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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学25巻2号

1974年04月発行

雑誌目次

特集 筋細胞の分化 総説

筋分化に伴う筋蛋白の変化

著者: 真崎知生

ページ範囲:P.93 - P.104

 はじめに
 分化した細胞や組織がもつている特徴的な形質の変化を指標として分化の機構を解明しようという試みは,とかくすると一面的で,それを一般化して分化の機構を論ずるにはあまりにも危険の多い方法である。しかし非常に明快で能率のよい方法であるために多くの人に用いられている。このような観点からみると,筋組織は非常に研究しやすい対象てある。それは筋細胞の融合と筋原線維の構成という形態学的特徴の他に,それが興奮性膜をもち収縮という生理的特徴を示すこと,さらには多量の筋構造蛋白を保有しているために生化学的研究の対象になりやすいという理由のためである。
 いうまでもなく,発生学の主流である実験発生学的研究に加えて,最近のこの方面の研究は主として形態学的側面から行なわれてきた。それは古くより行なわれてきた光学顕微鏡による筋の形態学的観察と,最近の電子顕微鏡とその技術の発達による筋の微細構造の解明の延長線上にあるものである。一方,Kühn以来の筋構造蛋白の生化学的研究は,1940年代のA. Szent-Györgyiの研究によつて飛躍的な発展を遂げ,さらに最近の江橋の筋収縮のカルシウム説とトロポニンの発見を中心として,その詳細は相当明瞭になつてきている。したがつてこの段階で,これら各筋構造蛋自に注目して筋の分化の問題を検討し直すことは意義があると思われる。

筋細胞膜の発生と分化—ホヤ発生卵における興奮膜としての横紋筋膜の分化

著者: 高橋国太郎 ,   吉井光信 ,   岡本治正

ページ範囲:P.105 - P.119

 興奮膜とよばれている神経細胞膜あるいは筋細胞膜は,刺激に応じて数十ミリボルト(mV)の細胞内陰性の静止電位から膜電位を陽性に逆転して活動電位を出現する。この活動電位の発現は興奮膜の第一の特質であつて,この性質が興奮膜が卵細胞膜から分化発生する際にどのように獲得されてくるのかを知ることは,興奮膜の機構を明らかにするためにも膜の機能の分化の本態を探るためにも必要であると思われる。この本題に入る前に現時点での興奮膜の理論と現象を私達なりに整理してみた。

筋分化の形態学的分析

著者: 石川春律

ページ範囲:P.120 - P.133

 はじめに
 骨格筋細胞は収縮機能を果たすために高度に分化した細胞である。未分化細胞から出発して,典型的な筋細胞への形態変化は最も劇的なものの一つである。古くから多数の研究者の注目するところとなり,筋発生に関する文献は膨大なものである1〜9)
 いわゆる未分化細胞は細胞分裂を繰り返し,増殖するが,ある時点で筋細胞へ分化を開始する。分化を始めた細胞は筋特異の収縮蛋白を合成し,これらは筋細糸として筋原線維へ組み立てられる。細胞は多核となり,また延長し,巨大細胞へ発達する。さらに細胞内には特異的な膜系が分化増殖する。筋原線維の形成が進むと,筋細胞は自発収縮を行なうようになる。このような形態分化は神経支配なくして可能であり,神経支配はその後の発達をコントロールしているようである。

講義

筋発生および赤血球発生におけるDNA依存について

著者: ,   石川春律

ページ範囲:P.135 - P.143

 今日こうして皆さんにお会いし,お話できるのは大変嬉しいことです。私が望むことは一つ,私の英語がおわかりいただければということです。もし私のいつていることがご理解いかないときはいつでも手を挙げていただきたい。話を中断して説明いたしましよう。講演者が何を話しているかわからないまま,じつと座つているほどつらいことはありません。
 まず最初に指摘したいことは,これから話そうとする研究は実際には私の共同研究者達によつてなされたものだということです。私は机にじつと座っていただけなのです。実際に仕事をしたのは岡崎,Bischoff,石川,Chiの各博士,Rubinstein君,およびWeintraub博士でした。

