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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学23巻2号

1972年04月発行

雑誌目次

巻頭言

医学の基盤

著者: 山野俊雄

ページ範囲:P.53 - P.53

 戦前,われわれの若い頃,秀才の多くが海軍兵学校とか工学部の航空工学科などにあこがれ,医科系には旧制高校の文科系からも容易に入学できた。医学科には理科系に進んだもののうち,数学や物理を敬遠するものが志望する傾向すらあつた。医科系大学,学部は最近ではむずかしくなつて数学や物理を敬遠していたのでは入学できなくなつたのは医学の進歩のためには好ましいことである。しかしこのような社会的風潮とは関係なく医学生物学が実は精密科学であるはずである。かつてのように論理的な試練に弱いからとか,手先が器用で外科に向くだろうというようなことで医科志望していたのではこれからの医学の進歩に対する寄与を期待できないと思われる。
 医学は本来それ自体固有の方法をもつものではなく数学,物理,化学そして方法的にはそれらに依存する生物学に基盤をもつものであり,別のいい方をすれば人間生物学の探求とその応用といえるだろう。最近各方面の学問の進歩は急速であり,医学生物学の領域でも例外ではありえない。しかも著しい傾向は,物理学者や化学者でも医学生物学の問題に興味をもつ人がいつそう多くなつていることである。

主題 電解質・非電解質の能動輸送・1

著者: 星猛

ページ範囲:P.54 - P.55

 細胞の形質膜が独特の物質透過特性をもち,ある種の基本的に重要な電解質に対して能動輸送する機構を備えていることは周知のことである。またある特定の細胞は特定の物質または物質群を能動的に輸送する機能を備えており,それがその細胞の関与する吸収,分泌,排泄,刺激伝達機能に重要な役割を演じていることも多く知られている。しかしこれら生体膜での物質輸送の機構については,輸送が超微細構造である形質膜での現象であり,あるものは細胞内での化学反応と連結し,またあるものは細胞内イオン条件などに影響されるため,その細かな点については未だ多くの解明さるべき問題が残されているように思われる。
 今回「電解質・非電解質の能動輸送」が主題にとり上げられ,幾つかのトピックスについて解説されることになつたが,この分野での今日の問題点を指摘する前に,大略の物質輸送に関する概念の歴史的変遷のスケッチをし,その流れと今回の問題点との関連を見て見たいと思う。

魚類の小腸と膀胱における水,電解質の輸送とその調節

著者: 平野哲也 ,   内田清一郎

ページ範囲:P.56 - P.68

 われわれ人間も含め脊椎動物が生命を維持するには,血液やリンパ液などの内部環境の恒常性を維持することが必須の条件である。そのために神経系や内分泌系などの調節系がさまざまに関与していることは,よく知られている。この点,脊椎動物中もつとも下等な魚類においても同様であり,体液の浸透圧よりも低張な淡水,あるいは高張な海水中にすんでいて,たえず水負荷あるいは脱水の危険にさらされているにも拘らず,体液の浸透圧およびイオン組成を一定に保つている1)2)
 魚類,特に硬骨魚類の浸透圧調節機構の大要は第1図に示した通りである。淡水魚では,えらなどの体表面から,濃度勾配にしたがつて水が浸入し,塩が流出する。これを補うために多量のうすい尿を排泄し,えらから能動的にNaおよびClイオンを取入れて体液の浸透圧を維持している。また淡水魚はほとんど水を飲まない。海水中では逆に水分が周囲にとられ,塩が体内に浸入してくる。脱水による水分の喪失を補うために,海産魚は多量の水を飲み,腸から塩分とともに吸収する。過剰になつた1価イオンはえらから濃度勾配に逆らつて能動的に排出される。飲んだ海水中のCa++,Mg++などの2価イオンはほとんど吸収されないが,一部吸収されたものは,腎臓の尿細管から能動的に排出され,少量の尿とともに体外に出る1)-3)

小腸,腎尿細管における糖の能動輸送のNa+依存性と糖輸送電位

著者: 星猛

ページ範囲:P.69 - P.88

 Ⅰ.はじめに
 小腸や腎尿細管が甚だしい濃度勾配に逆らつて糖やアミノ酸を能動的に輸送している事は古くから周知のことであるが,その上り坂輸送の機序,特に上り坂輸送の駆動力の本態や膜透過機構に関しての研究が進展してきたのは比較的近年のことである。その端緒となつたのは,1958年Riklis and Quastel78)が,小腸での糖輸送が,外液にNa+が存在しないとまつたくおこらなくなることを明らかにしたことであると思われる。それ以来多くの研究がこの輸送のNa+依存性の本態の究明に向けられ,この種の物質の能動輸送の細胞機序にもようやく解明のメスが入れられる様になつてきた。
 他方,小腸や腎に限らず,アミノ酸その他幾つかの有機溶質の能動輸送が見られる組織についても,その輸送にNa+が絶対的に必要である例が数多く見出されてきており(綜説Schultz and Curran84)参照),今日このNa+依存性輸送機構は,少なくとも脊椎動物細胞における有機溶質能動輸送に共通した生物学的原則ともいうべき機構であろうとの考えが一般化しつつある様に思われる。しかし一方では例外的にNa+を必要としない上り坂輸送の例も知られて来ており,法則的なものとして確立されるまでにはなお多くの観察や検討が必要である様に思われる。

解説講座

無菌動物について(2)

著者: 岩田和夫 ,   田波潤一郎

ページ範囲:P.89 - P.98

 岩田 この辺で,無菌動物の飼育,あるいは無菌動物を使つて実験する装置の問題に入つていきたいと思います。これは,イントロダクションのところですでに名前が出ていますけれども,ビニール・アイソレーター,ステンレススチールあるいは鋳鉄を使つた,いわゆるタンク装置,この二通りがあるわけですね。こまかくいえば,さらに分けることもできますが。
 ビニール・アイソレーターは扱いやすく,安価で数をこなせますから,多くの研究室で盛んに使い出しています。しかし,無菌動物の実験の長期にわたる場合は,ビニール・アイソレーターではいろいろの事故をおこす。つまり,穴があくとか—肉眼ではみえない針でついたような小さな穴でも菌は侵入してたちどころに駄目になつてしまいます。グローブの折れ目に皹裂を生ずるとか,いろいろな事故がおきてくるというデメリットは,現段階ではやむをえないでしよう。

実験講座

組織化学的技術—その2

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.99 - P.105

 Ⅲ.Oxido-reductase系統
 酸化還元酵素oxidoreductase系統にはoxidase,dehydrogenase,peroxidase,hydroxylase,oxygenaseが分類され,主として生物の呼吸や発酵過程に関与する。
 oxidoreductaseの組織化学的証明法としてH2の移動という点からtetrazolium塩を用いる方法が主体となり,tetrazolium自体の各種誘導体の研究,特異性の検討がなされてきたが,H2受容体としてはtetrazoliumのほかtriazolium塩,potassium tellurite,methylene blue,potassiumferricyanideなどが用いられている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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