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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学26巻1号

1975年02月発行

雑誌目次

特集 体内のセンサー

特集「体内のセンサー」によせて

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.1 - P.1

 生体にはいろいろな種類の受容器が備わつている。その受容する刺激の物理化学的な性質に従つてこれを機械受容器,温度受容器,化学受容器,光受容器などに分類する。痛みを感ずるものを侵害受容器とよぶのは刺激の生物学的な意味によつたものである。受容器はまたその所在によつてつぎのようにも分類される。筋,腱,関節,迷路にあつて空間における体の位置,運動に関する情報を受け取るものを固有受容器,皮膚にあつてすぐ近傍の外部環境の変化を検出するものを外受容器,身体の内部環境からの信号を伝えるものを内受容器,また目,耳,鼻のような感覚器官にあつて遠方よりの情報を受けるものを遠隔受容器とよぶ。本特集で体内のセンサーと呼んだものはいずれも内受容器に属しているが,そのうちとくに脳の内部に位置するものに重点を置いて取り上げてある。
 内受容器には心臓,血管,肺,消化器に付随するものがよく知られている。また,脳内に位置する受容器としては血糖濃度を感受する視床下部ニューロン,体温を受容する視床下部ないし延髄・脊髄のニューロン,脳脊髄液のpHに応ずる延髄表層のニューロンや,特定ホルモンに対して高い感受性を示したり,血液の浸透圧変化に応ずる間脳のニューロンなどが知られている。また時間の経過を感知する生体時計の機構も脳のどこかにあつてよいはずである。

総説

深部体温の受容

著者: 中山昭雄

ページ範囲:P.2 - P.12

 はじめに
 体温調節において,もつとも主要な入力となつているのは,皮膚温と視床下部温で,それぞれに温受容器と冷受容器によつて検出されている。これらは体温調節反応の発現のみならず,温度感覚の面からも詳しく研究されているが,この特集が「体内のセンサー」であり,また紙数の都合もあるので,皮膚温度受容器に関する記述はすべて割愛した。なお皮膚の受容器はHenselによつて精力的に研究されたが,文献(43)に,最近までの成果が簡明にまとめられているので,ご参照いただきたい。
 細胞の活動が結局は複雑な物理・化学反応の連鎖である以上,温度によつて影響を受けることは当然であり,ニューロンもまたその例外ではない。すべてのニューロン活動が多少とも温度によつて変化することは古くから知られているところで,皮膚機械受容器も,温度刺激が強い場合には一過性の動的反応を示す。しかし温または冷受容器の動的反応や定常反応に比較すると,その温度特性というか感度はきわめて低い。しかし両者の間に明瞭な定性的の差違があるわけではない。同じことは中枢神経系のニューロンについてもいえる。大脳皮質のニューロンは一般に局所脳湿の低下に伴つて放電頻度の増加を示すものが多い。しかし大脳皮質を局所加温しても体熱放散反応は発現しないし,また温覚が生じるということもない。

呼吸調節機構のセンサー—化学的調節を中心にして

著者: 名津井悌次郎

ページ範囲:P.13 - P.26

 肺胞気を介して外気と血液間でおこるO2とCO2のガス交換を外(あるいは肺)呼吸,組織液を介して組織と血液間でおこるガス交換を内(あるいは組織)呼吸という。これらのガス交換によつて,生体は外気からO2を取り入れ,またCO2を外気へ排出しているが,それはつぎの2種類のポンプによつて行なわれている。延髄にある呼吸中枢からの遠心性神経(横隔膜神経と肋間神経)によつて胸廓の筋肉が周期的に収縮,弛緩を繰り返す。その結果,肺胞内の容積が変化し,外気と肺胞気間を気体が受動的に移動(呼〜吸)している。これを肺胞換気あるいは肺胞ポンプ(pulmonary pump)という。他の一つは,心筋の周期的な収縮,弛緩によつて血液循環を駆動させるもので,これを心臓ポンプ(cardiac pump)という。組織では物質代謝量に応じたO2をつねに消費し,CO2を産生しているので,二つのポンプのうち,いずれか一方だけが止まつても生体はたちまちO2欠乏とCO2過剰に陥いる。
 以下,両ポンプが正常に働いている場合のガス交換系全体について述べ,それから体液中の呼吸刺激因子と肺胞換気量との関係を中心にその調節機構を明らかにしてみたい。