解説

Neurophysiological Genetics—神経による遺伝情報の解読

著者: 池田和夫

ページ範囲:P.144 - P.152

 はじめに
 一つの世代からつぎの世代への情報は遺伝子によつて伝えられる。伝えられた情報(因子型)はその世代の個体において解読さねることによつて,初めて情報の意義を表わすことになる(表現型)。さてその解読であるが,解読は個体の発生過程においてなされて,解読された結果が個体そのものであるという観念が,メンデル以来今日まで,解読という意識をもつにせよ,もたぬにせよ,遺伝学あるいはそ恵に関連する科学(たとえば発生学)にたずさわる人々の心の底にあつたことは想像に難くない。それは古典遺伝学が形態的表現型(体の構造)を示標として発達した結果,そして近代遺伝学がその概念を引き継いだものである結果として当然のことである。事実,多くの遺伝情報が体の構造に関するものであるから,因子型→発生→形態的表現型という経路を取り上げるのは当然で,形態情報の研究はこの経路において行なわれるべきであるし,それが機能ともつながるものであることはもちろんである。
 しかし,機能に関する情報については別の扱い方があり得ないだろうか。因子型→個体内の情報処理機構→機能的長現型という経路があり得るのではないか。そうとすれば,この経路こそ遺伝情報の因子型から表現型への変換機構の研究に新しい可能性を与えるものではないか。個体内の情報処理は神経系と内分泌系とによつて行なわれる。

ムコ多糖と核—細胞質間相互作用—ウニ胚における遺伝子活性

著者: 木下清一郎

ページ範囲:P.153 - P.163

 はじめに
 発生学のめざす目標の一つに細胞分化の機構の解明があるが,最近,細胞の分化をその細胞のもつ遺伝子の活性の制御としてとらえようとする動きが強まつてきた。すなわち,遺伝子のセットとしてはすべての細胞が等しいものをもつていながら,細胞によつてそのあるものをスイッチ・オンし,そのあるものをスイッチ・オフする機構がはたらいて,結果としてそれぞれの細胞で異なつた形質が発現するのが分化であるというのである。この機構による細胞分化が分化のすべての場合をつくすか否かはしばらくおくとしても,かなりのものにこの機構が見いだされるとして支持されている1)
 この観点から細胞の分化をとらえた場合,かぎとなるものはいうまでもなく遺伝子をスイッチ・オン,あるいはオフする機構である。したがつて分化の研究者はこぞつてこの機構に関係する物質を取り出そうとし,それによつてこれを説明しようとした。現在までの段階をきわめて大ざつぱにまとめてみるとつぎのようになろう。まず,スイッチ・オフを行なつているものはヒストンであるらしい。ヒストンという蛋白質はさらにいくつかの分画に分けることができ,それらは組成も異なり,クロマチン内での挙動にも差がみられており,現在も追求がすすんでいるが,現在までのところどうもヒストンがある遺伝子をねらつてスイッチ・オフするという選択的な制御はできないようである。

実験講座

顕微鏡ホログラフィ

著者: 吉岡亨 ,   竹中敏文

ページ範囲:P.164 - P.169

 ホログラフィの技術は1960年代後半に入つて直ちに実用化され,わが国においても理学,工学の各分野に応用され,いまやその技術は確立されたものといつて過言ではない1,2)。医学,生物学方面への応用も時を同じくして始められたが,画期的な成果はまだあがつていない。その理由はいろいろと考えられるが,第一の原因はホログラフィの専門家が,ホログラフィ装置のデモンストレーションという意味でしか生物体を取り扱わなかつたからで,医学,生物学の専門家がこの種の技術を習得し,適当な対象について研究を行なえば多大の成果が期待できよう。
 ホログラフィの性格上,観測物体の変形とか流速分布のように変化分を取り出して検出するのに適している。変形と流れについての検出限界は,変形の大きさで50〜100Å3),流速は1μ/sec4)以上となつている。

