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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学22巻5号

1971年10月発行

雑誌目次

巻頭言

研究の効率か研究の自由か

著者: 黒住一昌

ページ範囲:P.197 - P.197

 燎原の火の如く全国を風靡した大学紛争の中で,改めて「大学の自治」の意味を考えさせられたものである。いうまでもなく「大学の自治」は「学問の自由」を保証するためにとられた必然的施策に他ならない。大学における「学問の自由」は「教育の自由」と「研究の自由」であるが,この二つの自由は決して切り離せるものではない。研究の自由が護られない所に,教育の自由は保証されない。教師も学生もともに真理の前には等しく学ぶ者として起ち,良心と真理の指し示す所にのみ従つて,いかなる政治的圧力にも抗し得る時,はじめて「学問の自由」が守られるのである。
 紛争の中にあつて学生も,教師もともに「大学の自治」を叫んだが,同時にわれわれの耳を打つもう一つの声は,「研究の指向性」である。『お前は何を研究しようとしているのか』という問いかけが,しばしば研究者であるわれわれに浴びせられた。『研究は趣味ではない。』『一体誰のために研究しているのか。』 という詰問がなされた。学部はともあれ,大学に置かれた研究所には,みな法規に定められた設立の目的がある。だからといつて,大学に保証された「研究の自由」を超えて,ひとりひとりの研究の内容を規制すべきだろうか。たしかに効率よく研究の成果を上げるためには,命令一下ひとつの目標に向かつて,衆知を集めるのがよいにきまつている。

主題 Radioimmunoassay・2

小分子物質のRadioimmunoassay

著者: 對馬敏夫

ページ範囲:P.198 - P.211

 1959年BersonおよびYalow1)によつて開発されたradioimmunoassay(以下RIA)は抗原抗体反応の特異性とradioisotopeを巧みに組合わせた方法である。その後10年間にRIAはほぼすべての蛋白性ホルモンの測定に応用され,nanogramあるいはpicogram単位の微量のホルモン測定が可能になり,これによつて得られた知見は内分泌学に飛躍的な進歩をもたらした。RIAはその原理からいつても一定の条件さえ満たされれば,種々の物質に応用が可能であり,オーストラリア抗原のごときウイルス2)や,carcinoembryonic antigen3)などの血中濃度測定にも用いられている。さらに最近では,分子量3000以下のpolypeptideや後に述べる種々の小分子物質についてもRIAによる測定法があいついで報告される様になり,その応用範囲はますます拡大している現状である。RIAは適当な条件を設定すれば,その特異性,感度,再現性にすぐれ,また微量のサンプルで測定が可能であり,一時に多数のサンプルを処理できる利点がある。

Radioimmunoassayについて—解釈・bioassayとの比較・むすび

著者: 鎮目和夫

ページ範囲:P.212 - P.221

 radioimmunoassayは前号で述べられている様に種々の物質の微量測定法としてすぐれたものであるが,この方法で得られた値が必ずしもその物質の真の数量を表わしているとは限らない。絶対値を問題にするならば,むしろ真の値と異なる場合の方が多いようである。さらに現在この方法は主として体液中のホルモンの測定に用いられているが,その値はbioassayで得られた値と必ずしも一致しない。その理由の第一はradioimunoassaymは抗原抗体反応の特異性,すなわち抗原は抗体とのみ結合するという現象を利用したものであるが,抗原以外の物質でもその分子中に,抗原の化学構造中の抗原決定基と同じ化学構造の部分を有するものは,抗体と結合するからである。すなわち抗体がその抗原物質に完全に特異的でない場合が少なくないからである。さらに体液中のホルモンを測定する場合には,体液中に抗原抗体反応を抑制する物質や,あるいはbioassayを妨げる物質が存在すると,それによつてどちらかが真の値を示さないからである。そこでこれらの間題を実例をあげて述べよう。

実験講座

電子顕微鏡写真像の光回折と光濾過

著者: 大槻磐男

ページ範囲:P.222 - P.229

 Ⅰ.はじめに
 電子顕微鏡写真上に見られる周期像は,光回折(optical diffraction)を行なうことによつて結晶解析の手法を適用することができる。1964年にKlugとBergerにより報告されたこの方法はX線回折,電子線回折など従来の方法では扱うことができないような微小な範囲に局在する周期構造の解析を可能にしたのである1)
 さらにKlugとDeRosierは光回折を発展させた光濾過(optical filtering)と呼ばれる次に述べる様な方法を案出した2)。電子顕微鏡の焦点深度は通常観察する試料に比べるとはるかに大きいから,電子顕微鏡写真像は三次元構造の平面への投影像と考えられるが,微小な粒子の場合,電子線源に向かう面と反対の面の二つの面の投影像となる。したがつて表面に規則的な構造が存在しても電子顕微鏡では一見無秩序な像が見えるに過ぎないことが多い。このような場合でも光回折を行なうとそれぞれの面の規則性に対応する回折点が出現する。この際片側の面に起因する回折光を透過させ,他側による回折光は遮つて像を再合成すると片側の面の像を元の電子顕微鏡写真像から抜き出すこと(濾過)ができる。光の性質を巧妙に利用した方法といえよう。

神経組織の培養—1.髄鞘形成と脱髄について

著者: 米沢猛

ページ範囲:P.230 - P.242

 神経組織の培養の歴史は古く,今世紀の初期に始まる。1907年Harrison15)は蛙の神経管が淋巴中で発育分化するのを報告し,これが神経組織の培養の最初の報告とされている。それ以後数多くの研究が報告され今日に至つている。
 その数多い報告のうち,Peterson & Murray28)によつてin vitroの髄鞘形成に関する報告がなされたが,これはそれ以後の培養方法と方向とを決定づけるものとなつた。すなわち神経組織で重要な機能と特異な形態をもつ髄鞘は,それをのぞいて神経組織を考えることが不可能であり,したがつてその培養においても髄鞘が形成されることが要求されるようになつた。このことはまた一方では,神経組織の培養が,同組織の成分である個々の細胞を培養する細胞培養とは異なつた方向,すなわち神経組織成分のすべてを含むような培養法──器官培養──をとらざるを得ないことをも意味する。というのは髄鞘は神経軸索のまわりに,オリゴデンドログリアあるいはシュワン細胞によつて作られる構造で,一つの種類の細胞によつて作られるものではないからである。このように神経組織の培養は,その多くが器官培養として行なわれ,神経組織成分が生体内で示すと同様な形態と機能とをin vitroの環境下でも示すように努力が払われている23)。そして個々の種類の細胞を培養する細胞培養は,特殊な目的のため行なわれているといえるであろう。

研究の想い出

繰り出された糸の行方—生体膜の分極

著者: 鈴木正夫

ページ範囲:P.243 - P.248

 はじめに
 私は1924年東大医学部を卒業して,ただちにその生理学教室に入室した。恩師は永井潜先生と橋田邦彦先生であるが,当時は教室は折半されていず,両先生ともテーマを下さるのであつた。私は永井先生からは広く学問の仕方,人の心のあり方など,この世の生き方につき深い教えを受けたが,生理学の系統としては橋田先生の学系に従つた。
 1927年秋に助教授として千葉医科大学に来任し,1930〜32年にかけて主としてドイツに留学した。そして1935年に教室を主宰することとなり,自来1965年に定年退官するまで,千葉の生理学教室において多くの若い人々とともに研究にいそしんだ。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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