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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学2巻5号

1951年04月発行

雑誌目次

卷頭言

學會と討論

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.189 - P.189

 ことしは,日本醫學會總會が,4月1日から5日まで,東京で,東大を中心としてひらかれた。分科會の數41,演題の數5,100,參加の會員1萬7000,それに分科會の會員を加えると全參會者は2萬5000以上にものぼつた。
 數と量との上からは,文字どおり未曾有の盛會であつたが,各分科會のひとつびとつの演題についてみると演説時間は,5分〜10分といつたところで,追加討論は2〜3分というのが,大體の傾向であつた。

展望

回顧と展望—我が解剖學界に於ける發生學の研究動向について

著者: 鈴木重武

ページ範囲:P.190 - P.196

 Ⅰ
 この頃私共の手許にも,到底戰前の比ではないとしても,とにかく幾種類かの歐米の專門雜誌が見られる樣になつた。書棚を見ると戰前のこれらの雜誌の最終は大體1941年頃であるから,歐米の學界との交渉再開はかれこれ10年振のことである。つまり過去約10年間我が國の學界は全然世界の學界から隔離されて,恰も胚子から切り離されて外植されたその1部分が,その時それ自身に内在している發生能のみによる發生換言すれば自律分化をつゞけるように,その時持つていた能力をもとでに自力のみで今日の状態まで漕ぎ付けたが,昨今を轉回點として再び世界の學界の影響下に復歸せんとしつつあるわけである。
 從つて私はこの機會に於て自ら專攻する解剖學の1部門である發生學の我が國に於ける現在の研究動向を考察することは決して意義のない事ではないと信ずる。そして現在の動向は當然過去の研究を無視しては考えられないから,結局わが解剖學會設立以來の發生學研究の變遷を一瞥し次で現状を展望してその研究動向を明にしたいと思う。資料としては日本解剖學會第1乃至第55回總會の研究發表の演題並びに學術會議の昭和16乃至24年の「現行研究題目」を用いた。これは唯々各時期の代表的な研究題目,方法等を簡單に知るに好都合と考えたからに過ぎない。周知のように元來研究動向を捕捉することは甚だ難しく,稍もすれば當を失し勝である。

「自然免疫」概念の再検討(1)

著者: 川喜田愛郞

ページ範囲:P.197 - P.200

細菌學・免疫學の歴史的な理解が今日における斯學の問題の所在を探る上に極めて有力な方法の一つであることについて,わたくしの信頼はちかごろ日とともにふかい。(1.2.3.4)
 さきに「血清學の黎明期の歴史」(3)と題する論文を記述したあと,わたくしは年代的にそれに續く二三の重要な業績を中心に古い文献を渉獵しながら,それが發展して現在どのような相貌をとるに至つたかを考察する仕事を自分に課した。餘事に妨げられてその勉強はなかなか捗らず,いつの日にそれが形をとるか差し當つてはつきりしたあてがないが,その前に,やや傍き道ながら,かねがね氣にかかつていて前報(3)でも輕く言及せざるをえなかつたところの一つの問題,いわゆる自然免疫について自分の考を一應まとめておくことが,これまでの記述を補足する上にも,また話をこれから先に進めるためにも,一つの大切な手續きではあるまいかと考えるに至つた。

