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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学22巻1号

1971年02月発行

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巻頭言

これからの生態学

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.1 - P.1

 科学・技術の巨大化が進んで,われわれ人間のくらしがよくなつたと喜んでいるうちはよかつたが,それがたちまちに限度をこえてかえつて人間の生活をそこなうような環境を作り出している今日この頃である。
 医学の進歩といえども例外ではない。たとえば薬剤の進歩によつて今まで不治の病だとされていた病気がなおせるようになつた一方,思いもかけない副作用が表面にあらわれて,畸形が出たり,身体不自由になつたりして,社会問題をひきおこしている。それよりも何よりも,死亡率の低下が行きわたつた結果として,世界人口の自動触媒的な増加が進み,この調子でいくと食糧生産が将来はたして世界人口をまかなつていけるのか,という深刻な心配まで生じてきた。食糧生産に大きく寄与していた農薬が食物連鎖をたどつて人体にも危害を及ぼす危険も生じてきて,一体どうしたらよいのか,不安になる。

主題 平滑筋の抑制物質・1

化学伝達物質についての問題点

著者: 大塚正徳

ページ範囲:P.2 - P.3

 神経系においてアセチルコリンとカテコールアミンが伝達物質として確立してからすでに久しい年月がたつているが,これら二種の化合物以外に新しい伝達物質の存在することが推定され,その発見を目指して多くの研究が行なわれてきた。平滑筋組織においてもnon-cholinergic,non-adrenergicの抑制性伝達物質の存在を示唆する多くの実験結果が得られ,近年活発な研究の中心となつている。生体の科学ではこの「平滑筋の抑制性伝達物質」を主題に取り挙げ,この分野の第一線で活躍しておられる三先生にご執筆をお願いした。その本論に入る前に編集委員の一人として「まえがき」を書くようにとのことである。読者は「まえがき」などは抜きにして早速本題に入つて頂いた方がよいと思うが,お引き受けしてしまつた以上やむを得ないので,以下簡単に化学伝達物質について思いつく二,三の問題点を記してその責を塞ぐことにする。

消化管平滑筋の抑制調節機構—非アドレナリン作働性抑制神経について

著者: 大賀晧

ページ範囲:P.4 - P.20

 Ⅰ.はじめに
 消化管の運動に対して,副交感神経は興奮,交感神経は抑制支配を行なつていると今日一般に信じられている98)。しかしながら,古くから副交感神経の刺激でも消化管平滑筋の弛緩を,また交感神経刺激でもこれらの収縮を起こし得ることが知られていた。自律神経刺激効果にみられるこの矛盾は,次章に述べる様に,比較的最近まで,十分納得のいく説明がされぬままになつていた。
 近年,電子顕微鏡によりまつたく新しい形態がとらえられ,形態と機能の究明は各分野の研究者の関心の的となつた。自律神経興奮の平滑筋への伝達についての研究も,微小電極法など新しい方法の利用,また種々の特性の高い自律神経遮断薬を武器としてめざましく発展した。特に最近の5年間の研究によつて,消化管の壁在神経叢中に,非アドレナリン作働性抑制ニューロンの存在を推定する証拠が多くの人によつて報告された。私どもも,イヌ,ニワトリの胃に対する迷走神経支配について機械的反応を指標として調べ,これら動物の胃の迷走神経による弛緩は,上記抑制ニューロンの興奮によつて発現すると推定した126)135)136)147)。本稿では,私どもの研究を中心にして,消化管平滑筋は,交感神経のほかに,非アドレナリン作働性抑制神経によつても抑制支配を受けているという仮説を支持する研究を紹介したい。

総説

キニンの薬理とその生体における意義(中篇)

著者: 鹿取信

ページ範囲:P.21 - P.55

 Ⅲ.生体におけるキニン系の動態
 キニン生成酵素(以下キニノゲナーゼとする)とその基質であるキニノゲン,キニン分解酵素(キニナーゼ)などキニン系の諸要素が分離精製されるとともに,その化学について本邦にもすぐれた綜説が多いので,ここでは始め,化学について深く立入らずに先へ進むつもりでいたが,分離精製された各要素の背後になお解きあかされねばならない未知の実体があり,その上生体内にあるキニン系の諸要素すなわち,キニノゲナーゼ,キニノゲン,キニナーゼ,血中のカリクレイン・インヒビター,kinin potentiatorなどの理解なくして生体内のキニン系の動態や意義を考えることができないので,あえて紙面をさき,先人達の業績を省みながら,この系の理解に役立てたいと思う。血液中のキニン系についてよく調べられているので,話はおのずから哺乳類のキニン特にプラズマ・キニン(ブラジキニン,カリジン,メチオニル・リジル・ブラジキニン)について多くを述べることになる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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