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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学20巻1号

1969年02月発行

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巻頭言

生体の科学20年の回顧

著者: 熊谷洋

ページ範囲:P.1 - P.1

 政治体制,社会制度の未曾有の変革と経済的かい滅に遭遇して,人々はただ一日を生きのびていく事だけが,精一杯の時代に,われわれの心の支えとなつたものは,自然科学者として,真実への探求の心のみであつた。しかしこれにこたえるものとしては,米軍提供の図書館のみが,外国に通じる窓であつた。
 筆者をも含めて東大の基礎の若手研究者が寄りつどい,ほそぼそながら,研究へのともしびをかかげ,同志の研究へのいざないを目的として発足したのが本誌であつた。

主題 発生,分化・1

発生学序論

著者: 腰原英利

ページ範囲:P.2 - P.12

 発生の多彩なドラマは,尨大な記載によつて描き出されてきた。これら記述の整理には形態学的にも,細胞組織化学的にも,生理化学的にも整理が任意的で,時に抽象的真実への意欲が辛うじて支えてきたといえるであろう。中でも実験発生学は形態を指標に,機能の発現の面から理解—記述の把握—に一応成功した。しかし今日,発生学は生産的でなかつたとか,発生学という分野はないのではないかといわれることの理由は,"発生"とか"分化"は"生命"と同じような意味で抽象的把握の期待でしかなく,それらの真実は個々の生物の発生分化の中にのみあるからではなかろうか。それにも係わらず,生物の発生という"tempospacial pattern"を求めるのは,物事の理解が,実証的過程からの事実の集積という遠心性と,抽象的真実への包含という求心性とから成り立つからである。発生現象の理解もこの両方向への脈動を経過して行なわれつつあり,今日の分子生物学の展開が,今までの発生学の知識大系に新しい枠と同時に混乱を惹き起こしつつあるのも,大きな脈動とみることができる。発生学の分野でも生物物理学の方法の有効性はますます発揮され,分子生物学がもたらした遺伝情報発現の制御機構と蛋白のallostcric effectsという概念の導入は広く適用されつつある。
 このような巨大な脈動の中でゆれ動いているものにとつて,全貌を捉えることなど始めからできる筈もない。

実験講座 細胞内成分の分画・11

ミクロゾームの分離と細分画法(2)

著者: 伊藤明夫

ページ範囲:P.13 - P.20

 Ⅲ.ミクロゾーム(小胞体)の細分画法
 前号で述べたように,ミクロゾーム画分はかなり不均一なもので,主成分である小胞体にしても,表面にリボゾームがついている粗面小胞体(rough-surfaced microsomes)と,ついていない滑面小胞体(smooth-surfaced microsomes)との二種の形態的に異なる膜成分に分けられる。この他,ミクロゾーム画分には遊離リボゾーム,グリコーゲン顆粒,フェリチン粒子などの非膜成分も沈降してくる。これらの成分が形態的ばかりでなく機能的にも異なつているのではないかということは,ミクロゾームの機能的多様性から容易に予想される。そこで,それぞれの成分の機能を厳密に調べるためには,ミクロゾーム画分をさらに細分画して各成分をより均一に分離することが必至となる。
 ミクロゾームの細分画の試みは先ず,リボゾームを他の成分(特に膜成分)から分離することにはじまつた。近年になり,ミクロゾームの構成成分の大きさや密度についての知見と遠心技術の進歩とが相俟つて,粗面小胞体と滑面小胞体,膜成分と非膜成分などの相互分離が可能になり,いくつかの方法が報告されるに至つた。以下に,それらのうちの代表的な方法を紹介する。

解説講座 鼎談

カテコールアミンについて(1)

著者: 吉田博 ,   菅野富夫 ,   大塚正徳

ページ範囲:P.21 - P.28

 □カテコールアミン研究の現状□
 大塚(司会) 吉田先生と菅野先生にお忙しいところをおいでいただきましたので,カテコールアミンを中心にお話し合いをはじめて頂きたいと思います。
 カテコールアミンはホルモンであると同時に伝達物質であるといつた特異的な物質で,二つの面をもつています。もう一つには生化学的,生理学的,あるいは形態学的,薬理学的に,いろいろな方面から研究されて,それが最近になって実を結んでいるように思います。たとえば,アセチールコリンなどは主として生理学的な面から追究されているのと比べて,カテコールアミンの方は多様な方向からの研究が成功して,最近,大きく進歩したというようなことがあるかと思います。だいたいの現状の概括というか,展望をまず吉田先生からお話していただきたいと思います。

海外だより

国際生理学会の印象

著者: 入沢宏

ページ範囲:P.29 - P.32

 24回の国際生理学会は去る8月25日から31日の間,Washington D. C. のSheraton-ParkとShorehamとの二つの巨大なホテルで行なわれた。元来ならば,この学会の模様をもつと詳細に正確に報告するのが当然であるが,学会自身がちようど日本の医学会総会と同様あまりにも大きすぎて,結局は自分の興味をもつごくわずかのセッションを聞くにすぎず,十分の報告を書くことができないが,学会の前後を通じて感じたことを二,三書いてみようと思う。
 国際生理学会に行つて第一に感じたことはわが国からきわめて多くの演題が出されたことで,今までの国際生理学会にはなかつた事のように思う。演題は1460題の多きに及んだので,学会事務局は演題の制限をしたが,日本からの出題は60題以上に及び,これに在外留学中の邦人の50題以上に及ぶ出題を加えると,世界の生理学の約一割の人口が日本で占めていることとなり,6年前のLeidenの学会当時にくらべると,日本自身が発展したことを目のあたり知つた次第であつた。日本からの出題中約40題(60題中)は日本の生理学教室から出題されたものであつたが,この他20題に及ぶものは,関連基礎教室や臨床教室などからの出題であつて,生理学に興味をもつ医学者が多いことを示していた。

総説

外眼筋線維の形態と機能の特徴

著者: 伊藤文雄

ページ範囲:P.35 - P.48

 I.はじめに
 眼科医でない著者が外限筋の構造や機能に興味を持つた理由は二つある。第一は著者の研究の主題である筋受容器が外眼筋で如何なる形態でかつ如何なる機能をはたしているかという問題。第二はこの筋感覚器の機能を考える時どうしてもそれを撓囲している筋線維の性質を知つていなければならず,また筋紡錘中の錘内筋が他の錘外筋線維に比して細く,多重神経支配され,遅い収縮をしているのと似て,同じような筋線維が外眼筋では錘外筋中にも多数存在することがわかつているからである。ここではまず第二の興味である外眼筋線維について最近発長された多数の研究やreviewを基にし,著者の実験結果および多少の私見を織り込んでみた。表題に外眼筋についてとしてあるが,外眼筋以外の骨格筋さらに平滑筋までも含めて説明する点を最初にお許し願つておく。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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