論述

ビタミンB2の化學的定量について(Ⅰ)—ビタミンB2總量の測定法

著者: 八木國夫

ページ範囲:P.201 - P.208

 はしがき
 ビタミンB2(以下B2と略)即ちRiboflavinが榮養素としては必須のものとして認められ,生體内においてはその燐酸エステルであるFlavin mononucleotide(以下FMNと略)や更にそれにアデニール酸の結合した構造のFlavin adenine dinucleotide(以下FADと略)となり,重要な酸化酵素の補缺分子族として生體酸化に大切な役割を演じていることはこゝに改めて云うまでもない。從つて廣く醫學や生物學の領域において檢體B2量の正確な測定が要望されることは屡々である。而もその定量は比較的簡易な操作で,且つ特別な装置を要せずして行い得ることが望ましい。私はB2の生理作用を研究するに當つて如上の條件に適う化學的定量法の必要にかられ,種々檢索した結果,B2總量の測定にはルミフラビン螢光法を檢討した上簡易化し,前述のB23型即ち遊離B2,FMN及びFADの分劃定量にはペーパー・クロマトグラフイーを用いる方法1)を考案し,所期の目的を達することが出來た。
 今回はB2總量の測定法,次回は分劃定量法について述べ,これによつて直ちに實施し得る程度詳細に記載報告して,大方の御批判を得たい。

談話

器官の除去及移植と生理(1)

著者: 梅谷與七郞

ページ範囲:P.209 - P.212

 私が昆虫における器官の除去や移植の實驗を始めてから早や30年も經過し,今日なおこの方面の研究を續けているので,これを一々ここで述べることは時間が許さない。それでその中主なる事項について所信をひれきしたいと思う。大體私は學會で自らえた結果を公表することを唯一のたのしみにてそれを毎年實行してきたが,綜合的にまとめて長時間講演したことがなく,又面倒くさくつて氣も進まなかつた。この生機學會でも橋田先生が御存命中何かやれと若林教授などに勸められていたが,前記の理由で氣が進まず今日に至つたが先日若林氏からもうやつてもよいでしようと勸められ,ここに立つたわけですが決して勿體ぶつたわけではありませぬ。
 私は多年遺傳子が形質を發現する上に,染色體萬能論者が主張するようなGene→Charakterの直結した考え方に飽き足らず,今日までGeneを育てる細胞質のダイナミツクな作用を信じ,前記の直結したGapを細胞質でうめてこそ初めて形質發現の過程が判然すると信じてこの方面の努力を續けてきた。最近ソ聯のLYSENCOの爆彈的意見即ち形質發現にGeneを輕視或は否定し,環境を主とする説は行きすぎであつたかも知れないが,少くとも痛い處に觸わられた感じを與え,それだけに斯界に大波紋をまき起させるに至つた。私も日頃主張してきた細胞質の役割に對して漸く一般が注目するようになり,少くとも私にとつては我が時來れりの感じを與えている。

報告

毛細血管反射に關する研究

著者: 銭場武彦 ,   入澤宏

ページ範囲:P.213 - P.216

 緒言
 毛細血管の收縮性に就ては,Krogh(5)がそのindependent contractilityを追及し,西丸(7)はそのactiveのものとpassiveのものとを區別したが,これ等の收縮性が毛細血管内血行調節に如何なる機轉を示すかに到つては未だ充分には究明されていない。
 毛細血管内血行は常に一樣のものでわなく,血管壁自身の状態や血壓,血量等々の因子により絶えず變化しておる事は西丸(7)の實驗に明らかなばかりでなく,腎Malpighi氏小體内の血行(Richards, 8)や筋肉内血行(Krogh, 5)にもよく示されている。吾々はこれ等の血行を調節する機轉に就て追及し,毛細血管相互間に反射的調節機構の存在を認めたので茲に報告する。

