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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学25巻1号

1974年02月発行

雑誌目次

特集 生体の科学 展望と夢 座談会

生体の科学の将来を語る

著者: 名取礼二 ,   江橋節郎 ,   上代淑人 ,   浜清 ,   伊藤正男

ページ範囲:P.2 - P.20

 伊藤(司会) 生体の科学の将来を語るということで,あまり固苦しくお考えにならずに,この分野の学問がいままでどうであつたか,現状はどうか,将来はどうしたらいいのかというようなことを,自由な立場でお話し合い願いたいと思います。
 よくいわれることですが,研究者は,いつも明暗の境に位置している。後ろはばかに明かるくて,物事ははつきりしているけれども,前は真つ暗で何もみえない。しかし,そこを少しずつでも進んでいかなくてはいけないという,はなはだ辛い運命を背負わされております。そういう立場にいて過去に明らかになつたことを一生懸命体系化し,これを手懸りにする。そしてその上に立つて未来を展望する,ということをしよつちゆう繰り返しているわけです。

展望と夢

伝達物質放出の調節

著者: 古河太郎

ページ範囲:P.21 - P.34

 編集部から研究上の夢と抱負について書くようにとの依頼をうけたので,かなり以前から手懸けている伝達物質放出の調節の問題に関し若干のレビューを試みて責をふさぎたいと思う。もちろんこれには筆者の考えが誰にも納得されるような仕方で証明できればというささやかな夢が含まれている。

消化管の内分泌系—その機構と本態を探る

著者: 藤田恒夫

ページ範囲:P.35 - P.45

 はじめに
 この数年の形態学者の研究によつて,消化管ホルモンの分泌源がどのような細胞で,それがどのようにしてホルモン分泌やその自己規制を行なうかが明らかになってきた。最近の内分泌学における最大のトピックであろうかと思われる。私たちがこの数年間集めてきた消化管ホルモンの分泌源と分泌機序についての知見を紹介し,折りにふれて話を他の内分泌系へも拡張しつつ,その医学的,生物学的意義づけや将来の研究の展望を述べようと思う。

神経系と情報処理

著者: 西尾英之助

ページ範囲:P.46 - P.51

 はしがき
 近年電子計算機の発達に伴つて,生体の研究において,情報処理が重要な研究手段の一つとみられるに到つた。単なるデータ整理ではなくて,時系列解析や,電顕写真のパターン認識にまで利用されている。ところで,神経系に関していえば,それ自体が情報処理系であることから,情報処理と二重のかかわりをもつているといえる。生体の情報処理の研究に,人工の情報処理技術を利用するわけである。
 生体の情報として重要なものに,他に遺伝情報があり,その研究に情報処理技術が利用されてはいるが,主な研究手段は,やはり物質的基盤をさぐる分子生物学,生化学,物理化学の実験であろう。これに反して,神経系の情報の研究は解剖学や形態学的な方法から,電気生理学へと変遷する過程でも明らかなように,情報の処理(伝達)に重点が置かれている。近年シナプスの伝達機構の分子生物的な研究が盛んになり1),よりミクロな過程が注目されているが,情報処理の観点からすれば,生理学的なレベルで得られた知見を基礎にしなければなるまい2)

免疫学への夢

著者: 山本正

ページ範囲:P.52 - P.57

 はじめに
 もう30年近くも前のことになつた。ある日のこと,東大医学部長であり,私どもの研究所(伝研といつた)の所長でも研究部長でもあつた田宮猛雄先生が研究室にこられたことがある。これからレプラ菌培養の標本をみにゆくことになつているから一緒に参りましようとさそわれたのである。お伴してゆくと,先生は顕微鏡下に染色標本を眺めながら『これは培養基に移して早い時期のものですかな』という風に,ほとんどの標本のおよその培養期間を当てられるのであつた。研究室に戻つてから『生きがよい』とか『悪い』とかいわれても,私ども若輩には何も申せないといささかは不服を申上げると,『曰く云い難しMorphologische Kenntnis!』とプツリとおつしやる。『腐つても鯛』ともいわれたようにも記憶する。
 先生には故太田正雄教授らが種々培養を試みておられた頃,ご自分でも例によつて秘かにやつておられた経験もおありだつたろうし,何よりも細胞内増殖性の恙虫病病原体Rickettsia orientalis命名に至る長年の組織だつた研究の中に培われていた,その当時においてはそれこそ唯一の方法でもあつたであろう,形態を通しての微生物に対する眼識とでもいうべきものが,あの戦後の多忙な大学業務の中にあつても,脈打つていたのであろうと,いまさらながら敬服の念にかられるのである。