性行動に関する中枢のセンサー

著者: 大島清 ,   加藤順三

ページ範囲:P.27 - P.42

 性行動を生殖活動と同意義に広範囲に考えるならば,交尾行動,着床,妊娠,分娩,哺乳,子育て,さらに生殖腺の発育,発情周期,月経周期,排卵といつた生殖生理学上のすべての現象を取り上げることになる。また,性行動を規定するものとして遺伝的要素や環境因子,発育途上での経験的要因があり,高等動物になるほどそれらの因子が複雑にからみ合つている。しかもこれらの現象のほとんどが,性ホルモン—脳とかかわりあいがあるから,これらを本稿に網羅することはとうてい不可能である。したがつて,性行動の象徴であるともいえる交尾活動に関係ある一連の行動に限定して,その脳内センサーを探る,という方向で話をすすめてゆきたい。

解説

最近の光受容素子

著者: 斎藤博

ページ範囲:P.43 - P.51

 はじめに
 光は波の性質をもつている。この波は電磁波とよばれ,1kmぐらいのラジオ波から0.001Å(オングストローム)ぐらいのガンマ線にわたる広い波長範囲をもつている。この解説では波長が数100Åの真空紫外線からだいたい100μ(ミクロン)の遠赤外線までの波長範囲の光の検知器(受容素子)について説明する。この波長範囲にある光について現在検知器として普通使われている素子の動作原理は,大別して4種類ほどある。以下各動作原理について簡単な説明を行ない,その原理を応用した実際に使用されている検知器について,その基本的な性質を述べる。動作原理別に分けるという方法は,とりもなおさずその検知器の使用可能な波長範囲(たとえば可視領域など)を示すことにもなつている。なお動作原理あるいは個々の検知器についてのより詳しいことは,それぞれ専門書を参照していただきたい。またここで述べるおのおのの検知器とは,光の強度の大小のみを検知する素子であるが,V節で光の強度の大小と,スペクトルを同時に検知する素子についても簡単にふれる。

生体時計—とくに概日リズムについて

著者: 緒方維弘

ページ範囲:P.52 - P.58

 はじめに
 生体の機能のうちには,一定の周期をもつて規則正しくその活動消長をくりかえしているものがたくさんある。このような現象を発現させるためには,体内に一種の計時機構が存在し,その統制するところによるという考えが古くから伝えられている。生体時計(biological docks)とはこのような計時機構を意味するものである。
 生体が現わしている周期現象には,一昼夜を基本として動いているものがすこぶる多く,一般に生体時計とはただちに24時間を周期とする生体の計時機構と解されているような印象を受けることが多い。これは生体時計なる呼称がわれわれの日常携帯している計時機器である時計を連想させることによるのかも知れないが,他面それだけに24時計周期の基となつている太陽の生体に及ぼす影響の強大さをものがたるものともいえよう。

実験講座

巨大植物細胞の手術とその応用

著者: 黒田清子 ,   神谷宣郎

ページ範囲:P.59 - P.66

 植物細胞と動物細胞とは構造的・機能的に多くの共通点をもつているが,植物細胞は一般にセルローズを主成分とする強靱な細胞壁をもち,細胞の大部分の空間は液胞によつて占められていることが多い。また植物細胞とくに藻類などには著しく巨大なものが珍しくないので,他の細胞では期待できない実験が可能となる。たとえば本来の細胞の内容や体制を外科的な手術で人為的に変えたり,細胞内容の一部を外に取り出すというような方法も適切な材料さえ選べば,容易に行なうことができる。
 一つの細胞を細い糸でくくつて二つの部分に分ける実験1)や細胞を切つて内容物を外に出す試み2)は前世紀のはじめから行なわれていたが,最近生理学の有力な手段として再び注目されるようになつた。ここには典型的な巨大植物細胞として古くから注目されてきた車軸藻類(Characeae)の節間細胞を用いた細胞手術の方法とその応用について,主として筆者らの経験を中心として述べたい。われわれの用いた手段は,細胞のくくり(ligation)と切断(amputation),およびそれらの組合せである。