腦脊髓液排除の前庭迷路機能に及ぼす影響—家兎(特に蹲踞位に於ける)腦脊髄液壓

著者: 近藤潔

ページ範囲:P.217 - P.222

 緒言
 1940年我恩師大藤教授(1)は其門下永井(2)(3)と共に,腦脊髓液排除(以下液排除と略記す)が先天性聾唖の聽力恢復に著效あると同時に,失調せる前庭迷路機能にも多少に拘らず好影響を及ぼすものなることを創めて發表して,其本態的推論を行い,他方草場(4)矢野原(5)齋藤安野(6)は腦脊髓液壓變動と前庭迷路機能とに關する實驗的研究を各々獨自の立場より發表する處ありて,前庭迷路機能が腦脊髓液壓(以下液壓と略記す)と密接なる關係に樹つことは,數多の諸家に依り臨床學的に將又動物實驗學的に立證せられ,前庭迷路機能と液壓とは密接なる關係下にありて,種々なる方面より考慮せらる可き問題を含むに到れり。
 余は大藤教授の命に依り上記の液排除操作が,メニエール氏病,内耳炎等の場合に於ける亢奮且刺戟性の前庭迷路機能に對し如何なる影響を及ぼすものなりやを究明す可く,家兎を使用し,低壓環境に因り前庭迷路機能の亢奮刺境性の状態を作り,實驗的に之が關係を檢索せり。先ず(其の1)に於ては本實驗の基礎となる可き家兎の液壓に就て觀察せり。

ささやき母音の音響分析に就いて

著者: 小林禎作

ページ範囲:P.223 - P.228

 緒言
 母音の解析的研究は古くから多くの人々に依つて行われ,その發聲機構については,H.V.Helmholtzによつて代表される共鳴説とL.Hermannらによる吹き鳴らし説とが論議されて來たが,兩者は唯見方の相違に基づくものであつて,聲帶の振動により發せられた咽喉音が口腔及びその附屬管腔で共鳴して各母音に特有な部分音が強調され,所謂フオルマントを構成すると云う考え方に本質的には一致するものと思われる。
 母音の波形は各々に特有な略々周期的な波形でこれらの波形の一周期について調和分析を施しスペクトルを求めると,各母音に特定な部分音が強調されている。この部分音が母音を特色づけるフオルマントであり,このフオルマントの相違によつて各母音が區別されて聽えるのである。尤もこれが母音を特徴づける總てではないことは勿論であるが,少くとも最も重要な要素と考えられる。この母音曲線の調和分析の方法は今日迄專ら多く用いられ,日本語母音についても小幡氏等によつてそのフオルマントが求められた。

紹介

神經系並びに筋に於ける生物電位(2)

著者: ,   小西喜久洽

ページ範囲:P.229 - P.232

 接續部に於ける衝撃の傳達
 此の問題に關する諸見解の背景に就ては,本シリーズの初めの方で既に述べてあるから此處では新ためて述べない。亦此のシリーズの最初の評論〔(29)P. 398〕には次の樣に記されている。即ち「シナプス傳達を説明するものの中で最も一般的に是認されているのは,シナプス前衝撃(presynaptic impulse)により少量のacetylcholineが遊離され,之が細胞體に興奮性過程を惹起すると云う見解である」と云うのであつたが,其の後生理學者の此の問題に對する見解にも推移が見られ,夫れに就ては第二の論議(66)以下に特に述べておいた。
 扨て上述の如く,シナプス傳達時のアセチルコリンの遊離が報告され,論議の對象になつたが,アセチルコリンが電氣的活動と不可分離の密接な關係をもつとの見解に從えば,此の問題の説明もつくわけである。神經活動時にアセチルコリンが遊離されゝば,報告されている程度の少量は膜とcholinesteraseの防柵を突破してゆく事になるだろう(109)。唯,茲にも遊離されゝばと云う想定がある。夫れは前に論じた多くの見解に共通な想定でもあつた。次にアセチルコリンの特異的興奮作用と,Loewi(94)が指摘した樣な神經刺激の場合に現われる組織の抑制効果とに就ては,未だ満足な説明がない。

ケンブリッジだより

著者: 田崎一二

ページ範囲:P.233 - P.234

東大の皆々樣
Cambridge
三月十四日
 BernからCambridgeへ參りましてすでに3週間になりました。相變らず御無沙汰ばかりしていて申し譯けないと思うのですが,その日その日のいろいろの事に追われて中々手紙を書く機會に出會いません。
 生理の古顔の皆樣や杉樣,山極樣,勝木樣など一々お手紙を差出すべきなのですが,この二階の食堂あてに出しておけば皆樣が大體お讀みになり御無沙汰を許して下さるであろうとの實に横着な考えから,この手紙を出す氣になつたわけです。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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