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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学21巻6号

1970年10月発行

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巻頭言

臨床医学とシステム理論

著者: 南雲仁一

ページ範囲:P.393 - P.393

 システムに関する理論のうちでもつとも重要なものの一つに「Kalmanのシステム理論」と呼ばれるものがある。これはR.E.Kalman(現在Stanford大学教授)が1960年頃から提唱しているもので,状態空間理論とか近代的制御理論などとも呼ばれ,数学的な形式をもつた工学的理論である。ここで工学的理論とは,「目的をもつた世界」における理論という意味であつて,したがつてそれは工学だけでなく,臨床医学とか社会学のある側面にも適用される可能性をもつている。
 Kalmanのシステム理論においては,主体と客体(これをその「内部状態」によつて代表させる)との関係が,"知る"ことと"働きかける"ことを1対の柱として構成される。医学の言葉に翻訳すれば,医師と患者(の内部状態)との関係を診断と治療という二つの面によつて結びつけるわけである。そして特に注目すべき点は,診断と治療とが互いに双対(dual)な構造をもつということである。

主題 聴覚・4

方向感検査の臨床的応用

著者: 切替一郎 ,   佐藤恒正

ページ範囲:P.394 - P.406

Ⅰ.はじめに
 両耳が同時に作動すると単耳のみで音を聴取する場合と異なつた特殊な働きを営むことができる。この現象を一般に両耳聴現象とよぶが,両耳加算(融合)効果,両耳分離能,音の立体感など多彩な現象がみられ,方向感はその一部面ということができる。外界に存在する音は両耳で同時に聴取すると,その位置を認知することができるが,同様に2個のレシーバで同一音を聴取すると,頭の中に音像を認知することができる。前者の偏倚をlocalization,後者をlateralizationとよんでいるが,両者の位置はよく合致するといわれる1)
 これらの両耳聴現象は,すべて左右の耳の入力情報が中枢内において共通の伝導路をもつているためにみられるものである。すなわち,その能力の障害は中枢の機能低下を示すために,近年これらの現象が臨床的に病巣診断の手段として利用されるようになつた。

視覚と聴覚の比較

著者: 丸山直滋

ページ範囲:P.407 - P.416

 聴覚と視覚とは,各種感覚のうちでももつとも高度の弁別をともなうもので,そこから得られる情報は非常に多彩である。当然その弁別の仕組みも,他の感覚に比しずつと複雑なはずである。聴覚についても視覚についても近年その弁別の仕組みは,かなりくわしく研究されている。それらの結果を通覧してみると両者の間に多くの共通点もあり,また仕組みの点では共通であつても,その効果や意義がまつたく異なる場合も少なくない。両者を比較しながら主要な研究を振り返つてみたいと思う。
 聴覚心理学では,音の三要素として調子・大いさ・音色を挙げている。調子は,周波数に対する弁別であるから,これに対応するものとして視覚では,色覚を挙げることができるであろう。聴覚での大いさには,視覚での明るさが対応されるであろう。また音色は,視覚での形状視に一応対応しうるであろう。しかしながら弁別の仕組みの観点からすれば,刺激の物理的性質からみた要素も,心理学的に抽出された要素も完全には対応していない。

新生児の聴覚

著者: 田口喜一郎

ページ範囲:P.417 - P.425

 新生児の聴覚が成人と同じものか否かは長い間議論の対象であり,これを解明しようとする努力は今日まで続けられてきた。
 耳の発生は胎生2週から始まり,胎生5カ月頃にはコルチ器も完成し,少なくとも出生時には成人の形とほとんど変りない中耳,内耳が完成されていると推定される9)15)27)

解説講座 座談会

寄生の生物学(1)—寄生虫学の領域から

著者: 大家裕 ,   安羅岡一男 ,   田中寛 ,   関根隆光

ページ範囲:P.426 - P.437

 司会(関根) 医学というのはある意味では非常に広い生物現象の上に成り立つていると思うのですが,そういうものに引つかけて寄生現象を考えるということから最初に入つていきたいと思います。寄生虫と細菌やウイルスは一体どのような関係にあるのか,という問題なども含めて,やはり最終的にはhost-parasite relationというものが非常に大きなテーマとして浮かび上がつてこざるを得ないのだと思いますが。

研究の想い出

「カテコールアミン」と共に30年

著者: 今泉礼治

ページ範囲:P.438 - P.442

 30有年に亘る副手,助手,助教授,教授としての阪大の研究生活を振り返れば現今の研究者の態度,研究室の雰囲気,指導者の指導方針などもいろいろ異なつてきました。その間の研究の想い出の二,三をご紹介申し上げ,研究中の方々のご参考と成れば幸いです。
 昭和10年に阪大医学部を卒業,一応は何処かの教室に入局して,4,5年研究生活をし,医学博士の称号を得て九州の片田舎へでも帰つて開業でもしようという漫然と薬理学教室に副手として入局しました。入局と同時に教授に膵臓ホルモンといわれる「カリクレイン」を勉強する様命ぜられました。半カ年位同ホルモンに関する外国文献の収集,研究成績の調査等毎日毎日が読書の明け暮れで昼食時に30分位教室の食堂に全教室員が集まり先輩の助手,講師,教授の研究の話,新聞記事,時には映画,バーの話(この時は教授欠席の場合だけ)に耳を傾け話の聞手に成るだけでした。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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