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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学20巻4号

1969年08月発行

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巻頭言

超綜合の体系医学

著者: 畠山一平

ページ範囲:P.141 - P.141

 日常事のようになつてしまつた学園紛争の本体がどこにあるのか。その解決法はいかん。この一年間に開陳された意見はまことに無数といつてよい程である。紛争が大学の古い体制に根ざすとする考えだけではこのような世界的な拡がりを説明することはできないが,この紛争を機縁として,従来の懸案であつた大学の根本的改革が行なわれるならば,紛争に伴う苦悩はまさしく新しい大学のための産みの苦しみであろう。
 とくに医学教育についての改革としては講座制や医局の廃止,臨床医学における臓器別の分科,そして講座制に代わる学科制の採用などの試案が提示されているが,はたしてそれが改革に価する案であるといえるであろうか。

主題 発生,分化・4

骨の発生

著者: 山形達也 ,   金子正幸 ,   岩田久

ページ範囲:P.142 - P.157

 「骨」と言えば,もうそれだけで読者の方々が,私たちが何について語ろうとするかを理解されるほど,なじみの深い組織の一つである。しかし,なじみ深い組織にしては,この骨のでき方,つまり骨の発生はわからないことが多い。受精卵が卵割をくりかえして,やがて個体になる間の変化を取り扱う「発生学」は,ただ記載だけしていて,本質的には細胞の分化の要因をあきらかにしていないのではないかという批判は,この揚合にもあてはまる。つまり,骨の発生の刻々の変化は,実に綿密に記載されているのだが,「何故そうなるか」という問いには答えていないのである。
 私たちの大半は正常な骨をもつているが,異常な骨(骨形成不全,骨腫瘍とか)の出現する割合も決して少なくないのである。このような場合の真の原因を明らかにし,治療に成功するには,正常な骨組織の発生の研究が単に記載に終つていては駄目なのであつて「何故そうなるのか」と骨組織の因果関係を明らかにする態度が必要であろう。

胚筋細胞における筋原繊維の分化とタンパク合成

著者: 大日方昂

ページ範囲:P.158 - P.165

 I.はじめに
 分化の問題を考えてみると,生物のもつている機能が,分化のいろいろな段階で,どのようにあらわれ,またそれがどのように調節されてくるかということと同時に,成体がもつている高度に組み立てられた構造が,遣伝情報の発現にともなつて合成されてくるタンパク質その他をもとにして,いかにして築きあげられてくるかということも興味深いことである。筋組織(横紋筋)の場合,細胞は筋原繊維という規則的な構造によつてみたされこの構造が筋収縮という機能と密接に結びついている。発生過程でも,収縮機能が始まるためには,横紋構造の分化が必要とされていると考えられている。この筋細胞の分化の過程は,生体内のきちんとした機能と関連した構造の分化を考えていくうえで,都合のよい面を多くもつている。この過程を追求していくためには,ミオシン,アクチン,トロポミオシンなどの構造を調節するタンパク質の合成,作られたタンパク質がフィラメントを形成し,さらに,より複雑な筋原繊維に組み込まれていく過程の検討,また,それぞれのタンパク質を用いて,in vitroで生体内に近い構造を再構成していく試みなどが必要とされるであろう。これらのうち,細胞内で筋原繊維が形成されていく道すじは,電子顕微鏡を用いて丹念に調べられてきた1)-6)。純化した筋タンパク質を用いた。

解説講座 座談会

カテコールアミンについて(4)

著者: 栗山煕 ,   吉田博 ,   小沢鍈二郎 ,   大塚正徳 ,   熊谷洋

ページ範囲:P.168 - P.174

 骨格筋とカテコールアミン
 熊谷 話を先に進めさせていただいて,今度は,骨格筋ですね。昔から骨格筋の問題は論じられているけれども,なかなか一元的な解釈はできないようですが,この辺はどんなふうにいま進んでいるのでしようか。
 栗山 私たち骨格筋に対して,三つの実験をやつております。一つはラットの横隔膜に対するCA,それから魚の血合筋と呼ばれている赤い筋肉,それにミミズの筋肉(斜紋筋)と,この三つの筋肉で比較して,とくにneuromuscular junctionと,後膜の性質を調べております。この三つの筋肉で,CAは後膜のいわゆるneuromuscular transmissionの機構に増強作用があります。

研究の想い出

混迷の中で

著者: 上代晧三

ページ範囲:P.175 - P.180

 とにかく長い年月にわたつて大学と名のつくところで生化学を専攻してきたからには,この年月の間にひどく移り変つた生化学の世界に身を置いて,たしかにさまざまな人間的な経験をしたと思う。
 日本のみならず,全世界のこの期間を生きた人達には,烈しい動揺の中での生活があつた。そして,その中ですぐれた研究者達が築き拓いていつた生化学の世界を,その経過を,身をもつて見聞してきたことは得難い私の幸いといえるかもしれない。

海外だより

Cal TechとBenzer研

著者: 堀田凱樹

ページ範囲:P.181 - P.186

 California Institute of Technology(CalTech)はロサンゼルスの郊外10マイルほどにある。パサデナという町にあります。到着した時の第一印象は,狭くて静かだということでした。主要な建物は100m×300mぐらいの土地に所狭しと建つており,各建物には多くの場合,寄附金をだした人の名前がついています。たとえば私のいるのはChurchビルディングといい,入口を入ると,美濃部都知事を少し下品にしたような温厚なChurch氏の肖像画があり,前を通るたびに篤志家の恩に感謝を強要する仕組になつています。もつとも僕のようなヘソまがりの人間には,彼らの寄附行為は「篤」によるのではなく,税金のがれという「得」によるとしか考えられません。面白いのは寄附は必ずしも十分な額に達するとは限らないことで,各建物を比べると千差万別です。そのお陰でキャンパスにvarietyが生れています。
 この狭いキャンパスにBiology, Chemistry,Engineering, Geology, Humanities, Physicsの六学部がある他Computer部門などもあると聞かされた時はちよつと信じられない気がしましたが,学生の総数が合計約700人しかいないことにその秘密があることがわかりました。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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