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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学20巻6号

1969年12月発行

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巻頭言

独創性研究とその実用化

著者: 牧野堅

ページ範囲:P.237 - P.237

 先日内藤記念科学振興財団の助成金贈呈式に出席した際理事長よりきわめて注目すべき話がなされた。そもそも内藤豊次氏が本財団を設立した理由は同氏の永年にわたる薬業界での体験に基づくものである。今日日本で薬として使われている大部分のものは外国において発明開発されたもので,わが国で創製されたものはきわめて寥々たるものである故,日本独自の医薬を作るには基礎的な研究を振興させるということがもつとも重要であり,それには助成金その他の財政的措置が必要であると内藤氏は考えられたのである。そして内藤研究財団の運営を円滑にしてゆくための参考として欧米各国の研究助成に関する財団あるいはNIHを含めた所々の研究所など回られたのであるが,その際民間製薬会社がまつたく驚くべき努力を傾注して新しい医薬の開発に関する研究およびそれの生物試験の研究を行なつているのをみて,現在のわが国の状態で推移すると国際競争において日本の製薬界は危機に瀕するであろうと述べられていた。
 欧州においてもR.RobinsonやA.R.Toddその他幾多の独創的俊英を輩出させた英国が製薬事業において米国その他の企業進出によつて著しく窮地に追い込まれている事実は人的資源の問題であるか?

主題 味覚・2

ハエの味覚

著者: 白石昭雄 ,   森田弘道

ページ範囲:P.238 - P.252

 序
 ハエの味覚に関する研究分野を大別すると,外界からの化学刺激を電気的な変化に変える変換器としての受容器の機能の問題,受容器からの情報がどのような道筋を通つて中枢へ伝えられるか,といつたcodingの問題,最後にこれらの情報が中枢でどのように処理されるかといつた情報処理の問題などがある。また,従来の研究方法を分類すると,ハエの個体そのものを使つて,その吻伸展反射などを指標として実験を行なう行動生理学的方法,神経系のある特定の場所に電極を刺入して,その情報を直接取り出し,観察記録することにより実験を進める電気生理的方法などがある。ここでは主として,後者の方法を使つて得られた結果を基にして,ハエの唇弁化学感覚毛のなかにある受容器の一般的性質,さらに受容器興奮の機作に関するこれまでの知見を述べる。

実験講座 灌流実験法

内臓灌流

著者: 新島旭

ページ範囲:P.253 - P.269

 I.はじめに
 紀元前300年の頃Cleanthesは摘出した心臓が暫く鼓動するのを認めた,というが18),内臓器官を生体より切り離してその機能を調べたいという考えはかなり以前からあつたものと思われる。19世紀後半に至つてCyon(1866),Coats(1869)らによつて蛙の摘出心臓の灌流装置が考えられ19),温血動物の心臓の灌流はMartin(1883)によつて始めて試みられたという48)49)。その方法は改良され,Langendorf(1897)の方法へと発展している45)。これらの摘出心臓灌流実験は,同時代のRinger,Lockcらによつて開発された代用血液に負う所が大きい。この頃の報告にもすでに見られるごとく20)46),臓器灌流の目的は臓器を生体の調節機構より切り離し,できるだけ生理的な環境下において,その機能を解明することまた環境条件を人為的に変えることによりおこる反応を示標として機能の解明を計ることにあるといえよう。生体から切り離すことによつて薬物の二次的な作用をある程度除くことも可能である所から,臓器灌流は薬理学の実験にもしばしば応用される。臓器灌流実験の目的をさらに細別してみると,灌流条件下において,その臓器固有の機能を研究するために実験を行なう場合,臓器支配血管の動態や血流の動態を調べる場合,その臓器の神経支配を研究する目的で行なう場合などが考えられる。

解説講座

Renin-Angiotensin系(2)

著者: 曾我部博文 ,   福地総逸 ,   今井正

ページ範囲:P.270 - P.278

 □比較生理学□
 曾我部 それからこれも決して腎外reninの意義にきつかけを与えるデータではないのですが,私のところで魚を使つているものですから,魚の奇妙な腎外reninについて話します。
 魚は腎臓の近くに非常におかしな,小さな器官を持つているのです。それはStannius小体と呼ばれ,非常に小さな直径約数mmから1mm以下のものです。それが何をやつてるかということは,昔,魚の学者の間では問題になつていて,いろいろなことが言われているのですけれども,最近ウナギのStannius小体にreninがあるのだといわれたわけです。初めはウナギの場合だと腎臓の中に埋まつてますから,回りの組織を一緒にとつてきたartifactではないかと思つていたのですけれども,ちやんとそれだけ取り出せる種類で測つてみると,やはりrcninが濃度にすると,だいたい腎臓と同じぐらいにあるのです。もちろん大きさが小さいですから,全量では腎臓の1%以下ですけれども……ですからこんなところにreninがあるとは一体何をしているのか,皆目わからないということです。

研究の想い出

忘れえぬ人々・ことども

著者: 古澤一夫

ページ範囲:P.279 - P.284

 1.万人万物皆吾師 中年頃2回労研(倉敷と東京)にごやつかいに相成つた。当時「産業医学」はまだ無名。いわんや「労働生理学」なんて労研がいつたところで相手にもされなかつた。無理もない,中味は無に近かつた。もちろんドイツにはArbeitphysiologie誌があり,英には第一次大戦にこりごりしてFatigue Research Boardを設け,商務省附属として,真赤な外装のパンフレットが発行されてはいたが,筋,神経,呼吸生理学と実験心理学のチャンポンしたような内容だつた。そんなわけで初めて現場(倉敷入所第1日にゲンバという読み方を教わつた。それまではゲンジョウ)へ入つたとたん,これは大変だ,一事(ヒトコト)だと痛々感いたした。出つぱしからギァフンと脳天をやられたんじやから,一生現場には頭が上がらない。また真当に教えられることばかりだつた。がこれは一例,即万例中の一。

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生体の科学 第20巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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