エネルギー分散型X線マイクロアナライザーの使用法

著者: 五十嵐至朗

ページ範囲:P.170 - P.173

 はじめに
 試料を破壊せずに(厳密にいえば正確ではないがホモジナイズして分離することなしにの意)その中に含まれる元素を検出し得る有力な手段としてエレクトロンプローブX線マイクロアナリシス(EPXMA)が従来からあつたが,その主流は波長分散型(WD)であつた。生物試料を対象とした場合はWD感度の限界から直径1μm以下の範囲の分析を行なうときなど電子線による試料損傷が大きく測定が困難であつた。近時非常に純度の高いシリコン結晶を利用して,X線エネルギーを電気量を変えて検知できるSi-detectorが開発され,また宇宙開発その他によつて飛躍的に発達したエレクトロニクスによる電気的エネルギーのアナライザーを上記Si-detectorと組み合わせることにより,微量X線を検知し元素特有のエネルギーの分析を可能にしたエネルギー分散型(ED)X線分析機(AX)が実用化された。
 他方超微形態の観察をすると同時に,その対象物の成分分析をしたいという生物学者の一つの夢が古くからあつたが,これも一般の走査電顕(SEM)または一般型電顕(CEM)に透過走査装置をつけて透過走査電顕(TSEM)とし,前述のED-AXを組み合わせることにより長かつたその夢も現実のものとなつた。TSEMの場合は,特殊対物レンズを使用してその前磁場を利用することにより極微小電子ビーム(30Å以下)も可能となり像分解能も向上した。

話題

第8回国際脳波・臨床神経生理学会(マルセイユ)に出席して

著者: 本間三郎 ,   渡部士郎

ページ範囲:P.174 - P.177

 国際脳波・臨床神経生理学会は4年ごとに開かれるが,今回は9月1日から7日までGastaut教授会長のもとマルセイユで開催された。一般口演数をみると全部で521題(脳波関係392題,筋電図関係129題)。このうち日本人の出題が51題(脳波関係39題,筋電図関係12題)であつた。われわれは約10%の出題数である。このため少なくとも50名以上の日本人が参加したことになるが,いずれも私費であるからとくに大学勤務の教官連中はその金策に苦労したことであろう。
 一般口演の他に特別講演やラウンドテーブルがあり,それに参加した人も多いが,日本人はほとんど選ばれていない。参加者が多い割には,いつもその種の発表にわれわれの参画が少ないので,この学会を一度日本で開催しようではないかと,前回のサンディゴの学会の折,真剣に話合われた。

ゴルジ100年祭シンポジウム

著者: 前川杏二

ページ範囲:P.178 - P.182

 1973年はイタリアの解剖学者ゴルジ(Camillo Golgi,1843-1926)が神経細胞の黒い染色‘reazione nera’(Golgi染色法)を発見して満100年目にあたるので,それを記念してミラノ大学およびGolgiが研究を行なつたパヴィア大学の主催で"Electrotonic versus Chemical Neurotransmission"と題する国際シンポジウムが,9月9日〜12日の4日間,北イタリアのパヴィアおよびミラノで開催された。
 参加者約500名(20カ国)で日本からは東京医科歯科大学の萬年教授(解剖学)と筆者が演者として,ロックフェラー大学の浅沼教授(生理学)が座長として招かれ,その他滞欧中の日本人研究者も数名参加された。会議の第1日の午前中はシンポジウムの会長でミラノ大学薬理学研究所長Trabucchi教授の会頭口演に始まり,病理学教室主任のSantamaria教授らの記念口演があり,その間にアメリカのノーベル医学生理学賞受賞者Nierenberg教授にパヴィア大学長から名誉博士号が贈られた。この開会式後,ゴルジ染色法の歴史的意義と展望に関して,形態学の面からブタベスト大学のSzentagothái教授が,生理学の面からコロンビア大学のGrundfest教授が綜説を行なつた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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