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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学26巻4号

1975年08月発行

雑誌目次

特集 受精機構をめぐつて

特集「受精機構をめぐつて」によせて

著者: 団仁子 ,   石川春律

ページ範囲:P.277 - P.278

 たいていの精子の先端にある小さなオルガネラについて,これを錐(キリ)だという考えに終止符がうたれ,精子が卵へ進入する過程でもつと複雑な役割が認められ始めてからほぼ四分の一世紀が過ぎた。この間,多数の研究者が精子が卵へ近づく際,いろいろな先体(acrosome)に起こる変化を研究してきた。その結果,受精現象に関するわれわれの理解に多大な貢献がもたらされた。
 とくに貢献がなされたのは,各種の精子先体に含まれ,未受精卵を包む保護被膜を精子が通過できるよう適当な時点で放出される分解物質の化学的性質についてである。哺乳動物の先体はつぎの点でとくに興味深い。すなわち,2種の異なる酵素が含まれており,まず,卵丘細胞間のセメントを溶かすヒアウロニダーゼ(hyaluronidase)を,ついで透明帯(zona pellucida)の糖タンパクを分解する"zona lysin"が順次放出される。

総説

哺乳類受精の動態観察

著者: 大浦親善

ページ範囲:P.279 - P.293

 はじめに
 一般に哺乳類の受精は生体内で行なわれることは周知の事実である。生殖生物学の領域で受精の機序を明らかにすることは,きわめて重大な問題の一つとして取り上げられている。かつまた生体内での受精現象を観察することは困難とされている。したがつて受精の機序ならびに現象を明確にするため古くからいろいろの材料で受精実験が行なわれ,多くの知見が発表されたが,光学顕微鏡的所見によるものがそのほとんどを占めてきた。
 近年,電子顕微鏡の発達に伴い,ラット1〜3),ハムスター4〜7),ウサギ8〜12),マウス13)およびヒト14)を材料にした受精の形態学的研究が一段と活発になつてきた。しかしながらStefaniniら13)によつてなされたマウスの研究以外は,研究方法がいずれも卵管より卵を流出させ,または生体外(in vitro)で精子を卵に進入させる方法を用いて研究したものであつた。

哺乳類の精巣上体と精子成熟

著者: 鈴木二美枝 ,   永野俊雄

ページ範囲:P.294 - P.309

 哺乳類の精巣にはその導管の一部が著しく屈曲してできた,精巣上体と呼ばれる器官が付属している。精細管で精子形成を終えて精巣上皮から離れた精子は,この精巣上体の管を10〜25日かかつて通過中に成熟をとげ,さらに自然条件下では,メスの体内で受精能獲得(capacitation)をして始めて卵と受精しうる。ここでは,成熟に際して起こる精子の変化と,それに必要な環境を与えている精巣上体について,主に形態的な側面から考察してみたい。

ヒト卵子の発生と成熟動態

著者: 鈴木秋悦 ,   関賢一 ,   伊藤武夫 ,   大山俊雄 ,   東条竜太郎 ,   小林善宗 ,   浜田光磨 ,   依田和彦 ,   藤原達司

ページ範囲:P.310 - P.322

 はじめに
 生殖細胞の発生は個体発生の起点として,ライフ・サイエンスに関する研究上でも,重要な位置を占めていることに異論はないと思われるが,この領域の学問は,研究方法の難しさから,最近の医学・生物学の進歩の陰にあつて,なお,古典的生物学の域に低迷してきていたということができる。
 しかし,近年,生殖に関するメカニズムの問題が,生殖生物生理学(Reproductive Biobgy and Physiology)として脚光を浴びるに至り,多数の国際シンポジウムなども開催され,さらにHadek1),Zamboni2),Suzuki3らのモノグラフも出され,わが国においても第36回日本医学会シンポジウム4)のテーマとして"初期発生"がとりあげられた。

卵着床の動態

著者: 舘鄰 ,   舘澄江

ページ範囲:P.323 - P.337

 はじめに
 旧約聖書は"始めに言葉ありき"と教える。言霊のみが果てしなき宇宙の混とんの中をさ迷つているさまを簡単に受け入れるわけにもゆくまいが,古くから知られた現象を呼ぶ言葉が,知識の進歩と共に不十分となる傍らで,そのような現象を別の言葉でいいかえることにより,新しい研究の展望が開けるという事実は,われわれがしばしば経験するところである。
 一方で言葉の乱れが識者を嘆かせる。科学者の多くは,それら識者の一員のはずであるが,科学の分野での言葉の混乱もまた,相当なものではなかろうか? われわれ自身混乱の助長に微力を尽している気がしないでもない。

