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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学23巻1号

1972年02月発行

雑誌目次

巻頭言

人まねをしないということ

著者: 藤井隆

ページ範囲:P.1 - P.1

 この頃,東大を停年退官された物理学のある教授から,退官に際して,35年以上にわたるご自身の研究生活の思い出を淡々と話された記録を頂戴した。物理教室を卒業して,藤原咲平先生の助手になつた。同先生は大人(たいじん)であつて,何をやれというようなことは言われない。そこで,「先生は渦お好きでしたので,まあウズでもやるかというわけで,ガラス張りの大きな水槽を買い,底の穴から水を流すときできる渦を動的に分析してやろうと,実験を始めた。」そのうちに,別の先生が太陽の紅焔やコロナの研究を富士山頂でやるのを手伝えといわれるので,富士山の上に3週間ほども滞在したが,何の成果もなしに下山し,「地上に戻りましては,また水槽の底を抜いておりました。」というのが研究生活のお話のはじまりである。それから,菊池先生や西川先生の指導で,物理的な問題を自由に研究したが,たとえば,西川先生からも直接学問的にこまごましたことの指導を受けた覚えはなく,「むしろ,先生の研究に対する愛,あるいは厳正な態度,こういう点に非常に得るものが大きかつた。」とある。そして,それからの専門的な記述があり,お話のむすびは,自分のやつてきたことは,物理学の中でも狭い範囲のものであるから,物理学としてどれだけのことといえるか疑問だ,しかし,多くの方の協力のおかげであるが,「私は比較的愉快に研究をやつてきたようであり,また,あまり人まねをせずにやつてこれたのではないかと思つております。」となつている。

総説

中枢における化学伝達物質

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.2 - P.19

 すでに繰返し論じられているように,ある物質があるシナプスでの化学伝達物質であることを証明するためには次の5つの規準を充たさねばならない。(1)その物質がそのシナプスと関連して存在せねばならない(存在)。(2)その物質を人工的に与えた場合に生ずる作用が実際のシナプス作用と同一の生理学的性質をもつていなければならない(生理作用)。(3)そのシナプスで放出される実際の伝達物質のシナプス後部細胞に対する作用を修飾する薬剤はその物質の作用を同様に修飾せねばならない(薬理)。(4)シナプス活動に伴つてその物質が放出されねばならない(放出)。(5)その物質を合成・分解する酵素系がそのシナプスと関係して存在せねばならない(酵素系)。
 末梢神経系では,アセチルコリンが神経筋接合部および交感神経節内シナプスでの伝達物質であることについて,またガンマーアミノ酪酸GABAがザリガニの抑制性神経筋接合部の伝達物質であることについては今日これら5つの規準がすべて充たされているのであるが,中枢のシナプスについてはこれが全部検討されている例は数少ない。一般的に言うと,中枢神経系では,(1)の存在がまずある物質について指摘されると,その物質の生理作用(2)が調べられ,はつきりしたシナプス作用の認められる時はさらに薬理作用(3)が検討される。

解説

高分解能の走査型電子顕微鏡—Crewe教授たちの研究

著者: 高良和武

ページ範囲:P.20 - P.28

 Ⅰ.はじめに
 走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope,略してSEM)が商品化されてからまだ6〜7年にしかならないが,各方面への普及の速さはまことに目ざましい。金属や半導体,高分子や繊維,さらに生物などの複雑な構造を立体的に再現した写真には,従来のレンズ結像型の電子顕微鏡では到底見られないような迫真性がある。しかし,分解能はふつう100Åどまりで,従来の電子顕微鏡(EM)の1〜2Åには遠く及ばない。シカゴ大学のCrewe教授は,電子銃にフィールド・エミッションを利用すれば,高分解能のSEMが得られることを数年前に指摘したが1),彼のグループはその実現に努力を集中して,1970年にはその分解能は5Å以下となり,有機分子中のウラニウムあるいはトリウムの一個一個の原子を見ることに成功した2)。1971年には分解能は3Å前後になり,DNAの二重らせんや,そのほどけた状態などを観察するとともに,それらの分子量(単位体積あたりの質量)に関する情報も得られることを示した3)。数年前には半信半疑で迎えられたCreweの提案は,いまや疑いのない形で実現され,これらの発展には深い関心が,広い分野からよせられている。CreweのSEMでは,高分解能を実現するために,像の検出には2次電子は用いられず,透過電子が用いられている**

解説講座

無菌動物について(1)

著者: 岩田和夫 ,   田波潤一郎

ページ範囲:P.29 - P.34

 歴史的経過
 司会(岩田) 田波先生に,まずいわゆる無菌動物なるものの研究の今日に至る歴史的な経過を簡単にお話いただきたいと思います。
 田波 なかなか,全部ということはできませんが,よく知られているとおり,無菌動物の発想というのは,Pasteurが1885年にある雑誌に記載したことがあるのです。そのようなことから,無菌動物ということが問題になりますと,いつもPasteurが引き合いに出されるわけです。

実験講座

組織化学的技術—その1

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.35 - P.42

 まえがき
 組織化学が学問として,あるいは研究方法として登場し始めたのは1800年の初期である。以来各種酵素,蛋白質,多糖体,脂質,金属などについてあらゆる面からの検討がなされ発展してきた。
 最近ではこれら物質のうちとくに酵素組織化学の進歩が目覚しく,新しい証明法が次々に報告され,さらに電顕的組織化学,酵素抗体法,免疫組織化学,autoradiographyの研究,isozymeの証明法など華やかな議論が展開されている。

研究の想い出

私の生理学研究遍歴の記録と将来への提言

著者: 吉村寿人

ページ範囲:P.43 - P.50

 はじめに
 研究の想い出欄に筆を執るようという奨めを受けた時,私も年をとつたのだと感じた。過去のことには余りこだわらないことにしている私ではあるが,一応ここで私の研究の遍歴を記すことが他人様から見てご参考になることかも知れないと考えて筆をとつた。さて何を書こうかとなると,さまざまな思い出がわいて出て,とても所定の頁数にはおさまりそうにない。そこで若い研究者に多少とも参考になりそうなこと,または医学にたづさわる方々に反省してもらいたいことなどをピックアップして書き並べることにした。中には少々厳しい意見,さしさわりのある意見も飛び出すであろうが,すべて将来の学問の世界をよくしたいとの私の精一ぱいの叫びと考えてお許しいただきたい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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