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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学21巻1号

1970年02月発行

雑誌目次

巻頭言

未来の宝・若き医学研究者

著者: 浜島義博

ページ範囲:P.1 - P.1

 ここ2〜3年来,国内国外を問わず医学の研究とくに生物医学分野の発展はまことにすさまじい。ことに私ども免疫学の研究に携わつている者にとつてはその進歩の速さにはまことに目の廻るような驚異を感じざるを得ない。今までの歴史では,よく科学の躍進というものが世界戦争というような異常事態のときに顕著に進展するという事実を多く見せつげられてきたのではあつたが,今日ではもうこれは当てはまらないようである。人類が進歩したという結果かどうかは判らないが平和な時代の科学の進歩が今日ほど隆盛にかつ超スピードで進展しているのも初めてのことと思われるのである。さてこのような目まぐるしい世界の中にあつて,わが国の医学界ことに研究分野も嘗てないほどの著しい発展がみられていることはまことに同慶の到りである。
 しかしながらわが国にはこれからのわが医学界,医学研究界の発展にブレーキをかけるような数々の矛盾の未だに存在していることは否定できない。そしてそれを現在卒直に改めるのでなければわが国医学界の将来に大きなヒビが入ることであろう。

主題 視覚

脊椎動物の光受容器の電気活動

著者: 冨田恒男

ページ範囲:P.2 - P.24

Ⅰ.いとぐち
1.桿体細胞と錐体細胞の構造
 Schultze(1866)以来,脊椎動物の網膜には2種類の光受容細胞—桿体と錐体—があり,それらの機能はお互いに異なつていることが知られている。すなわち桿体は明暗の感覚を司り,錐体は色彩感覚を司るというのである。桿体とか錐体とかいう用語は感光色素分子を含む細胞外節の形状から名づけられたものである。錐体細胞の外節は錐体状を呈し,尖端に向かつて先細りになつており,桿体細胞の外節は定型的なシリンダー状を呈している。
 第1図は電子顕微鏡によるmudpuppy(Necturus イモリの1種)の桿体と錐体の構造の模式図でBrown,Gibbons and Wald(1963)の研究によるものである。いずれの細胞の外節も,多くのpaired membraneよりなる層状構造から出来上がつているように見える。錐体細胞ではこれらの膜は細胞の形質膜の折れこみ現象によつてできたものであり,おそらく桿体細胞においてもこれらの層状構造は同様のメカニズムによつて出来上がつたものと思われる。しかし桿体では一組の膜は両端がシールされ,閉じられた二重膜円板状を呈している(Sjöstrand 1961)。桿体細胞でも錐体細胞でもその外節は一様な層状構造を呈しているので,外節には細胞内空間(intracellular space)は存在しないように見える。

双極細胞の応答よりみた網膜内情報伝達機構

著者: 豊田順一

ページ範囲:P.25 - P.32

 脊椎動物網膜の機能に関しては,その複雑さのために,まだ多くの未知の面を残しているが,この複雑,かつ精巧な情報網を解き明かすことは,生理学のみならず,パターン認識などの情報科学の面から見ても重要なことと考えられる。微小電極が網膜に応用されてすでに20年にもなるが,従来多くの研究が,比較的記録が容易でしかも安定な視神経節細胞に向けられ,単一神経節細胞の応答に関しては膨大なデータが得られている。言葉を換えていえば,網膜から中枢へのいわゆる出力に関してはすでに十分研究しつくされているといってよい。これに反して,視細胞の応答およびそれに続く二次ニューロンである双極細胞の応答に関しては最近までほとんど何らの知見も得られなかつた。微小電極で細胞内誘導を行なうには細胞が小さすぎると考えられていたためである。これら小型のニューロンも漸く最近細胞内記録が可能となつたが,それは微小電極法に二つの点で進歩がみられたためと思われる。一つは冨田らによつて考案された叩き上げ法1)であり,もう一つは色素電極による記録部位の同定法である。前者では単に細胞内への電極の刺入を容易にするだけではなく,電極刺入による組織の歪みが少なく,電極先端の深さの判定が比較的容易になる。

Physiology of the visual cortex

著者:

ページ範囲:P.33 - P.36

 今日,ここで講演する機会を与えられましたことを光栄に思います。へたな日本語の講演をしんぼうしてきいていただくことについて,あらかじめお礼を申します。日本語については小幡さん,大塚さん,金子さんの協力をいただきました。
 約10年間,Wiesel博士と私はネコとサルの視覚系の研究をしております。われわれは視覚系の働きを調べるために,視覚経路のそれぞれの段階で単一細胞から記録しています。われわれの得た結果をおみせする前に,実験の方法を示しましよう。最近は主にサルを使つていますが,ここでのべるのはネコとサルの両方から同じようにして得られたものです。demonstrationのいくつかはネコで得たものであり,他のはサルからです。動物を麻酔して不動化して,頭をしつかり固定します。目は1.5m離れたスクリーンを見るよう固定します。プロジェクターでいろいろな形のスポットやパターンをスクリーンにうつします(第1図)。

解説講座 鼎談

性ホルモンの作用機構(1)

著者: 加藤順三 ,   藤井儔子 ,   江橋節郎

ページ範囲:P.37 - P.42

 司会(江橋) 今日のテーマは性ホルモンの作用機構ということですが,性ホルモンというのは昔から医学の中では非常に大きな位置を占めてきた古い問題です。それがいま新しい観点から取り上げられようとしているわけです。というのは1950年この方爆発的な進歩を遂げた分子遺伝学,いわゆる分子生物学というものがある段階に到達すると同時にある壁にぶつかつているわけです。今後の生物学の方向というものは,そういう分子生物学に基盤を置いた発生学ないしは分化,成長,遺伝というような問題になつてきているということは,これはみながよく知つているところだと思います。そこで当然この性ホルモンが,そういう立場からながめられる時期に来ているということになります。
 今日は,医学の中でホルモンの問題を基礎的な意味で手がけておられる東大産婦人科の加藤博士と東京女子医大の藤井助教授にお集まりいただきました。

研究の想い出

弟子の踏石

著者: 戸塚武彦

ページ範囲:P.43 - P.48

 生い立ち
 私は上原六四郎の次男として神田淡路町に生れ小中学の大部分は本郷西片町で育つた。自分の話の前に少し父のことを語らして貰いたい。父は明治啓蒙時代の教育者として東京高等師範に教鞭をとつていたが,いくつかの後世に残る仕事をした。明治10年に風船を作つて始めて空に上つたのも父である。その一つは目本音楽の音響学を研究して「俗楽旋律考」という著書を出したこと,東京音響学校の前身の主事をつとめて西洋音楽を輸入し,そこでは死ぬまで音響学の講義もしていた。本業は高等師範に手工科という科を創設して,図画手工(工芸)の教育を導入したことなどである。
 そんな家庭に育つた私は幼少の頃体が弱く「この子は育つでしようか」などといわれていたが,1年の半分近く病床にいて,手当たり次第に大人の本まで読んだりしていたので学校に行つても知つていることばかり教わるということになり,勉強などしたことがなく,それが習い性となつて今に続いているのである。もちろんある意味の凝り性でもあるので興味を覚えれば人一倍それに取りつかれるので,そんな場合は他目には大勉強家に見えることもあつたようだが,本質的には努力家ではない。何よりも悪いことは一般に凝り性の人がそうであるようにその興味は長続きしない。その結果種々のことを一通りはマスターすることになる。常にディレタントであり,つまらぬ物知りである。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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