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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学24巻1号

1973年02月発行

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巻頭言

科学と宗教

著者: 水原舜爾

ページ範囲:P.1 - P.1

 現代は科学文明の時代であり,宗教など顧りみる人は非常に少ないように思われます。また,とくに科学者が宗教などに興味を示すこと自体が,一般の人々からさえも,奇妙な現象のように思われ勝ちですが,とにかく私の宗教観といつたものを少し書いてみましよう。
 人類がこの地球上に発生したのは約50〜100万年前と考えられていますが,以来人類は荒々しい大自然を前にして,その種族保存のためにいろいろな工夫をしてきたと思います。そして物質面での「生活の不安」を解消するために,いろいろな道具を開発し,ついに近代になつて,すぐれた科学文明を生みましたが,また一方では精神面でのいわゆる「心の安らい」を追求した結果,種々の原始宗教を生んだと考えられます。この近代科学文明の急激なる発展の基礎を築いたのは「デカルト」の二元論でありますが,彼はあらゆるものを疑つた結果,ふと「疑つているもの自体」の存在はもはや疑えないことに気づき,あの有名な"Cogito ergo sum"という言葉を残しました。しかし彼の二元論は結果的には科学文明の方向に開花し,この「疑うもの自体」の文化の方向にはあまり進展したとは思えません。しかし,この「疑うもの自体」の存在に気づいたことには大きい意義があつたと思います。科学は人間によつて見られた世界,実験によつて経験された世界の話でありますが,この「見るもの自体」「経験するもの自体」は一体なんでしようか。

座談会

ライフ・サイエンスとは

著者: 香川靖雄 ,   塚原仲晃 ,   野々村禎昭 ,   御橋広真 ,   大沢仲昭 ,   堀田凱樹 ,   遠藤実

ページ範囲:P.2 - P.19

 遠藤(司会) それでは「ライフ・サイエンスとは」という座談会を始めさせていただきます。司会という役を仰せつかつたのですがどうもそういう能力はないし,はなはだ不適任だと思うのですけれども,皆さんに自由に話していただいて,それをつなげる役ということで勤めさせていただぎたいと思います。
 いろいろな面からライフ・サイエンスをやつて居られる若手というか,中堅というか,実力は大家級で気分は若いという方々にお集まりいただいて,自由に話していただけねばなにか出てくるだろうというような編集委員会のほうの考えらしいですけれども。それぞれご自分がどんな立場からライフ・サイエンスのどういう点に興味を持つて仕事をしているのかということから話を始めていただきたいと思います。

総説

血球成分の収縮性蛋白

著者: 柴田宣彦 ,   巽典之

ページ範囲:P.20 - P.50

 はじめに
 血液を構成する血球成分は,赤血球,白血球,血小板であることはいうまでもないが,このうち,筋肉の収縮性蛋白に類似するいわゆるactomyosin-like contractile proteinの存在が初めて確認されたのは血小板であつて,ときに1961年,Bettex-GallandとLüscher1)によつてであつた。この事実を基に,血小板の収縮性蛋白の生物学的役割が多くの研究によつて追究され,現在のところ,その分子論的な機構はまだ明らかにされたとはいえないが,大方の見解として,血小板の凝集,ならびにこれを基礎にした血液の血餅退縮現象の基本的な機構に,本物質の収縮性が関与しているとされている。
 一方,筆者らは,1967年,馬の白血球から収縮性蛋白を抽出することに成功し,それが筋の中でも平滑筋の収縮性蛋白により類似することを明らかにした3)

研究の想い出

解剖学の一教師の思い出

著者: 森優

ページ範囲:P.51 - P.56

 ジャワ島への思い出の旅
 去年の7月の終りから8月の中頃にかけて,ジャワ島を旅行しました。30年ほど前に,ジャカルタ市のジャカルタ医科大学(いまのインドネシア大学医学部の前身)で教師をしたことがあるので,旧知のこの学校がどのようになつているかを,知りたかつたのも,旅行の目的の一つでした。
 私がいたときに,解剖学教室の助教授であつたサトリオ氏は,いまは,インドネシアの赤十字総裁,助手であつたラジオプートロ氏は中部ジャワの旧都ジョクジャカルタ市のガジャマジャ大学の解剖学の教授,もう一人の助手ジョハル氏は東部ジャワの南海岸の町で開業していて,みんな立派に成長し,貧乏書生の私との間には,へだたりができていたが,暖かく私な迎えてくれました。私が播いた一粒の種も見事に成長したと,よろこんでいる次第です。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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