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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学22巻3号

1971年06月発行

雑誌目次

巻頭言

ライフ・サイエンスの時代をむかえて

著者: 渡辺格

ページ範囲:P.101 - P.101

 最近,わが国でもライフ・サイエンスの重要性がやつと認められ,科学技術会議でもそれを70年代の重要科学技術政策の一つとしてかかげるようになつてきた。前々から私たちは,20世紀後半から21世紀にかけて生命の科学が大きく躍進すること,そのために備えて教育・研究体制を早く整える必要性を主張してきたが,ともかく生命の研究が一般にも重要視されてきたことは喜ばしい。
 分子生物学は,物質の学問と生命の学問との間の溝を橋渡しをして,自然科学の統一に大きく貢献してきた。現在,分子生物学は人間という物質機械の生命現象の解明を目標とする,第二の本格的な発展期をむかえつつあり,多くの分子生物学者の関心も人間の脳の働きにむけられている。分子生物学は,生命現象の物質的かつ論理的解明をすすめるものであり,必然的に生命をコントロールできる技術の開発を可能にする。このような技術は当然われわれに幸福をもたらすことを目的とするはずであるが,残念ながら生命とくに人間生命の実体は現在まだ不明であり,思いがけない危険をもたらすおそれもある。それを考えると,分子生物学的研究が独走することは好ましくなく,ライフ・サイエンスというような大きな立場の中で正しく位置づけられることがきわめて重要であると思われる。

総説

キニンの薬理とその生体における意義(後篇)

著者: 鹿取信

ページ範囲:P.102 - P.133

 Ⅳ.生理的意義
 生体内の腺組織とその分泌物中ならびに血液中にキニン生成酵素(キニノゲナーゼ)が多量に含まれることからキニン系,特に腺性カリクレインが何らかの生理的役割を演じているのではないかという考えは古くからあつた。現在までに知られたもののうち,腺組織の機能的血管拡張および新生児の初呼吸に伴う肺循環の開始のキニン系の役割と分娩時のキニノゲンの変化について,述べたいと思う。

解説講座 座談会

寄生の生物学(2)—寄生虫学の領域から

著者: 大家裕 ,   安羅岡一男 ,   田中寛 ,   関根隆光

ページ範囲:P.134 - P.146

 司会(関根) 寄生現象を考えていく上で,まずはじめに問題となる,特異性とか,適合性ということについて,いろいろお話し願つたわけですが,これらのことと関連して,寄生現象の起源ということが当然興味ある問題として浮かび上つてくると思います。これに関してもお話しいただければ面白い材料をいろいろお持ちのことと思いますが,時間の関係もありますので,この問題は,他日の機会にゆずることにいたしまして,ただちに二つの生命の直接的なからみ合いつまり"二重の生物学"という意味でのhost-parasite relationという問題に入つていただきたいと思います。この問題は寄生生物学の中心的な課題ですし,特異性といい,適合性というものも,この両者の関係から押し出されてくる要素が,きわめて大きくからんでいるものではないかと思います。ただ問題がきわめて複雑になりますので,整理する意味で,大家さんまずparasite側から,ついでhost側からという順序で如何でしよう。

研究の想い出

四十五年の研究生活の想い出

著者: 原三郎

ページ範囲:P.147 - P.152

 私は大正13年5月27歳の時に東京医専の教授となり薬理学教室の創設にかかつた。3年前の昭和43年3月70歳で停年退職したので,その間の44年間は教授としての仕事をしながら研究にも従事していたとみてよいかと思う。この前のことを付記すれば,私は大正9年の6月に東京医専を卒業したが,なおその前を辿れば大正4年4月に目本医専に入学し,翌大正5年に当時の同校の学校経営者と意見を異にし血判連署の盟約によつて総退学を決行して,新しい学校を創立する先頭のひとりに加わつた。幸いに高橋琢也,佐藤達次郎両先生の義侠と温情によつて東京医学講習所を経て大正7年4月に東京医専が創立され,ここを卒業したのであつた。真に異常な風変りの医学生生活であつて,その後の生涯の研究生活とこのことと因縁が深いのである。
 卒業してから短時日に学校生活の不備を埋めようと努めた。卒業後すぐ順天堂医院内科に入りしばらく荒井恒雄先生の傍で内科を見学し,呉秀三先生の経営の音羽養生所に先輩の安部達人君が勤めていた因縁で,呉先生が直接患者を診療される時に,進んで自ら先生の傍にいて勉強するのが楽しかつた。そこの医員たちは先生に近づきたくないように見えた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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