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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学21巻5号

1970年08月発行

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巻頭言

基礎医学教育寸感

著者: 名取礼二

ページ範囲:P.337 - P.337

 生理学の口頭試問にかえて最近学生にあらかじめ生理学の領域の中から任意に課題を選んで取り纏めておくように指示し,図表など用意して短い時間内にその要点を説明させ,それについて質問することを試みている。切りつめた論文報告様のものである。
 私は以前から医学教育の範囲の厖大さがややともすれば詰め込み的教育になるのに危惧を感じている。

主題 聴覚・3

哺乳動物の聴覚中枢

著者: 村田計一

ページ範囲:P.338 - P.348

 Ⅰ.聴領
 サルの内側膝状体よりの聴放線の大部分はSylvian sulcusの内部に折れ込んだ部分の後壁の小部分に,また一部はこの溝より連続して側頭葉の表面に投射される(第1図)。Poliak1)はこの小部分を聴領の"nuclear or focal zone"と呼んでいる。focal zoneは内側膝状体のPars principalisから投射を受け,その周辺部分は膝状体—皮質投射線維の側枝か,あるいは他の視床核から間接的に投射を受けている2)。focal zoneは長さ6〜8mm幅4mmで細胞配列が特徴的で周囲とは明確に境界づけられ,Brodmannのarea 22に相当する。内側膝状体の皮質への投射は第2図に示すように規則正しく1:1の点対応を持つている(Walker3))。蝸牛よりの求心性伝導路の蝸牛神経,蝸牛神経核を初めとする各中経核のtonotopicな配列を前提にすれば,皮質聴領における蝸牛各部位との部位的対応が予想される。

新生児の聴覚—聴覚誘発反応の発達

著者: 大西信治郎

ページ範囲:P.349 - P.360

 I.はじめに
 音,光など諸種感覚刺激に対して人間の頭皮上から誘発反応が記録できる。この誘発反応には刺激後約50msecまでのfast responseと60msecから500msec前後続くslow responseとがある7)。後者は非特異的反応であり頭皮上広範囲の部位から得られる。加えられる感覚刺激の種類によつて反応の性質は多少異なるが,もし無関電極を耳朶または乳突部に置き単極誘導すればその反応は頭頂部(Vertex)において最大になる9)。この理由でslow responseはV-potentialとも呼ばれている。
 V-potentialは,on, off反応であり,刺激後一定時間の脳波をコンピュータにより加算する事によりtime locked responseとして反応波形を明瞭に記録できる。成人の聴覚誘発反応は第1図に示すように音刺激後約60msecに陽性波P1,100msecに陰性波N1,170〜200msecに陽性波P2,350〜450msecに陰性波N2と4成分から成る7)。V-Potentialはまた意識の状態および睡眠の深さにより影響を受ける。attentionによりN2成分の振幅は大きくなり33),睡眠中の誘発反応は高電位徐波期には反応の振幅は大となり,低電位速波期には振幅は減少し潜時も短かくなる30)(第2図)。

聴覚の中枢系の解剖

著者: 大谷克己

ページ範囲:P.361 - P.371

 聴覚路は第1次ニューロンの螺旋神経節細胞に始まり,大脳皮質の聴覚領に達するまでに,通常,6次のニューロンを経る。このように多数のニューロンを必要とすることは,聴覚路の一つの特色である。しかし,この経路には短路があつて,必要に応じて4次のニューロンに節約することもできる。また,逆にこの系に発達した3種の交連のすべてを経るなら,9次のニューロンを使用せねばならない。つぎに,一つの神経束内に第2次と第3次の神経線維が混じり,さらに第4次のものも加わるなど次数の異なるものが混在していることも,特色の一つになる。その他,聴覚領に始まり蝸牛の感覚細胞に至るまでの間,つぎつぎと下位の核の活動を調整しうるような下行路が発達していることも見逃すことができない。

方向感覚(基礎)

著者: 渡辺武

ページ範囲:P.372 - P.383

 Ⅰ.まえがき
 方向感覚は両耳が働いて成り立つ機能で,空間における音源の定位(localization),距離知覚の問題,あるいは,受話器聴取の場合の音像の定位(lateralization),音像の融合などに関する心理学的研究は古くから広く行なわれているが,単耳聴の生理学的研究の進歩につれて研究の動向が両耳作用の問題に入つてきたのが現状である。方向感覚が脳のどの部分で行なわれるかについては,大脳皮質で行なわれるとする中枢説と,脳幹部で行なわれるとする末梢説とがあつて,決定的な解決は今後の問題となつている。
 Pavlov30)は条件反射を利用した動物の行動実験によつて脳梁を切断すると音の空間定位が消失することを述べているが,一方,ten Cate14)は聴領皮質を除去してもなお空間定位の生じることを認めている。近年,Neff26),Nauman25)らの脳梁,中脳,脳幹部正中切断および一側あるいは両側聴領皮質剔除実験から脳幹部の重要性が指摘されている。一方,神経機構の思考をとり入れたBoringの説8),またBékésy5)のtime-intensity trade(時間差—強度差取引き)の概念は興味深いものがある。

研究の想い出

ビタミンをたずねて

著者: 藤田秋治

ページ範囲:P.384 - P.389

 生いたち
 私の郷里は大分県杵築町(今は市)です。祖父は大工の棟梁をしていたそうですが,父は福岡県から養子としてはいつて来たもので和菓子をつくることが得意でよく"久留米の殿様の御用菓子をつくつていた"といつて自慢していたのを子ども心に覚えています。中学までは町にあるので入り順調に進みましたがいざ卒業となりまして困りました。私は男ばかりの8人兄弟の7番目で家庭の事情では上の学校に進むことが困難でした。兄たちはいずれも親の援助にたよらずに上級の学校に進んだのであります。中学の先生は何とかして高等学校に進むようにといつてくれますし私自身大学の先生になつて学問の研究にささげたいと思いました。それで当時特許弁理士として東京につとめていた長兄のところに卒業成績表とともに手紙をだして何とか進学の方法はないだろうかと相談しました。そのうち"東京の第一高等学校に入れれば何とかなるかも知れないから受けてみないか"という手紙がきました。杵築中学は創立後12年目で卒業生はあまり多くなく先輩は熊本や鹿児島の高校に入つたものはあつたが東京の高校に入つたものはいなかつた。当時は高校は全国に8校しかなかつた時代でした。東京をうけるのは非常な冒険であつたが一か八かうけて見ようと決心しました。"ああ玉杯に花うけて"や"デカンショ"などは学生の間にも歌われていて一高はあこがれの的でした。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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