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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学20巻3号

1969年06月発行

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巻頭言

予防医学の焦点

著者: 宮木高明

ページ範囲:P.93 - P.93

 技術革新と人間性尊重との相剋にこの時代は苦悩する。その苦悩はBouldingがいう文明後時代の新技術に適合する新倫理的規準を生むべきものであらねばならない。それにしても日々の暮らしのなかにかかる相剋がすでにくり返えされて果てしない今後を予感させる。
 そのひとつとして食物の安全性をここにとり上げてみよう。

主題 発生,分化・3

初期発生の高分子代謝における問題点

著者: 真野嘉長

ページ範囲:P.94 - P.105

 発生という生物現象を生理化学的に記載する立場は現象を一つの平面にとどまらず,空間的と同時に経時的な高次の各面で考察することが必要である。一方,一つの事象を現象論的に記載するにも量的な面と質的な面とを平行して考察せねばならない。したがつて発生という現象を物質的にとらえるにはその複雑さのために自ずから限度があり,その全般を把握するにはほど遠い話である。
 初期発生とは一般に卵から胞胚期までを指す人が多いが,これは胚としての自主的な発生をはじめる以前の一つの準備段階と理解されているからである。それは嚢胚期以前は核活動が顕著でなく,いろいろな程度で,その代謝が胚固有の遣伝子支配によらない母系遺伝子の影響下にあるとみられるからである。そのほかの理由からも初期発生胚は細胞学的には典型的な独立細胞という形で取り扱うは困難であり,非常に特殊な細胞形態であると認めざるをえない。それは発生現象そのものが分化を経て成体へ至る過程の生活環の一部として,特殊目的のために構成された生態てあるからである。

組織の再構成

著者: 黒田行昭

ページ範囲:P.106 - P.122

 I.はじめに
 高等生物の体は,多くの構成細胞がたがいに有機的な関係を保つて,形態的にも機能的にも異なつた多種多様の組織なり器官なりを形成し,個体としてはみごとな調節統制のもとにその生活を営んでいる。
 このような非常に複雑な体制をもつた高等生物の体も,その発生の始まりは1個の受精卵細胞であり,数多くの細胞分裂を重ね,組織形成,器官形成という細胞の形態形成運動を経て,特異な立体的細胞配列が形成され,これと前後して種々の特異形質が発現してくる。単一細胞に由来した遺伝的には均一と考えられる細胞のクローンの中に,このような多種多様の異質細胞を生ずる現象は,高等多細胞生物独特のものであつて,微生物や単細胞生物などで見られる胞子形成などの細胞集団の同調的な変化とは明らかに異なつた現象である。

解説講座 座談会

カテコールアミンについて(3)

著者: 栗山熈 ,   吉田博 ,   小沢鍈二郎 ,   大塚正徳 ,   熊谷洋

ページ範囲:P.123 - P.130

 □平滑筋に対する作用□
 熊谷 今日は,カテコールアミンについて,その作用機序を中心にお話いただきたいと思います。まず話の順序としまして,筋,中枢神経,代謝作用の三つの面がありますが,筋の,特にそのうちでも平滑筋の作用から始めていただいて,抑制の問題を取り上げて,大塚先生から問題になるところをご質問いただくということから始めたいと思います。
 大塚 最初に,taenia coliでどのようなことが起こるかということをごく簡単にご説明いただいて,その上でそれぞれの現象について問題点を伺うことにしたいと思います。

研究の想い出

40年の薬理学

著者: 福田得志

ページ範囲:P.132 - P.136

 Ⅰ.学歴抄
 大正元年7月熊本の第五高等学校を卒業して同年9月東京大学医学科に進学,大正5年12月卒業後ただちに薬理学教室にはいつた。近代薬理学の創始者ドイツのシュミーデベルグ教授の直弟子の一人で日本における薬理学の開拓者である老高橋順太郎先生がまだご健在で第1講座を担当され,第2講座は少壮気鋭の林春雄先生の担当であつた。私が薬理を選んだのは,この先生の指導をうけるためであつた。しかし熊本在の郷里で先祖代々の医業を継いで忙しく働きつづけていた老父は,早く内科を勉強して帰郷の準備をするように望んで止まなかつた。大正8年父がたつての要請で止むなく薬理の勉強を断念して三浦謹之助先生の内科で臨床の勉強を初めた。ところが9年の秋になつて,運命は私を再び薬理につれ戻すことになつた。大正の新大学令によつて,いくつかの大学の設置が予定されたが,その中で千葉医科大学(千葉医学専門学校の昇格による)の大正12年度開設が決定したころの或る日,私は薬理の林先生の教授室に呼ばれて,新設の千葉医大薬理学講座の13年から設置が内定したから,その準備のため薬理教室に戻つて来い,講座担任教授に推薦の予定だ,赴任前に2カ年の外国留学の恩典もある,とのお話であつた。私の薬理学における40年の行路はこのようにして定まつたが,その学歴の大要は次のようである。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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