軸索流の中枢神経線維結合研究への適用

著者: 川村祥介

ページ範囲:P.67 - P.72

 はじめに
 脳の働きは多くの神経細胞の有機的な連なりからなつていて,その働きを理解する上で個々の神経細胞もしくは機能的細胞群が互いにどのようにつながり,どのような相互連結をもつかを知ることは不可欠のことである。神経解剖学領域においては,過去一世紀以上にわたり脳の組織切片からそのつながりを解明しようという努力が続けられてきた。ことに1950年代にNautaによつてもたらされた変性神経軸索の鍍銀法は,その後の変法とあわせて,この分野の研究に広く用いられ,多くの進展をもたらした。また電子顕微鏡の生物学方面への応用は神経解剖学の線維連絡の研究の面でも多くの貢献をもたらしている。しかしながら,長行線維の連絡において変性法という神経細胞の病理的現象に立脚したものは,とりわけ脳深部に起始をもつ細胞の線維結合を研究するうえでは,他の部に起始をもち損傷部を単に通過するものと真にその部から発するものとの弁別は不可能であり,しかも用いる方法が変性変化を敏感にとらえるほどこの意味における所見の誤りの危険が増すという矛盾に遭遇する。

講義

膜の分子解剖

著者:

ページ範囲:P.75 - P.87

 細胞膜については,50年前からいろいろの人たちが分析してきました。一番得やすい膜は,もちろん赤血球膜です。赤血球膜は簡単に精製することができますので,これを分析すると,皆さんがご存じのように,60%はタンパク質で,約40%は脂質です。
 この脂質分子は,水の表面にきれいに縦に並びます。もし1個の赤血球の膜の脂質分子をこのように縦に並べますと,その分子の領域の面積は赤血球の表面積のちようど2倍になります(Gorter and Grendel, 1925)(図1)。

話題

The Salk Institute for Biological Studies

著者: 城所良明

ページ範囲:P.88 - P.92

 南カリフォルニアの明るい太陽と独創的なデザインの建物とは,意図されたようにそこで研究をする人達の創造力をかきたてるものだろうか。Salk研究所はL.I.Kahn設計による独特な建物によつて建築方面の人々にはよく知られている。しかしそこで行なわれた研究が,どれほど意味のあるものであるかを評価するには,まだ時期が早すぎるかも知れない。
 小児麻痺用のワクチンを作つたJ.E.Salkにより1966年に設立され,現在7人のすでに確立した研究者(ややこしいことにここではfellowとよばれているが,大学におけるprofessorに相当する)を核に約50人の研究者が多方面の研究にたずさわつている。研究の分野はかなり広く,人間を全体として理解するための研究をするという基本的な考えにのつとつて医学,生物学のみならず言語学から哲学にまで及んでいる。

日米科学セミナー"Developmental Aspects of Cardiac Cellular Physiology"に出席して

著者: 瀬山一正

ページ範囲:P.93 - P.96

 Developmental Aspects of Cardiac Cellular Physlologyと題した今回の日米科学セミナーは10月14日から17日まで東京のホテルニュージャパンを会場にして行なわれた。日米双方から11名および8名の演者が発表を行ない,出席者の内4名はヨーロッパからも招待され討論を一層活発にした。演題は形態面に関するもの6題,機能面に関するもの13題であつた。このセミナーを通して最も印象に残つたことは,一つの発表に対して機能と形態の両面から検討が加えられたことであろう。この種の会合が機能に関するものであれ,形態に関するものであれ,ややもするとおのおのの分野に閉ざされたものとなりがちであることを考えると,このセミナーが成功したことは両分野の協力へのよき先例となることと思う。主幹された佐野,Lieberman両先生の企画のよさを,多くの出席者が讃えていたことをここに付言しておきたい。
 さてつぎに,筆者が興味をもつている機能に関する発表について,会期中,活発な討論をよんだ話題を分類し,その内容を紹介してみたいと思う。

1974年の筋のGordon Research Conferenceに出席して

著者: 遠藤実

ページ範囲:P.97 - P.100

 今年の8月12日から16日まで,いつもの米国NewHampshire州PlymouthのHolderness schoolで筋のGordon Confereneが開かれました。今年の主題は横紋筋の"activation",chairmanは,L.L.Costantin,cochairmanがR.W.Tsienでした。Chairmauの意向が強く出たのでしよう,それと,来年の同種の会の主題が"筋収縮の化学"であることをおそらく考慮して,今年は全く生化学抜きの,少し狭い意味での純粋に生理の会でしたが,その限りでは未発表の重要なデータが続々と話されるなど,非常に充実した面白い会でした。日本人の参加者はPurdue大学の中島さん,東大・生理の松原さんと私の3人だけでした。以下に印象に残つた点をご報告します。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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