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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学23巻3号

1972年06月発行

雑誌目次

巻頭言

ゆとりの効用

著者: 東健彦

ページ範囲:P.109 - P.109

 古代ヘブライでは,7年ごとの休耕を法律で定めていた。この年に実つたものは,果実であれ野菜であれ,まずしい人々が自由にしてよいとされていた。この休耕年度には戦争行為は厳禁で,それまでの借金の棒引きもおこなわれたという。
 以上はSubbatical Yearの本来の意味である。今日では,周知のように,Subbatical Year(またはSubbatical Leave)とは,欧米の大学でほぼ7年ごとにfaculty memberに与えられる半年ないし一年の有給休暇を指す。この期間中は教官としての一切の義務から解放され,普段と同じ生活保障のもとで行動の自由には何の束縛も加えられないから,自らの好む場所で,自らの好む方式にしたがつて純粋かつ自由に研究に専念できる。多くの人々は国外または国内の他の研究機関での協同研究に従事する。

主題 電解質・非電解質の能動輸送・2

胃粘膜におけるH,Clの能動輸送

著者: 今村昭

ページ範囲:P.110 - P.121

 胃粘膜のHCl分泌が典型的な能動輸送の1例であることは明らかである。なぜならpH 7.3の血液からpH 1に近い胃液が形成されるのであるが,これはHが106倍の濃度勾配に逆らつて輸送されることになるからである。能動輸送としての胃酸分泌機構の研究は早くから多くの学者の関心を呼び,活発な研究が行なわれて種々の事柄が明らかになつたのであるがその理解は現在でも十分に満足なものであるとはいい難い。1971年夏Frankfurt/Mainで行なわれた"Hion輸送"についての国際シンポジウムの冒頭演説で主催者の一人E.Heinzは次のように述べた。"ある意味ではこのように簡単で直線的な現象が解決されていないことは,複雑に入り組んだ遺伝現象などを解いた生理生化学者の怠慢であるといえるかも知れない"。
 さてHCl形成機構の大きな問題点の一つにHの起源がある。水から来るのか?基質の水素たとえばglucoseのそれが酸化されるのか?もちろん基質の水素といえども,もともとは光合成により水に由来するのだが,それはさておき動物体のなかで何からHが造られるかは最大の問題の一つであつた。しかしHeinz1)もいうように現在ではそれほどでは無くなつたように思われる。すなわち従来は基質からのHとO2消費量との比はO2が受容し得るeの数すなわち化学当量比のみで厳密に制限されると考えられていた。

角膜のイオン輸送と透明性

著者: 岩田修造

ページ範囲:P.122 - P.137

 Ⅰ.はじめに
 角膜(cornea)は眼の光学系の中で水晶体(crystalline lens)と並んで重要な透明生体相で,透明な無血管組織であるがためにまた,その混濁化が失明(blindness)というもつとも恐しい結果につながり,早くから眼科臨床医の中でその混濁防止の研究が行なわれてきた。その積極的研究姿勢の1つが角膜移植(keratoplasy)であり,角膜保存の研究でもあり,そしてまた,薬物での治療研究でもある。
 この医学的な立場からの角膜研究とは別に,眼球が直接外界に接する界面としての角膜,または透明多重生体膜としての角膜を生化学,物理化学,そして,光学などの観点から取り扱う基礎的研究もある。そして,その業績は上記の研究と必然的に結合している。

解説講座

「催奇物質の現状」について

著者: 西村秀雄

ページ範囲:P.138 - P.142

 □催奇物質とは□
 質問 近年催奇物質,あるいは催奇性という用語がよく用いられていますが,これはどういうことですか。
 西村 催奇性は英語のteratogenicityにあたり,字義通りに定義いたしますと,妊娠母体の摂り入れた外来の物質が胎児に及んで,肉眼で認められる形の異常,つまり奇形を誘発する作用ということになります。しかし実地医学上の観点からはもつと広義に解して,その臨床的適用によつて,次世代に致死作用,奇形あるいは染色体異常や遅発的な機能上の障害,たとえば精神薄弱,五官器の異常,生活力薄弱さらに癌などをも惹き起こす規則性をさすものと解した方がよいでしよう。このような作用をもつた物質が催奇物質—英語ではteratogen—ということになります。つまり一言でいえば次世代への有害作用ということです。

実験講座

脳切片を用いる電気生理学的実験法

著者: 山本長三郎

ページ範囲:P.143 - P.150

 最近,試験管内の遊離脳切片から,長時間にわたつて安定な電気活動を記録することができるようになつた1。この方法では脳細胞の外部環境を自由に変え得るので,脳の生理,薬理学的研究に有用であり,すでにいくつかの研究が発表されている2)20)。しかし,まだこの方法の詳細な記述がなく,時々手技についての質問を受けるので,初めての人でもできるように,注意するべき点をくわしく説明する。
 要は,切片を手早く,十分薄く作ること,浮遊液を間違いなく作ること,インキュベーション中や電位記録中にいつも新鮮な液が組織にふれるようにすること,の3点につきる。電気活動を保つた切片は脳のいろいろな部位から作ることができるが大別すると,1)脳の表面に平行に切り出す場合,2)脳の表面に垂直に切り出す場合の2つがある。そのおのおのの場合で一番容易な,嗅皮質から表面に沿つて作る方法と,海馬を輪切りにして作る方法をくわしく述べることにする。他の部位から切片を作つて実験する場合にも,一応以上の2個所で習熟した上で,目的の部位に応じた独自な手技を開発されるように希望する。

研究の想い出

教室員とともに

著者: 森堅志

ページ範囲:P.151 - P.157

 私のような平凡な者が研究の想い出などという標題で書くのは誠におこがましいのであるが凡人でも研究に喜びを感じることがあり得る1例として敢えて引き受けた次第である。研究に喜びを感じる機会は二つあると思う。一つは自分の着想と工夫(もちろん凡人のことであるから素晴らしい思い付きではないが)で実験して見るとその通りになつた場合と他の一つは従来いわれていた事を追試して見るとまつたく別な予想以外の結果になつた時とである。
 私は昭和7年に京都大学医学部を卒業し,皮膚科に1年居たが解剖学教室の助手の空席があるというので昭和8年にリンパ管研究で有名な故木原卓三郎教授の門下に助手として入つた。京大に居た時は木原先生のテーマで従来通りの方法で仕事をしたので特に自分自身で工夫するということはなかつた。ただ僅かながら生きた蛇のリンパを採取した時蛇はとぐろを巻く性質があつてリンパ採取が困難であつたので竹で弓をつくり蛇をその弦に張つたらリンパ採取が容易であつたことや生きている魚類のリンパ採取の時リンパ管を見出すのがむずかしかつたのでリンパ管の発見はAselliが乳ビ管で初めて見付けたというから魚類でも乳ビ管があるのではないかと試みに腸に沿つて走る血管の傍に空気を注入したところ明瞭にリンパ管が現われたのでリンパが溜るような位置に魚を置いてリンパを採取することができた想い出位である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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