icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学26巻2号

1975年04月発行

雑誌目次

特集 感覚有毛細胞

特集「感覚有毛細胞」によせて

著者: 勝木保次

ページ範囲:P.101 - P.101

 感覚有毛細胞の代表的なものは内耳有毛細胞と味覚細胞である。両者は感覚二次細胞といわれ,刺激の受容が行なわれる。中枢への神経情報は,この有毛細胞に終る神経終末でおこり,このような意味では両者はよく似ている。刺激受容のセンサーは有毛細胞であり,情報をおくるためにはこの細胞とは別に発生した神経線維が細胞底部の膜面にシナップス接続をしている。そうはいつても高等動物においては両者の間に形態的にかなりの差がみられる。たとえば細胞上面の毛の性質,有毛細胞とこれを取り囲む支持細胞との関係や,遠心性系路の存在などである。しかし動物の種類によって両者の間の差が一様ともいえず,これらの発達の過程をみると必ずしもはつきり区別があるともいえない。
 この両者の起源をたどつてゆくと水生動物では共に体表の感覚器であり,脊髄神経,迷走神経,communisnerveなどにより支配されているといわれているが,これは体部の話で,頭部では三叉神経や舌咽神経が脊髄神経にかわつている。この意味では本誌前号の「体内センサー」とは全く異なり,体外の水生環境の変化を感ずるのが本来の働きなのであつて,陸生動物になると体内の特定の部位に限局するようになる。すなわち一方は味覚器として口腔内に,他方は内耳内に局在する。味細胞上面の毛は身体の方々の細胞に広くみられる絨毛であるが,一方の内耳受容細胞の毛はそれと異なつた種々の長さに成長した毛である。

総説

内耳側線系感覚上皮有毛細胞の微細構造

著者: 浜清

ページ範囲:P.102 - P.116

 各種脊椎動物の聴覚器,前庭器,側線器などはそれぞれ音,重力,加速度および外液移動の受容器として生理的には異なつた機能をもつているが,その感覚上皮の基本構造はほとんど共通で,すべて有毛細胞を感覚細胞としてもつている。このことはこれらの受容器が生理的には刺激を異にするけれども,メカニカルには感覚毛の移動を感知するという共通の受容機構に従つていることを考えると容易に理解することができる。ただ,側線器の場合,機能的には外液振動,電場の変化,外液イオン濃度の変化など多様な刺激に対する受容器に分化しているにもかかわらず,その感覚細胞が有毛細胞としての基本的な構造を失つていないことは,感覚細胞の微細構造と刺激受容機構との関係を考えるうえで大変興味深い問題を提供している。

側線器の化学受容—有毛細胞の化学受容性

著者: 柳沢慧二

ページ範囲:P.117 - P.126

 有毛細胞は高等動物の内耳の聴器や平衡器にある受容細胞であるが,これらの器官は発生学的に水棲動物の側線器と同一の起源であり,側線器の受容細胞も内耳と同様の構造の有毛細胞である。聴側線系(acoustico-lateralis system)はこれらの機械的受容器の総称であるが,その働きと発生過程とを総称しているという意味で非常に好都合の用語である。本特集では聴器,平衡器の有毛細胞については別に取り扱われているので,本稿では側線器の有毛細胞についてのべることにする。内耳有毛細胞が他の組織に比べて異常に高濃度のKを含む内リンパ液に接していることは17),内耳有毛細胞の化学受容性を示唆して興味深いが,ここでのべる側線器有毛細胞の化学受容性が,そのまま内耳にもあてはまるかどうかは,まだ今後の課題である。しかし,複雑な高等動物の機能を解明する手段として単なる比較生理学ではなくて系統発生学的手法を取り入れることはきわめて有効であるし,また必要なことである。

特殊側線器(電気受容器)

