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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学24巻5号

1973年10月発行

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巻頭言

"1日1実験"

著者: 御手洗玄洋

ページ範囲:P.209 - P.209

 昭和24年の秋,私は東北大学の本川生理に留学した。優秀なスタッフに囲まれながら,本川先生は自分から1日1実験を厳守し,できない時は翌日の2実験で補つた。朝は誰よりも早く,夜は誰よりも遅く,その精力にはただただ驚かされた。当時は,網膜の感電性の仮説をたて,次々に心理と生理の間を埋めていた頃で,先生の視覚研究における頂上時代であつた。
 1日1実験は,網膜の教えてくれることだけが研究を飛躍させる,という理由からと聞いたが,強烈な主体性が,むしろ網膜を圧倒するかに見えた先生にこの言ありとは,やはり実験科学における宿命的な限界を知る人の心として私は理解した。

総説

松果体の生化学

著者: 市山新

ページ範囲:P.210 - P.226

 生物がどのような仕組で外界の情報を認知し,個体の内部へとり入れ,これに対して反応するのであろうかということは生物学を学ぶ者にとつて尽きせぬ興味である。Decartesが「松果体は心の座である」と述べて以来,多くの人々に注目されていた松果体(Pineal gland)は,最近ではメラトニンの産生臓器として,外界の光が動物の内分泌系の機能,特に性機能を調節する際に,"つなぎ"としての重要な役割を果たすらしいことが,ここ10年来のAxelrod一派を中心としたインドールアルキルアミン,カテコールアミンに関する研究の結果明らかにされてきた。メラトニンは後述するように哺乳動物では松果体でのみ合成され,その生合成は外界の光および現在未だ正体がまつたく不明の内因的な動物のリズムにより調節されているが故に,動物のリズムの"Mediator"として最近とみに注目を集めている物質であるが,その発見は1917年にMcCord and Allen1)がウシの松果体の抽出液中にオタマジャクシの皮膚の色を白色に変化させる松果体に特有の物質が含まれていることを発見したことに遡る。約40年後の1958年にLernerら2)はこの化合物を実に25万頭以上のウシの松果体から抽出,精製し,その構造式を5-メトキシ-N-アセチルトリプタミンと決定した。

神経分泌細胞の刺激受容と興奮伝達

著者: 山下博

ページ範囲:P.227 - P.242

 Ⅰ.はじめに
 最近,生体の制御系として,液性調節に対する興味がたかまつている。液性調節はそれ自身で存在しているのでなく,神経系によつて調節されている。この神経性調節と体液性調節機構を結ぶ接点が神経分泌である。神経分泌細胞は神経系からの入力を受け,一方,体液情報を検知または,その情報を受容器から受け,それらの入力を統合して,活動電位に変換する。一方,神経分泌細胞体で合成,生産した物質を軸索を通して輸送し軸索終末部に貯える。神経分泌細胞で発生し,伝導してきた活動電位は,軸索末端を脱分極させ,軸索末端の分泌顆粒の内容を放出させる。この過程に関係する研究領域は膨大なもので,いままで別々に発展してきた研究が,境界領域の研究として急速に発達しつつある。
 本稿で取り扱うものは,この広汎な神経分泌の研究領域のうち,哺乳動物の視床下部にある代表的な神経分泌細胞である視索上核(SON)と旁室核(PVN)のニューロンについて,その特性を電気生理学的側面から眺めてみたいと思う。この分野での現在の興味と問題点は次に述べるものに集約できると思う。

解説

田原の結節発見から現代への発展

著者: 後藤昌義 ,   池本清海 ,   八谷アツ子

ページ範囲:P.243 - P.256

 いとぐち
 哺乳動物の心臓における刺激伝導系,ことに房室結節の発見者として世界的にも有名な田原 淳(Sunao Tawara)教授は明治6年(1873年)7月5日生れ,昨年で丁度御生誕100年の記念すべき年を迎えた。
 教授は明治28年第一高等学校に,同31年東京帝国大学に何れも首席で入学,同34年に卒業された俊才で,明治36年(1903年)から3年間,ドイツのマールブルグ大学病理学教室のAschoff教授のもとに留学,房室結節発見の偉業を達成し,明治39年(1906)年にかの有名な"Das Reizleitungssystem des Säugetierherzens"の著書をFischer書店から発行された(第1図)。

研究の想い出

人体癌病理との取組み

著者: 今井環

ページ範囲:P.258 - P.263

 私の想い出は,何といつても,3年前に停年退官するまでの,九大時代の研究生活39年間の中にある。助教授時代までの13年半は私1人の独力だつたが,教授になつてからは,病理学教室と癌研究所の多くの同門の人に助けられて,いくばくかの業績をあげることができたと思つている。苦境の中を忍耐と寛容の精神で,夜遅くまで頑張つてくれた同門者の姿がありありと頭に浮かび,これが私の想い出のすべてといわねばならない。それらの人びとの名前をあげないで私の想い出は述べられないわけだが,紙数の関係でそれができない。それかといつて一部の人の名だけを借りるのは他の人に申訳ないので,全部省略し,「私ども」という表現で替えさせてもらうことにしたい。以下述べるのが,私だけがやつた仕事ではないことを,まずもつて理解ねがいたい。
 私はご多聞にもれず,いろいろなことに手をつけたが,いちばん多くの時間を費したのは癌病理の研究であり,ついで脾臓血管系の研究,動脈硬化の研究,その他であつた。しかし与えられたページ数の関係で,今回は癌の研究の回顧に限らねばならないと思う。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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