解説

化学受容膜への陽イオンの化学吸着

著者: 吉岡亨 ,   河合啓子 ,   勝木保次

ページ範囲:P.338 - P.346

 1968年に勝木らにより見出されたサメ側線器の陽イオンに対する反応は,その後硬骨魚,食用ガエルのオタマジャクシ,アフリカツメガエル,アメリカサンショウウオなどの側線器においてもみられることがわかり,化学受容器の存在が確立されるに至つた14)。これらの化学受容器に対しては,1価の陽イオンは例外なく刺激になるが,2価の陽イオンの効果は必ずしも簡単ではなく,動物の種類によつていろいろと異なることが判つた。このような化学受容の機構を調べるには,できるだけ発達段階の低い化学受容器を有する動物から高等動物までについてできるだけ多くのイオンに対する反応性を系統的に調べることが肝要である。このような見地に立つて,化学受容器としてはその機能の変化が追跡できるオタマジャクシの側線器が選ばれ,それに対して12種類にのぼるイオンの効果が調べられた24)。この12種類のイオンはその反応性や親和性などから四つのグループに分類されることが判り,しかもその後の研究によりイオンの分類が化学反応に対するHSAB30)(Hard and Soft Acids and Base)の概念を用いて矛盾なく説明し得ることが判つた。そこでわれわれはここでは上に述べた考えを援用しつつさらに一歩すすめて,化学受容器の陽イオン受容機構が化学受容膜への陽イオンの化学吸着として説明できないかという点に焦点をおいて述べていきたい。

植物細胞の脱分化と再分化

著者: 岡村昭治

ページ範囲:P.347 - P.357

 はじめに
 高等生物の増殖や分化の研究に組織培養や細胞培養が広く行なわれるようになり,理学,医学,薬学,農学の各分野にわたつて大きな成果をおさめているが,高等植物においては,約40年前に,根1)および形成層2)の試験管内培養が成功してから,培地の改良,植物ホルモンの研究の進展などに加えて,遊離細胞の液内培養と細胞のクローン化3)などの基礎的技術が開発され,組織培養,細胞培養が,種々の植物の種々の組織から得られるようになつた。後述するカルスや,植物腫瘍などの試験管内培養は,無定形の細胞塊として増殖し(図5,7),形態的にも,機能的にも原組織に比較して脱分化の進んだ組織(あるいは細胞)となつて分裂,増殖を行なう。ところが,SkoogとMiller4)は,培地中の植物ホルモン(図1)の比率を変えることによつて,タバコのカルスから,根だけ,茎だけ,あるいは葉だけを分化させることに成功し,このカルスが,もとはタバコの茎の髄から得られたものであるにもかかわらず,根や葉への分化の潜在能力をもつていたことを示した。

講義

電子顕微鏡で観察されたウイルスの構造

著者: 野々村禎昭 ,  

ページ範囲:P.359 - P.371

 今日はウイルスの,とくに電子顕微鏡でみられた構造についてお話しします。まず歴史的な背景についていくつかのことを述べ,ウイルス構造の基本について少しばかり触れて,それからネガティブ染色でみられたウイルスの電顕写真をおみせしましよう。これらの電顕写真は我ながら美しいものなのですが,これはウイルス粒子そのものが実に美事な構築物だからなのです。そのあとで少しばかり共同研究者のKenneth Richards博士と私が最近やりました,バクテリオファージの頭の中に詰め込まれ,包み込まれているDNAについての研究のお話しをして,最後にラムダファージのカプシッド(殻)構造決定に関連した最近の研究のお話しをしたいと思います。
 私は最初のウイルスの電顕写真がとられたときのことを知つているような老人です。そしてアメリカ人なので,つい聴衆の皆さんにはききなれていないアメリカ的表現を使つてしまうことを許して下さい。さて,初期のウイルス粒子の電顕写真は小さな球状の塊(blobs)に過ぎませんでした。この言葉の意味は境界がはつきり区別できないような種類の構造のことです。いいかえれば構造といえるようなものをほとんど示していなかつた。ともいえましよう。このような事態は1944年にRalph Wyckoff博士と私がシャドーイング法を導入したことで改善されました。この方法はウイルスの三次元的外観をはつきりと示してくれたのです。