講義

小脳の入力と出力の通信を連結する系

著者:

ページ範囲:P.59 - P.82

 Ⅰ.構造についての考察
 小脳が中枢神経系の幅広い働きの中で計算機のような機能をもつことは,現在一般に認められている。小脳はまず下等な魚類において側線器の入力データを処理し,遊泳運動を制御するために発達したが,進化が進むにつれ,小脳は多種のデータ計算,とくに熟練運動の制御のために用いられるようになつた。こうして鳥類では飛翔運動を制御するため小脳は大いに発達し,図1にみるように哺乳類の進化に伴い,大脳と比例して進化している。小脳に病変があると円滑・繊細な運動制御ができなくなり,多種の運動障害をひきおこすことが,百年以上も昔から知られている。
 図2は小脳の主要なニューロン経路を示している。これらの解剖学的経路とその生理学的機能は最近の著書(Eccles, Ito and Szcntágothai, 1967)で詳しく解説した。それ以後の最も顕著な研究成果は,中枢神経系の定量的研究の範となる四つの解剖学的論文(Palkovits, Magyar and Szentágothai, 1971 a, b, c, 1972)に述べられている。表1にはネコの小脳におけるこれらの定量的研究の成果が盛り込んである。図2には小脳の二つの入力路,つまり登上線維(CF)うと苔状線維(MF),そして唯一の出力路であるプルキンエ細胞の軸索が示されている。

話題

第9回国際生化学会見聞記

著者: 和久敬蔵

ページ範囲:P.84 - P.87

 日本の生化学者約120名をのせたDC9がストックホルム空港に着いたのは6月30日,昼の12時。眠い目をこすり,少し変調を来した胃袋をかかえて,異常高温というストックホルムの郊外を30分,バスで通りすぎ,市の中心にあるMalnem Hotelに着く。まずは生化学会場へいつて,registrationをするために友人と二人,ホテルのマネージャーに車で送つてもらい,着いてみると,Älvsjö駅のすぐ近く,ストックホルム中央駅から10分ほど汽車に乗つたところで,郊外に作つた素朴な会議場といつた感じのところだつた,ガランとした鉄骨の体操場のようなところで名札と分厚い予講集,LKBと大きく署名入りのバッグを受け取る。今回の生化学会はLKBの援助を大幅に受けているとのことだが,日本でもしこのような広告のついたバッグを配つたら相当問題になるところであろう。
 今回の生化学会の発表は約1/3がoralで,あとはポスターによるものである。oralは持ち時間が15分で質問も一つか二つに限られるに反し,ポスター発表は午前中または午後中,壁に1×2mの範囲で貼ることができ,discussion timeと称して1時間だけは少なくとも発表者がポスターのところにいる義務があるというシステムをとつていた。この試みは一つは数多くの人が発表できる点で,もう一つは親しくdiscussできる点で成功したと思われる。

第46回日本生化学会大会から

著者: 藤田道也

ページ範囲:P.88 - P.90

 1973年は,酵素反応力学とくに基質・酵素複合体の概念で有名なミハエリスが,愛知医科大学(現・名古屋大学医学部)で初代教授として教鞭をとつてから50年になる。その記念行事の一環としての意味をも込めて,八木国夫教授(名大・医・生化)の申し出により,同氏を会頭として,第46回日本生化学会大会が9月27日から4日間名古屋の某ホテルを借切つて行なわれた。
 大会は三つのシンポジウム(演題数35),六つのコロキウム(演題数20),65の分科会による1024の一般演題,それに会頭講演と3名の外人学者による招待講演から構成されていた。会員数,演題数ともに年ごとにふえる傾向にある。会員数は(名誉会員まで含めて)1972年度が5098名,1973年度は5435名である。一般演題の総計は1972年が907, 1973年は1024とふえている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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