私考えまして,「癌の生物學管見」として下さいとお願いしたのですが,これは實は私仲仲得意なので,こうしておけば,何でも勝手にしやべつて良い。癌を大空にたとえれば,私はそれを望遠鏡でのぞいてお話すれば良い。ピントをどの邊にあわせてもそれはかまわない。望遠鏡は,場合によれば,顯徴鏡でもかまわない。しかもインメルジョン等でしぼつた極く極く小さい部分の話になるかも知れない。そのつもりでお聞き願いたいと思います。

報告

生體内イオン交換現象に就て

著者: 山本淸

ページ範囲:P.169 - P.172

 1.私共が生體についてイオン交換吸着の現象を考えるようになつた端緒は,生きているガマを使つて皮膚の水透過量を測定する實驗1)2)に次いで,イオン交換樹脂を用いて卵白アルブミンの脱鹽を試みる實驗3)を行つた,ことにはじまる。透過性とイオン交換樹脂の間には一見何の關連もないが,實驗を進めるに從つてイオン交換現象が生體内に於ても行われること,それがイオンの透過性,拮抗作用,中毒等を理解する上に重要な鍵であるらしいことが明かになつてきた。又血液特有のはたらきと考えられ勝ちHの緩衝作用は,むしろ體内の蛋白一般のもつ普遍的なはたらきと考えられ,又蛋白一般のもつ緩衝作用はHに對するだけでなく,廣く陽イオン一般にも及ぶと考えられるようになった。從つて又,Hと他の陽イオンは生體内で干渉することが考えられ,そのことから臨床上認められている酸血症と中性鹽類の關係が理解される。これらの點については後に言及する。
 以上にのべたことの一部は尚推定の範圍を出ないが,とに角私共は生體内での蛋白質とイオンの相互關係に強く興味をひかれ,實驗を進めている。

改良計算法に依る血小板正常數値に就て

著者: 牧野秀夫

ページ範囲:P.172 - P.174

 諸言
 血液有形成分の一因子である血小板に對しては1844年にDonnlが,その存在を認めて以來,此の大體に對する感心が次第に高まり,血小板の生成機轉及機能的研究が盛に行われた。併し一定血液量中の數値計算法に關しては,血管外に血小板を取り出す事に依り速に破壞するので1921年にFoniv氏法の發表以來以來大なる進歩を見ず今日に至り總て此の方法が取られていると言つても過言ではあるまい。偖此方法は間接的測定法であるからかなりの誤差を生じ,從つて血小板の數的取扱に於ては數値自身の價値よりむしろその變動傾向に主きを置く結果と現在迄の報告はなつている。此事は生理的状態に於ても大きく變動を來し他の有形成分の計算値と較べにくい事になる。尚血小板は赤血球に次ぐ數量を血中に持ちその變動も多い時は20萬内外に逹する。例えば減少の場合術式上の不備のみでなく血小板自身の崩壞に依る事を考えると何れかをより正確にする事が望ましい。
 以上の事實から血小板を他の血球の如く直接法にて計算し而もその實測値より變動傾向が判るものとすればFonio氏法の如く血球計算塗抹標本作製の手數もはぶけ臨床上の利用度も増すものと考えれる。

オタマジャクシ心臓の生理學的研究

著者: 石原明

ページ範囲:P.175 - P.179

 1.緒言
 今までオタマジャクシは發生學の領域に於て,主に形態學的,組織學的研究の對象として用いられてきた。從つて機能的なことは形態學を通して知られることが多く,殊に心臓については,器官發生はよく調べられているが,その機能的なことがらはあまり調べられていなかつた。
 私は,私どもの教室のテーマである心臓の歩調取りの研究1)の一端として,成長期にある幼若な心臓の機能について調べてみたいと思つて,次の實驗を試みた。

風の局所適用に依る體温の變動

著者: 京塚亘夫 ,   林暎子

ページ範囲:P.179 - P.180

 環境實効温度の著變に伴い生体の体温調節に異常が起り体温が變化する事は既に解つている。
 所で身体の一部分のみに寒風或は熱風を與える樣な研究が少いので動物實驗を試みた次第である。

心臓靜脈洞の内壓及び容積の變積とその外部的仕事(その1)

著者: 矢部敏雄

ページ範囲:P.181 - P.184

 Ⅰ.緒言
 心臓内壓の搏動周期に伴う時間的變動についてはPiper(1)が詳細に研究して以來,多くの報告がなされている。心内壓曲線(tonogram)は心臓の搏出量(cardiac output)を左右する要因の一つであり,搏出量の測定には"Fickの原理"(Fick's principle)を基礎とするのである。Fickの原理は
 搏出量(毎分)=消費O2量(毎分)/動脈血O2-靜脈血O2=産生CO2(毎分)/靜脈血CO2-動脈血CO2
で表現せられる。Patterson and Starling(2)はFickの線に沿つて搏出量の測定を詳細に研究し,いわゆる"Starlingの法則"(Starling's law)を確立した。この法則は骨骼筋について得られた結果とよく一致することは興味の多い點であろう。
 最近人間の心臓の搏出量についての研究が活溌に展開されて來た。例えばCournand, Ranges and Riley(3)は正常循環時に於ける搏出量をO2消費量その他から測定しておる。殊に心臓消息子法の最近に於ける研究は著しくわが國でも既にこの方面の研究がはじめられ右房並びに右室のO2消費量並びにelectrocardiogramの研究に新生面が拓かれようとする機運にある。

紹介

Hartridgeの多色説

著者: 藤本克己

ページ範囲:P.185 - P.187

 本年6月10日發行のBritish Medical Journalに英國Medical Research Councilの視覺研究班長Hartridgeが「視覺生理に於ける最近の進歩」**と題する綜説をのせている。視覺に關しては戰爭中から戰後に及んで盛んな研究が行われ,近代物理學及電氣生理學の應用によつて著しい發展が遂げられている。我國でも此の方面の研究者は甚だ多く優に班研究を構成するに足る程度であり,先頃Granitの網膜電位に關する書物が來て大いに刺激を與えたが,本川教授の新研究が進展するに及んで生理學會はもとより心理學方面等でも大問題となつて討議追試が活溌に行われたのである。一方Neurophysiologyにこの論文が發表(1949)されるや,外國の研究者の間にも多大の反響を呼び,Granit等は賛意を表してその發展を期待していると傳えられている。Hartridgeも亦自説に對する有力な事實としてこれを取り上げており,此の綜説でも壁頭にこれを引いている。此の中ではGranitのModulator-Dominator説に關する問題にも觸れてあるので,此處に大要を紹介することとする(但しこれはPart ⅢであつてⅠとⅡとは1946年と1947年に出ている)。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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