実験講座

眼球運動の測定法

著者: 小沢哲磨

ページ範囲:P.372 - P.376

眼球運動系は網膜像を良好な状態に保ら,質のよい情報を視中枢に送るために精巧な機構を作つており,その中枢伝導系は,手や足の運動を司る一般の錐体路とは全く異なつた特殊な構造をもつており,中枢神経系の中で大きな比率を占め,眼球運動系の解析は,臨床神経学領域においても欠くことができない。その解析の指標としての眼球運動測定の一つの方法は,眼球運動の制限を判定手段とする静的な解析方法で,たとえば外転制限があるとか,上転障害があると表現される基本的な検査方法として古くから用いられている。他の一つは眼球の動き自体を対象とする時間要素を含めた動的な解析方法であり,この方法により眼球運動系は ①衝動性眼球運動(saccadic system)
 ②滑動性眼球運動(pursuit system)
 ③前庭動眼反射(vestibular system)
 ④幅湊(vergence system)
 の4系に分類することができる1)。これらの系は独立し協調して働き眼球が巧妙に動くことができる。
 衝動性眼球運動は一つの視目標から他の視目標に視線を跳躍させる運動で,角速度は,300ないし600度/秒,持続時間は0.1秒前後と速く(図1a),運動中に網膜からの情報を利用することができないため,前もつてその方向,振幅を決めておくpreprograming方式で運動が行なわれ,その役割に小脳が大きく関与していると考えられている2)

話題

英国ノッチンガム大学人類形態学教室にて

著者: 小林繁

ページ範囲:P.377 - P.380

 はじめに
 私は1972年8月から1974年8月まで,英国ノッチンガム大学医学部人類形態学教室に留学する機会をもちました。この教室は副腎髄質の形態学の方面で現在世界の第一人者であられるR.E.Coupland教授に主宰されており,私は以前からぜひこちらに留学したいと考えておりました。うかつにも,渡英してはじめて解つたのですが,この医学部は今世紀に英国で新設された二つの医学部のうちの一つで,1968年設立以来まだ数年の歴史しかなく,いまだに卒業生のいないありさまでした。
 人類形態学Human Morphologyとは,平たくいうと解剖学Anatomyのことです。英国では解剖学は肉眼解剖学を意味しますが,昨今解剖学教室で扱つているのは肉眼解剖学のみならず,胎生学,組織学,超微構造を主とした分子生物学などであり,解剖学全体では,しだいに肉眼解剖学以外の方向に拡張しつつあります。そこで,古い伝統のある英国で21世紀の医学教育をめざす新設のノッチンガム大学では,解剖学にかわつて人類形態学という名前をもちいたわけですが,まことに適切な名称と申せましよう。

Brodal教授のBirthday Partyと記念シンポジウム

著者: 川村光毅

ページ範囲:P.381 - P.384

 1975年1月23日から3日間,ノルウエー・オスロの南にあるSandefjordという町のPark Hotelという所で,Aif Brodal教授の65歳の誕生を祝う会とシンポジウムが開かれた。

GABAカンファレンス

著者: 小幡邦彦

ページ範囲:P.385 - P.388

 Eugene Robertsの主宰によりGABAに関するカンファレンス"GABA on Nervous System Function"が1975年2月16日より19日まで米国Califomia州Santa Ynez Valley(Santa Barbaraの郊外)のThe Kroc Foundation本部で開かれた。参加者は30名で日本からは伊藤(東大・生理),栗山(京都府立医大・薬理),岡田(東京都神経研),大塚(東京医歯大・薬理),竹内(順天堂大・生理)の諸氏と筆者が出席し,Roberts研でGADの免疫組織化学の開発(後述)に参画された斉藤喜八博士(阪大・薬理)も参加された。日本勢とG. A. R. Johnston(オーストラリアCanberra),J. Storm-Mathisen(ノルウェー)の他は米国,カナダからの参加であつた。会議の記録はRoberts, T. Chase(NIH),D. B. Tower(NIH)によつて編集され,Raven Pressから本年中に出版される予定なので,詳細はそれにゆずり,ここではGABA研究の現状,神経系でGABAの果たす役割についての現在の考えなどを報告する。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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