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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学23巻6号

1972年12月発行

雑誌目次

巻頭言

日本の医学研究 雑感

著者: 三橋進

ページ範囲:P.265 - P.265

(1)今後の日本医学の基礎研究について
 東大をはじめとして,日本の大学の医学部では基礎の研究室に入る医学部出の新人や大学院生の数が年々減少し,昨年のごとき東大では100名近い卒業生の中から1人も基礎の研究室に入らなかつたそうで,われわれの時代に比較して今昔の感にたえない。
 その対策の一つとして,医学部出身の基礎研究者の待遇をあげて,臨床家のそれに近づけることが必要である。いま一つの重要な対策は理学部系,薬学部系のすぐれた新人をどんどん採用することである。私の領域で,すぐれた研究をしている欧米の学者でも,医学部出が著しく少ないことからも,将来このような方向で日本の基礎医学研究の振興をはからなければならない。

総説

化学伝達物質のuptakeとその抑制

著者: 粕谷豊 ,   後藤勝年

ページ範囲:P.266 - P.280

 末梢自律神経系,運動神経系における化学伝達説の確立に続いて,中枢神経系においてもnorepinephrine, acetylcholine, dopamine, GABA,glycine,その他の物質がtransmitterとして働いていることを示唆する研究が多く報告されている。
 ある物質が化学伝達物質として作働するためには,神経から放出されたその物質の生理活性がきわめて短時間のうちに消失する必要があり,この生理活性の消去に関与する機構を明らかにすることは化学伝達物質確認のうえで重要な条件の一つとなる。

軸索輸送

著者: 小池宏之

ページ範囲:P.281 - P.293

 はじめに
 神経細胞(ニューロン)は細胞体と細胞体からの突起・軸索とからなる。長い軸索の存在がニューロンの形態上の最大の特徴であり,情報伝達というニューロンの機能の上からも重要な意味を持つ。
 このニューロンの構造は,細胞としての中心的存在である核と細胞質を有する細胞体が全体の中央にではなく,一方の極に片寄つて存在していることを意味する。ニューロンの生存に不可欠の因子が細胞体に集中していることは疑う余地はなく,神経の再生現象一つをみても明らかである。つまり,神経線維・軸索が切断されると,切断された末梢側,すなわち細胞体から遊離された軸索は,変性しその機能を失い,死滅してしまうが,切断部より中枢側,すなわち細胞体につながる軸索は,切断直後に一過性の変性反応を受けるが,やがて切断端より軸索が再生されて伸び,条件が整えば,最終的には以前の支配域に達し,その機能を回復する(第1図A-E参照)。

解説

人工赤血球

著者: 簑島高

ページ範囲:P.294 - P.301

 はじめに
 「血液は生命なり」とはギリシヤ時代(紀元前480年)から現代に至るまで一貫した人類共通の重要な知識である。手術,外傷その他,疾患に対する輸血の意義は,血液中の赤血球と血漿の働きにあるといつてよい。赤血球は酸素を運び,炭酸ガスを緩衝する,血漿は緩衝作用,浸透圧維持,細胞栄養にあづかる。
 輸血に際して圧倒的に利用される保存血液は保存期間(21日)の短いこと,伝染病の仲介をすることなどの欠点がある。すでに液体性の血漿の代りに乾燥血漿が実用化され,また赤血球の保存期間を18カ月までに延長できる冷凍赤血球がアメリカ(1965)で研究され,日本でもその実用化が行なわれている。

研究の想い出

想い出の地—大宮,南通,フィリッピン

著者: 松崎義周

ページ範囲:P.302 - P.308

 大宮
 昭和2年4月慶大を卒業するとすぐ内務省大宮実験所へ勤務することとなつた。職名は警察医で,埼玉県大宮町(今は市)警察署勤務という辞令を頂いた。実験所は,時の大宮町隔離病舎の一部を借りたもので,いわゆる内務省式改良便所の研究所である。細菌部と寄生虫部に分れており,私は寄生虫部の主任であつた。すでに栃原勇,濃野垂両博士の二代の研究で,鉤虫卵,蛔虫卵の殺滅には本改良便所のきわめて有効なることが決定され,小生はその研究の続きを型通りに行なえばよろしいわけであつたが,さらに一歩を進めて実地試験として,近くの二ケ村の農家に研究所の費用で改良便所を作つてもらい,使用上いかなる型にすべきかの,実際面の研究をやつていた。内務省衛生局予防課長の高野六郎博士(小生学生時代慶応大学衛生学教授兼北里研究所部長であつた)が事実上の所長であり,われわれの上役として細菌部に勝俣稔,寄生虫部に内藤和行の両先生がおられた。
 内藤和行さんは有名な俳句の内藤鳴雪先生の息子で,誠に応揚豁達,何よりも酒の好きな方でした。ランニング,水泳も高等学校時代は選手であり,ある時大宮にある「猫イラズ」本舗の成毛さんの邸に伺い,邸内にあるプールで競泳をやり,われわれ若人のクロールよりも内藤さんの「伸し」がはるかに速かつたことを覚えている。

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生体の科学 第23巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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