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特集 脳のプログラミング 総説
プログラムされた神経活動とコマンド・インターニューロン
著者: 池田和夫1
所属機関: 1
ページ範囲:P.396 - P.407
文献購入ページに移動生体がたえず変化する環境に対応しつつ,1個体としての生存を維持し,さらに,生殖,発生,成長を繰り返して,系統としての生命を維持する姿をみるとき,生体と環境との関連の見事さに目をうばわれる。このような生体の姿から,生体のあり方の理解は環境との関連においてのみ行なわれるものであつて,環境と切り離した生体の理解は不可能であることが示唆される。このことはギリシャ以来,識者の注目をひき,形而上学的には生命哲学を生み,形而下学的には個生態学,群生態学,さらに,近年のethology発展の骨幹となつて,幾多の業績を生んできた。このような生体のあり方は,もちろん,生体の生理的機能に支えられてのみ可能であるから,生体のあり方が環境と見事な関連を示すためには,その生理機構がそのように作られていなければ不可能である。
1個の生体において,協関作用の中心的役割を演ずるのは,その神経系と内分泌系である。これらの系が,生体の置かれた環境条件を的確に把握して,その条件に合致する生体のあり方を決定し,生体内のその他の系に,それぞれのあり方を伝えることによつて,生体と環境との協関が成立することになる。このことは,神経生理学においては,知覚系,統合系,運動系のはたらきとして理解される。つまり,神経生理学的にみた生体とは,環境条件に合致した行動のあり方を決定することのできる情報処理機をもつた存在であり,その情報処理機は神経系である。
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