著者: 小原昭作

ページ範囲:P.127 - P.141

 高等動物の内耳を含む聴・側線器系の感覚受容器が"有毛細胞"(機械的受容器)であり,その基本的な構造が魚の表在性側線器によつて代表されることはよく知られている。ある種の魚はこのような通常型側線器(ordinary lateralis receptor)の他に,特殊側線器(specialized lateralis receptor)とよばれる一群の受容器をもつており,これらは形態的には"感覚毛を失なつた有毛細胞"と考えてよく,機能的には水中の電場の変化を検出する電気受容器(electroreceptor)である。
 このような受容器の存在は,はじめ弱電気魚とよばれる連続的に弱い発電を続けている熱帯魚について想定された(Lissmann35))。これらの魚は,①外来の電気刺激にきわめて鋭敏であり,またこねら厳密な行動実験的検証により,まず,電場を検出する未知の受容器の存在が想定されたと同時に,それが魚白身の発する信号によつて周圏の環境を探る感覚系の一錦として使われていることが確立された。

解説

聴覚毛細胞とラセン神経節細胞の微細構造

著者: 粟田口省吾

ページ範囲:P.142 - P.151

 最近,透過型ならびに走査型電子顕微鏡の発達普及により,生体のうちで最も複雑で精巧な構造をもつ細胞の一つである聴覚毛細胞の特殊な微細構造やラセン神経節細胞の超微形態学的特徴がつぎつぎと解明されている。とくに聴覚毛細胞については,従来研究用として最も多く用いられているモルモット2〜4,16,26,27,29),マウス11),ネコ30),ラット28),カイウサギ25),カエル7)などより,ハト33)やヒト12)にいたるまで,種々な動物の聴覚毛細胞を主とする内耳の構造が,精密でしかも美麗な電子顕微鏡の写真が付けられ,詳細に説明されている。また,ラセン神経節細胞についても,キンギョ21),ラット22),モルモット10,18〜20,32,35),鳥類8)—スズメ,カワラヒワ,ツグミ—,カエル1,36)などの発表がある。しかし,これら両細胞についての微細構造は,もちろん,観察した動物によつて大きな差があり,また,動物の種々な条件や観察方法によつても,はなはだしく異なつており,一定の見解に至つていないものも少なくない。ここでは,個個の実験方法や条件については割愛して,渉猟し得た文献や資料を基礎として,聴覚毛細胞とラセン神経節(第八脳神経節)細胞の微細構造について,全般的に,その概略を述べてみたい。

工学的にみた聴覚器官の特性

著者: 大串健吾

ページ範囲:P.152 - P.163

 まえがき
 従来の工業技術は,概して人間の種々の面の能力を拡大する方向に進歩してきたといえよう。たとえば,人間の走行能力を拡大するものとして自動車,計算能力を拡大するものとして電子計算機というような例が考えられるが,このような例は他にも多く挙げることができる。しかし近年になつて,人間の能力の拡大ばかりでなく,人間の能力の代行をめざすような研究の方向が現われてきている。このような立場にたち,生体の内部的構造を探求し,工学的に実現できる形として理解していこうという研究が生まれてきた。このような研究は生体工学とよばれている。
 ここでは聴覚系を工学面から眺め,いくつかの問題点についての各方面の研究成果を,新しい生理実験研究および心理物理実験研究の成果を含めつつ紹介していくことにする。

講義

眼の動きを操る神経信号

著者:

ページ範囲:P.165 - P.177

 最近,眼球運動の生理学の分野で,非常に多くのデータが得られている。これは主として,覚醒して行動しているサルで,視覚および動眼ニューロンからの記録が可能になつたためであるが,また,慎重にコントロールされた解析的な実験が,これまでの大まかで記述的な研究に取つて代わりつつあることにもよる。しかし,どの科学にあつても,事実は,単に最初の一歩にすぎず,それらを総括的に説明することができなければ,事実の中に溺れてしまう。私は,眼球運動の生理学の三つの分野で,このような説明を試みようと思う。第Ⅰ節は,橋の眼球運動機構の解剖学的構築を取り扱い,第Ⅱ節は前庭動眼反射の制御における前庭小脳の機能に関する理論を扱う。第Ⅲ節ではsaccade(衝撃性眼運動)を制御している核上性信号のcodingの性質を考える。

