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ムコ多糖と核—細胞質間相互作用—ウニ胚における遺伝子活性
著者: 木下清一郎1
所属機関: 1東京大学理学部動物学教室
ページ範囲:P.153 - P.163
文献購入ページに移動発生学のめざす目標の一つに細胞分化の機構の解明があるが,最近,細胞の分化をその細胞のもつ遺伝子の活性の制御としてとらえようとする動きが強まつてきた。すなわち,遺伝子のセットとしてはすべての細胞が等しいものをもつていながら,細胞によつてそのあるものをスイッチ・オンし,そのあるものをスイッチ・オフする機構がはたらいて,結果としてそれぞれの細胞で異なつた形質が発現するのが分化であるというのである。この機構による細胞分化が分化のすべての場合をつくすか否かはしばらくおくとしても,かなりのものにこの機構が見いだされるとして支持されている1)。
この観点から細胞の分化をとらえた場合,かぎとなるものはいうまでもなく遺伝子をスイッチ・オン,あるいはオフする機構である。したがつて分化の研究者はこぞつてこの機構に関係する物質を取り出そうとし,それによつてこれを説明しようとした。現在までの段階をきわめて大ざつぱにまとめてみるとつぎのようになろう。まず,スイッチ・オフを行なつているものはヒストンであるらしい。ヒストンという蛋白質はさらにいくつかの分画に分けることができ,それらは組成も異なり,クロマチン内での挙動にも差がみられており,現在も追求がすすんでいるが,現在までのところどうもヒストンがある遺伝子をねらつてスイッチ・オフするという選択的な制御はできないようである。
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