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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学23巻4号

1972年08月発行

雑誌目次

巻頭言

東南アジアと日本の医学研究

著者: 竹内正

ページ範囲:P.161 - P.161

 東南アジアの国々をまわつていて,しばしば出会うシーンは基礎医学教室の貧しさを嘆く教授達と,かれらが内職に開業している実情を聞かされることである。貧しさといい,内職といい,事のよしあしを今ここで論ずる積りはない。それをするなら,その前にかれらの長い歴史と,広い社会的背景を充分知つてかからねばならないと思う。ここでは頭からの批判と冷笑ではなく,われわれはどうすればかれらの助けになれるかということである。
 われわれが基礎教室で日夜念ずることは,如何にして研究業蹟の内容が向上するかである。かれらとても同じ思いにあるに違いない。幸いにもわれわれは外国(主として欧米)の文献が自由に読め,欧米の知人友人との交流が自由であり,発表される論文も国際的レベルに達することができる。同じ思いのかれらには,しかしながら,そのすべを知らないものもいる。外国との交渉も頻繁ではない。文献も充分には買えない。話し合つてみれば充分能力はあるし,頭脳の回転の驚く程の人がいる。相当数の教授陣が欧米に留学を経験している。語学の力は日本の教授の平均よりはずつと高い。考えねばならないことはかれらがほとんどすべて欧米への留学生であることである。かれらの眼は西または東を向いている。British Diploma, American Board,フランスへの留学に対する憧れは依然根強いものがある。

総説

局所麻酔剤の作用機構

著者: 楢橋敏夫

ページ範囲:P.162 - P.178

 麻酔剤に限らず,一般に薬の神経に対する作用機構を調べる場合には,少なくとも三つの因子を考慮に入れなければならない。まず第一に薬がどのような機能的変化を神経に及ぼすかということ,第二にイオン化される薬の場合にchargeされた形とchargeされない形と,どちらの形が効いているかということ,第三に神経膜のどこに働いているかということが問題になる。
 神経に働く薬は多くの場合,神経の膜に何らかの機構で影響を及ぼしているということは広く認められている。しかし膜はよく知られているように,決して対称的なものではなく,裏と表が生化学的,生理学的,および薬理学的にみて非常に異なつている。それで薬によつては膜の外側か内側だけに限つて働くことも考えられる。また第二の問題,すなわち麻酔剤の作用形態については過去約50年間にわたつて多くの人々によつて検討され,薬理学上から非常に重要な問題と考えられている28)38)

形態形成と癒合現象

著者: 間藤方雄

ページ範囲:P.179 - P.196

 Ⅰ.はじめに
 器官の形態(Morph)は,その発生過程においてのみならず,病態時においても変化し得るものであることは言うまでもないが,ややもすると各器官の形態をぎわめて固定的な構造と考えがちである。しかしながら,形態は機能と表裏の関係にあり,特に胎生期においては時間的に,実験的に形のみならずその器官の機能も変化し得る可能性を考慮するならば,その器官特有の巨視的,微視的構造を絶対視することぱ危険であろう。現在,私たちの見ている成体器官の形態は,その胎生期における無数の変化の最終的産物である。
 形態形成(Morphogenesis)の研究は,発生過程において,"特異的"に行なわれる変化を"時間的"に,"隣接器官との関係"において把握することを目指すとすれば,単にその器官の形態を内因的,遺伝的な因子によるもののみとすることなく,器官の形成中にうける外因的,物理的要因をも吟味する必要があろう。したがつて成体のある器官が形態形成の最終産物として特異な形態をとる故由は,それなりの必然性があり,そのための仕組がその発生過程に組込まれていなくてはならない。

実験講座

Australia抗原(Hepatitis B antigen)の抗原性およびその分析法

著者: 今井光信

ページ範囲:P.197 - P.203

 Ⅰ.はじめに
 ウイルス性肝炎を起こすvirusには現在,virus Aとvirus Bとがある1)。一般にウイルス感染の予防および診断,研究には,主に免疫学の力をかりることが多い。ウィルス性肝炎をおこすvirus Bの研究もこのウイルスのもつ抗原性を手がかりとして行なわれるようになつた。その手がかりとなつた抗原はBlumbergにより肝炎とは別の研究中に発見されオーストラリア抗原(以下Au抗原と略記)と呼ぼれているものである2)。肝炎ウイルスBはもつぱら人を被感染体とし,組織培養での増殖もまだ成功していない現状では,そのウイルスを検出し,それへの生体の反応を追求する手段としては,Au抗原が唯一重要なmarkerとなつている。
 Au抗原は,およそ300万の分子量を有し,脂質(およそ25%)とタンパクよりなつている3)。その形態は,ほとんどが直径20mμの球状粒子であるが,なかにはこれらが連なつた管状のものや,直径40mμの大型粒子なども見られる。また抗原性においてもBlumberg4),Le Bouvier5),Kim6)らにより,一部抗原性の異なる粒子がウクタロニー法により発見され,すべての粒子に共通な抗原性,各subtypeに特異的な抗原性などがいくつか報告されている。一方,自治医科大学Au研究グループでは,受身赤血球凝集阻止反応7)を中心とした系統的抗原分析を試み以下のことがわかつた。

研究の想い出

法医学往来

著者: 松倉豊治

ページ範囲:P.204 - P.210

 法医学へのきつかけ
 江戸川乱歩や小酒井不木,牧逸馬ら諸氏が,当時のいわゆる探偵小説や推理小説を盛んに雑誌『新青年』に発表していた大正中期の頃,私は中学生であつた。そしてこれらの読物を愛読し,殺人や自殺とか,エロだのグロなどといつた事柄に,ひそかに興味を持つていた。もつともこの年頃の少年少女は,大ていそういうものである。今でも……。
 その私が大正12年(1923)4月,満16歳余で当時の大阪医科大学予科に入学して間もなく,何かの講義が臨時休講になつた。いつもはそんな時,校庭の草つ原に寝そべつて誰彼となく無駄話を交わして過ごしてしまうのに,そのときは何を思つたのか,殊勝にも学校の図書室に入つてみた。特に勉強するという積りはなく,何か面白い本でも……と思つたまでのことである。その時ふと目にとまつたのが『囚人の心理』という本である。探偵小説類を愛読していた少年にとつて,これは少少魅力のある表題であつた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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