実験講座

分泌細胞内Caイオン注入法と分泌顆粒放出の観察法

著者: 菅野富夫

ページ範囲:P.178 - P.182

 はじめに
 機械器具がどんなに精密なものになり自動化されてもそれを使いこなすには各人の創意工夫と修練がいる。生理学の実験には小さな技術のつみかさねが相対的に重要な部分を占めている。細胞1個を直視しながら微小電極を刺し込み,細胞内電位を記録し,電気泳動的にイオンを注入し,分泌顆粒の放出を観察するという実験に付随する技術の細部を書いてみたい。主としてラットの肥満細胞mast cellについての実験技術をのべるが,この実験は一昨年夏に2ヵ月半ばかりYale大医学部薬理でW.W.Douglas教授とともに,D.E.Cochrane氏に技術を伝えながら行なつたもので,結果の一部は発表済のもの4)である。この実験に使つた機械と器具の大部分は前回留学時Einstein医大で培養副腎髄質細胞の実験2)に使用したものであり,Douglas教授がYale大に移つてから移動してきてあつたものである。数年前に私の作つた小さな器具もそのまま保存されており,それらなつかしい小道具にひかれて肥満細胞の実験にも熱中してしまつたという面もある。

硝子コーティングによる白金イリジウム電極の製作法

著者: 真野範一 ,   林久美

ページ範囲:P.183 - P.186

 はじめに
 近年,神経生理学の分野で慢性実験の比重が次第に増大しつつあることは,過去5年間の日本生理学会における発表演題を一覧すればわかる。これは全世界的にみてもいえることである。慢性実験には急性実験で,経験しない特有の技術的困難が伴うので,これを克服するための実験技術の進歩が伴わねばならない1)。ここにとりあげられた白金イリジウム(Pt-Ir)電極2)は,その意味で近年急速に普及しつつある。本稿では,筆者がNIHのE. V. Evartsの研究室3)で習得してきたことを基本とし,日本の実状に合わせて多少改良し,筆者らの研究室での過去数年間の経験を踏まえて,できるだけ具体的に製作法を紹介する。

話題

Robert Bárányとバラニー協会—第5回国際平衡神経科学会に関連して

著者: 鈴木淳一

ページ範囲:P.187 - P.189

 まじめな医学生であつた方なら,Robert Bárányの名は,知つているものと思われる。バラニーのSymptomとか,バラニー・テストとか,バラニーの椅子などというと,思い出される向きもあろう。
 R.Bárányは,オーストリア・ウィーンの出身,耳科学でノーベル賞を受賞し,今日の臨床神経耳科学の基盤を確立した。略歴をたどるのも興味があるのでこれを下に記してみる。

ニューデリー国際生理科学連合会議

著者: 高木健太郎

ページ範囲:P.190 - P.193

 Ⅰ.総会
 第25回の国際生理科学連合会議(国際生理学会)は1971年ミュンヘンで開催され,1974年は第26回にあたり,インドのニューデリーでDr.B.K.Anand会長のもとに開催された。
 1974年10月18日には実行委員会,19日9時より10名の理事よりなる理事会が開かれ,日本からは現東京医科歯科大学学長の勝木保次氏が出席した。10月20日8時30分から各国からの代表による総会がアショカ・ホテルで開かれ,ついで午後同所の大広間(Convention Hall)で開会式がもたれた。

日本の印象

著者: ,   岩間

ページ範囲:P.194 - P.196

 Ⅰ.日本における視覚神経生理学の現況
 中枢神経系を研究するのにはたくさんの方法があり,対象として選ぶレベルもさまざまであるが,脳なるものの理解にはそのいずれもが大切である。ただ,近年になつてとくに有効と認められるものとして,単一ユニットの活動を記録するという方法がある。最近の著しい視覚神経生理学の進歩は,すべてこの方法によつているといえる。私自身のことをいえば,視覚系の単一ユニットの電気生理学が専門である。この研究領域のなかには,大きくわけて二つの型の研究がある。一つは,視覚系のなかのニューロン回路を分析したり,他の系との結合の様式を研究するものである(回路分析の研究)。他は,視知覚の根底にある神経機構をさぐる研究である(生理学的心理学の研究)。視覚の生理学的心理学では,単一ユニットの受容野なるものが中心概念になつていて,その性質を分析することや多数受容野間の相互干渉の法則を明らかにすることなどが研究の大勢になつている。
 日本がとくに強く,世界での指導的な生理学者を生んでいるのは,ニューロン回路を分析する研究領域であることはいうまでもない。しかし,生理学的心理学となると世界の他の国と同じように,日本ではこの学問が十分に発展しているとはいいがたい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?