icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学20巻2号

1969年04月発行

雑誌目次

巻頭言

学園紛争に思う

著者: 楢林博太郎

ページ範囲:P.49 - P.49

 昭和43年の1年間を通じて,われわれ多少とも教職や研究職にあるものにとつて,その心をもつとも強く痛めたものは,ベトナム戦争でもなく,月ロケットでもなく,やはり,われわれの身近かな学園の中の激しい対立,紛争であつたといえるであろう。東大や日大,その他数校が不幸にして頂点に立つたとはいえ,このような紛争の起きる培地,素地は全国の,真面目にそのあり方を考えようとするほとんどすべての学園に潜在しているということができる。その理由は個々様々であろうが,すなわち明治の昔に制度化された講座制のあり方,医学部を中心にした余りにも極端な中央集権化,また学生数の増加に伴う意志疎通の欠如,設備の極端な狭少,不足,学生運動の政治的偏向など,指摘する人によつてそのニュアンスは異なつても,これらは,いわゆる古くから大学として自他ともに認められている学園には多かれ少なかれ存在しているし,日本の社会機構とも密接に関連している。
 これらの一つ一つを根本的に機構を改革してゆく努力は惜しまれてはないが,その間の混乱,才能の損失は莫大なものがあろうし,非常に長期の見透しと,透徹したイデーの下で推進されなければならない。ここに,筆者はいつも若い友人と話すごとに思うのは,ただちに実行できて,しかも恐らくはきわめて徹底した効果を生むと考えられる方法がある。

主題 発生,分化・2

発生過程における核酸合成の調節機構

著者: 山名清隆

ページ範囲:P.50 - P.62

 Ⅰ.はじめに
 1964年,BrownとLittna1)2)によつて,南アフリカ産ツメガエル(Xenopus laevis)卵や胚におけるリボゾームRNA(r-RNA)***,転移RNA(t-RNA)およびメッセンジャーRNA(m-RNA)の合成パタンが発生にともなつて変化する様子が明らかにされたが,これが発生過程における核酸合成の研究が近代的な装いで登場した最初のものであつた。それまでの生化学的発生学のテキストブック,たとえばBrachet3)の"The Biochemistry of Development"を見ると,そこには1960年頃の,この分野のまことにみじめな姿が浮きぼりにされている。
 もちろん,現在,なにもかも明らかにされているというわけではない。まだまだほとんど理解できないことがたくさんあるし,核酸合成の調節機構についてもようやく研究がはじまつたばかりである。しかし,現在,われわれが新しい,急激な知識の進展期に直面しているのは疑いのないところである。

分化における誘導物質

著者: 高田健三

ページ範囲:P.63 - P.71

 "分化"の現象は歴史的に見て,高等多細胞動物の胚発生を中心対象として解析が進められてきた。しかし現在まで多くの実験発生学的あるいは生化学的研究が積まれてきたにもかかわらず,まだわれわれは分化の機構に関しては何ら有効な説明を持つに到つていない。この点で,最近の培養細胞を使つての細胞遺伝学的あるいは細胞化学的研究は今までの研究材料に内在する困難性を克服する一つの道を開いたということができる。

解説講座 鼎談

カテコールアミンについて(2)

著者: 吉田博 ,   菅野富夫 ,   大塚正徳

ページ範囲:P.75 - P.82

 □分泌について□
 大塚 Vesiclcの表面の皮が残るという点についてお話し下さい。
 吉田 クローム親和性顆粒中にある例の蛋白に対する抗血清を用いて,その特殊な蛋白を定量しますと,カテコールアミンの分泌が起こる際,その蛋白は灌流液中に,すなわち細胞外にポーンと出てくる。しかし,細胞質の中には見出すことができない。だから,中身だけが出たのだというわけです。そのほかに,もちろん,ATPがそのままあるいは水解されADP,AMPとなつて出てきます。それから,クローム親和性顆粒だけを取つてきて,低張に処理しますと,中味は全部出てしまい,カラだけが残る。カラに何があるかといいますと,ATP aseとdopamine β-hydroxylaseがあります。いまカテコールアミンを分泌させるとき,dopamine β-hydroxylaseなど顆粒膜にあるものは外側へ出ないと言われています。

海外だより

フィラデルフィアとペンシルヴァニア大学

著者: 浅倉稔生

ページ範囲:P.85 - P.90

 フィラデルフィアは人口400万,アメリカ第四の都市である。北にニューヨーク,南には首都ワシントンを控え,地理的・歴史的にアメリカを代表する一つの街といえよう。
 筆者が,東大医学部吉川教授・水上教授(現九大教授)のご紹介を受けて,ペンシルヴァニア大学医学部に留学してから間もなく1年が過ぎようとしている。1年前氷と雪に被われたロッキー山脈を飛びこえ無限に広がるアメリカ大陸を見,雲つくような大男大女が英語を喋るこの国に来た時には「大変な所に来た」と驚いたものだ。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?