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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学22巻6号

1971年12月発行

雑誌目次

巻頭言

心筋生理学での一つの話題

著者: 入沢宏

ページ範囲:P.249 - P.249

 Trautweinらがプルキニエ繊維の両端を1ないし2mmの短距離に結紮し,二本電極をつかつて電圧固定を行なつてから,心筋繊維の興奮発生機転は急激な進歩をみせた。NobleとTsienとの膜電流の解析につづいて,Bernの生理研究所から隔絶法によつて心筋に電流を流す方法が次第にめばえていつた。これは伝統的には同時期にBernに学んだ田崎やStampfliに発した隔絶法に他ならない。Oxfordに集まつた平滑筋のすぐれた研究者らがよく使つた庶糖隔絶法は今では心筋にも利用され,繊維の一部を庶糖液で隔絶しつつ,隔絶端を微小電極で測定する単一庶糖法,隔絶部を二カ所つくり,その中央の室に試験液を流し中央部と庶糖室を介しての一端との間で電位を測り,中央と他側の庶糖室を介した他端で電流を流す二重庶糖法の二方法が考案され,ただちに心筋の電圧固定法に利用されてきた。
 Trautweinらはこの方法により脱分極相のNa電流について実験したし,NobleとTsienとはプラトー相のイオン流について分析を行ない,またReuterらはCa++電流の存在を確定的にしたかにみえた。しかし最近,Johnsonとその共同研究者らは,勢よく,これら総ての前説に反対をとなえ,心筋研究者の間で話題となつた。彼らの見解とは,心筋の構造はきわめて複雑であるから庶糖法によつたのでは空間固定が不可能なために膜電位を一定に保持することはできない。

綜説

Catecholamineの腸管平滑筋に対する作用—興奮膜レベルの問題を中心として

著者: 大橋秀法

ページ範囲:P.250 - P.261

 Ⅰ.はじめに
 電気生理学,生化学などの進歩に伴い,骨格筋において収縮,弛緩という機械的反応発現までには膜の興奮(脱分極)→T.systemを介しておそらく電気的に筋小胞体に伝えられ,そこからのCa2+の遊離→収縮蛋白の相互作用による収縮→筋小胞体へのCa2+のとり込み→弛緩,というようにいくつかの生物物理学的過程の存在することが明らかにされた36)。平滑筋においても同じような過程の存在が推測されるに至り,これまでよく研究されてきたcatecholamine***の腸管平滑筋弛緩効果も,興奮膜におけるどのような作用を契機としてもたらされるかを解明しようとする研究がなされるようになつてきた。以下catecholamineの腸管平滑筋に対する効果について,興奮膜レベルでの問題を中心として最近の知見を概説したい。

筋収縮時およびadrenaline作用時におけるglycogen代謝

著者: 小沢鍈二郎

ページ範囲:P.262 - P.283

 筋収縮機構を明らかにすることは,昔から多くの生理学者の関心の的であつた。その研究の歴史をながめると,多くの事実が提出され,誤つた考え方が現われ,ついでそれが訂正されるということがくりかえされてきている。そしてその中から正しいものが生き残つて新しい概念が形作られる。しかし現在のわれわれの持つている知識や概念も歴史の流れの一つの断面にすぎないからやがて補充され訂正される部分も多いであろう。筋収縮研究史についてはすでに語られている1)2)。著者がここで試みようとすることは,筋収縮の一現象としてのglycogen代謝機構の概念の形成過程を追い,また筋収縮とは切つても切れない関係にあるadrenalineのglycogen代謝作用を研究の移りかわりを追いながら現在の考え方に対するわれわれの態度を明らかにすることである。
 現代では筋収縮機構を考える上で,少なくとも骨格筋ではenergyを消費する収縮系と,基質を分解してそのenergyを筋収縮の直接のen—ergy源であるATPの形に変換する酵素系に分けて考えることはほとんど抵抗なく受け入れられるであろう。しかしながらこの二つの過程をある程度独立した過程として理解するに至るまでには,一方が本質的なものであり,他方はこれの結果であるとする考え方が支配的であつた時代もあつた。

実験講座

生体活性アミンの組織化学

著者: 田中千賀子 ,   藤原元始

ページ範囲:P.284 - P.294

 Ⅰ.はじめに
 生体活性アミンは極微量で著しい生理作用を示すものが多く,種々の生理機能変化に対応する組織内アミンの量的変化を求めようとすると,多くの方法論的困難ないし限界に直面する。たとえば,視床下部の視索前野には温熱刺激に対応して発火興奮する温受容細胞があり,脳室や前視床下部へSerotonin(5HT)やNoradrenaline(NA)を注入すると体温が変化するという事実から,前視床下部に分布する神経からの生体活性アミン遊離にょつて,体温は中枢性に調節されているとする考えがある1)。ところが,実際発熱ウサギの視床下部の5HTやNAを化学的に定量分析するとその変化はわずかである2)。これは視床下部にある特定機能単位の神経から遊離する微量の5HTやNAの変化を知るのに,ウサギ視床下部の5HTやNA量を全体として測定するというやり方に方法論的な限界があるわけである。また,細胞下レベルでの生体活性アミンの存在形式と遊離機構を研究するのには通常遠心分画法により細胞成分を分離する方法が行なわれ,神経終末部の興奮伝達に関する数多くの知見が得られてきた。しかし,神経終末部と神経細胞体各々における生体活性アミンの生合成と存在様式の検討,アミンの軸索形質内輸送,さらに機能単位別の神経細胞集団での生体活性アミンの相互関係を知るには電子顕微鏡および組織化学など形態学,細胞化学的手法の導入が必要であつた。

研究の想い出

研究生活の想い出

著者: 木村廉

ページ範囲:P.295 - P.301

 生い立ち
 私は明治26年7月17日,それは丁度あの有名な祇園祭の日にあたるのだが,洛東は黒谷の辺りで医師にして詩人でもあつた得善(号擇堂)の次男として生まれた。錦林小学校,第一高等小学校,府立第一中学校,第三高等学校,京都帝国大学医学部をへて,これを卒業したのが大正8年である。父祖3代が医家であつたために,私もただ何となく医者となるつもりだつたが,臨床家となるまえにまず基礎医学をある程度身につけておきたいとの希望から,医化学教室に籍をおくことにした。それがやがて一生を基礎医学者として過ごすこととなつてしまつたのである。
 当時の京大医学部の医化学教室は,かの有名な荒木寅三郎先生が総長になられて,洋行帰りの新進気鋭の前田鼎先生が主宰されていた。まず1年間を物理化学や合成化学の実習に費したのちに,さらに半年あまりを理学部の大幸勇吉先生の下で物理化学の研究を続けている時に,松下禎二先生の退官後空席だつた微生物学の担任に病理学の助教授で生体染色の研究で有名だつた清野謙次先生が就任された機会に,請われて思いもよらず同教室の助教授ということになつた。時に大正11年2月のことである。大正15年1月から2カ年の在外研究を終つて帰国した昭和3年3月には教授に任ぜられ,昭和31年7月に定年で退官するまで微生物学教室に終始したものである。

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生体の科学 第22巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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