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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学22巻2号

1971年04月発行

雑誌目次

巻頭言

医学におけるいわゆる"流行"について

著者: 岡本彰祐

ページ範囲:P.57 - P.57

 「日本の科学研究は,いわゆる流行に,過度に集中する傾向がある。」科学史のバナールの1938年の言葉である。この批判は現在でも,なお,なにかを私どもの胸に訴える。
 友人の某氏は,筆者に率直に言つた。「どうも流行の研究をやつていないと不安でね。」日本の医学全体からみて,誰かがある流行を追つている必要はある。

主題 平滑筋の抑制物質・2

消化管における抑制神経支配と化学物質

著者: 伊東祐之 ,   栗山煕

ページ範囲:P.58 - P.79

 Ⅰ.はじめに
 平滑筋運動の抑制とは筋収縮の弛緩を意味する。平滑筋組織においては収縮(攣縮,不完全強縮および完全強縮を含む)の抑制とトーヌス(tonus;緊張性収縮)の減少との二つの弛緩現象がある。平滑筋における収縮(の抑制)は骨格筋のそれとほぼ同様な機序によるものと考えられるが,トヌースの発生機序はまだ明らかでなく,収縮蛋白の特異性(tonoactomyosinの含有),筋原性(ゆるやかな脱分極性電位変動;slow wave,basic electric rhythmや頻度の低い自発放電による)やまた神経原性(神経叢からの興奮性化学物質の持続的放出や低い頻度の神経の興奮による化学物質の放出)の興奮などがトーヌス発生の要因としてあげられている。しかし現在平滑筋でのいわゆる収縮とトーヌスを明確に分離して論述するにはまだ十分な結果は得られていない。また収縮の抑制の要因としては骨格筋と同様に,ⅰ)平滑筋細胞膜電位の過分極による活動電位発生の抑制,ⅱ)活動電位発生の直接的な抑制,ⅲ)収縮-興奮連関機構の抑制,ⅳ)収縮蛋白の収縮過程における抑制および,ⅴ)興奮神経またはその受容器の抑制および抑制神経の興奮などを列挙することができよう。しかし,これらの各段階における抑制機序について論述するにもまだ十分な結果は得られていない。

腸管の抑制性伝達物質

著者: 鈴木泰三

ページ範囲:P.80 - P.87

 Ⅰ.はじめに
 腸管運動の生理学の歴史は古いものがある。その多くは腸管という平滑筋細胞群を集団として取り扱い,主にマクロな立場から,集団の行動とそれを制御している機構をしらべ,その生理学的な役割を解明してきた。これに対して,最近10年間は,細胞内電極法,蔗糖隔絶法,電子顕微鏡などの新しい方法が導入されるようになり,平滑筋を細胞のレベルまで掘り下げ,細胞生理学の立場から平滑筋をながめることができるような知見が豊富になつた。これは確かに進歩ではあるが,ややもすると局所的な詳細な知見が余りに豊富になり過ぎると,もつとマクロ的な,器官としての生理学的な役割に注意を払うことが少なくなるという危険性も生じてくる。このような反省もあつてか,近頃では腸管平滑筋の研究も,運動の調節というマクロ的な課題を細胞生理学の手法を用いて追及しようとする傾向が盛んになろうとしている。
 消化管の運動の主な目的は食物の粉砕,混和,輸送にあるが,それが合目的に営まれているのは腸管の組織内に存在する調節機構による。その調節機構には,神経性調節,液性調節,自己調節(筋細胞が自己調節にはたらく)があるが,主な調節は神経性調節とみられる。

実験講座 灌流実験法

臓器灌流実験法の実技

著者: 橋本虎六

ページ範囲:P.88 - P.94

 Ⅰ.緒言
 求められるままに本講座で灌流実験法について,私が経験的に知つている総てを述べてみたいと思う。ここで私は灌流実験法を歴史的な発展の線に沿つて記述するのを意識してやめようと思う。私がここで灌流実験法というのは,動物の血液で灌流する実験法であつてRinger液とかTyrode液とか,これに膠質を加えた人工灌流液で灌流する方法ではない。であるから人工灌流液で灌流実験をされようという方々には,あまり参考にならないと思う。その代りに末梢臓器の機能を生化学的,生理学的,薬理学的に研究し,さらに組織学的な研究にまで進めようとされる方には,大いなる力となり,適切な助言者となりたいと切に願うものである。またここで私はやつた事のない事を,ただ文献的な知識で紹介したり批判したりすることは一切やめる。これは私の35年余に渉る実験薬理学者としての経験で,そういうことは実際には役に立たない。これから灌流実験をやろうという人や,やつているが不安をもち助言を求めている人にはとまどいを与え自信を喪失させるであろうと思うからである。私はこれらの方々を私どもの実験室にまねいて,心ゆくまで話し,聞き意見を交換して勇気を与えたいと念願してこの講座を始めようと思う。もし私の述べる所に明らかでない所があれば,私の一人よがりや不用意の点があつたと思つている。

研究の想い出

蛙皮の生理学と熱力学

著者: 竹中繁雄

ページ範囲:P.95 - P.99

 1.1902年(明35)に生まれ今年の11月で69歳を迎えますが,まだ若い気持でいます。
 私の少年時代は日露戦争を経た軍国主義の世の中で,医家の長男に生まれても,父は私を幼年学校に入れ,陸軍大学校を出し,天保銭を胸に付けさせたいと夢見ていました。結局軍人になりませんでしたけれども,子供の私はもちろん軍人になる積りでした。したがつて父の教育はスパルタ式でした。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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