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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学26巻6号

1975年12月発行

雑誌目次

特集 自律神経と平滑筋の再検討 総説

平滑筋に対する自律神経支配

著者: 上原康生

ページ範囲:P.489 - P.498

 はじめに
 平滑筋組織は,消化器,呼吸器,脈管,泌尿生殖器などの多くの器官に広範に分布しており,基本的な生体活動に重要な役割を果たしていることはいうまでもない。
 しかしながら,骨格筋組織と比較してみた場合,平滑筋組織の基礎的研究は,かなり立ち遅れているという印象を受けるのが現状である。たとえば骨格筋においてほぼ確立されていると思われる筋収縮の機構にしても,平滑筋においては,やつとこの数年来でその糸口を見出した状態であり,とくにその神経支配については,交感神経および副交感神経の二重の神経支配は,抑制神経との関連,あるいはその未確定の伝達物質の存在などと相まつて複雑な様相を呈しており,多くの電気生理学的研究や薬理学的研究によつても,まだ見解の一致をみない問題が数多く残されている。とくにその機能を説明するに足る形態学的知見も充足されているとは思われない。

自律神経節の生理と薬理

著者: 西彰五郎

ページ範囲:P.499 - P.507

 末梢自律神経節,ことに頸,胸部の交感神経節(SG)は,興奮性単シナプスモデルとして,古くから実験に供されてきたが,ここ20年あまりの研究による新知見は,節における伝達様式や機能の解釈にいくつかの変革をもたらした。
 まず,SG細胞には興奮性のアセチルコリン(ACh)受容体にnicotinicとmuscarinicの2型があり29,109),さらに抑制性のアドレナリン(Adr)受容体も賦与されていることが明らかにされた29)。SGにおけるこの抑制系は複シナプス性で,Adr様物質(温血動物ではdopamine)を遊離する節内クロマフィン細胞に仲介されると説明され29),この仮説は形態学的および組織化学的実験によつても立証されつつある。

消化管運動の内在神経性制御

著者: 大橋秀法 ,   武脇義

ページ範囲:P.508 - P.522

 消化管運動の直接の担い手は,管壁を構成している平滑筋組織である。この組織を構成している平滑筋は,Bozler(1948)22)の分類に従えば単元筋(single unit muscle)であり,隣接する筋細胞は,nexus34,35)またはgap junction109,135)と呼ばれる構造によつて互いに電気的につながつており,機能的には合胞体のように振舞う。たとえば一部の細胞に発生した興奮は伝導して隣接細胞に拡がり,多くの細胞が同期して収縮を起こす。この型の平滑筋は自働能を有しているので消化管は神経支配が除かれても運動を持続する。正常な消化管運動は,平滑筋の自発活動に起源する運動を中枢が脊髄あるいはより上位の脳中枢にある外来神経反射や壁在神経叢レベルにある局所反射などによつて神経性に調節して形成されているといえよう。この神経性制御を明らかにするためには,各反射弓の求心性経路,求心性経路からの情報を統合,再区分して遠心性経路に渡す中枢および遠心性経路について解明される必要があろう。しかしこれまでの研究は,ほとんど遠心性経路に関するものであり,他の構成要素についての研究成果は少ない。

電圧固定法からみた平滑筋細胞の興奮性

著者: 猪又八郎

ページ範囲:P.523 - P.535

 はじめに
 興奮性細胞の生理学の展開をふりかえつてみると,神経についての研究が先頭に立ち,ついで骨格筋,心筋,平滑筋の順であとを追いかけているようにもみえる。もちろんそれには理由があり,平滑筋細胞の大きさがとくに小さいこともその理由の一つである。しかし,平滑筋にも細胞内電極法やイオンのフラックスの測定が適用されるようになつてから平滑筋の生理学が一段と進歩したことは確かである13,14,57)。さらに一歩進めて興奮の発生とイオン機構との関連をみていくためにはHodgkinら(1952)24,25)が神経に適用した電圧固定法を平滑筋にも応用することができると都合がよいが,これにはいくつもの難点がある。この難点を解決し,平滑筋の生理学に新しい展望をもたらしつつあるのが二重ショ糖隔絶法の応用である。この方法によつて平滑筋の電圧固定を行なつた研究にはAnderson,19693)(子宮筋);Kaoら,196939,40)(子宮筋);Kumamotoら,197046)(結腸紐);InomataとKao,197228)(結腸紐);Tomitaら,197465)(結腸紐);Connerら,197418)(腸管);Vassort,197466)(子宮筋);Buryら,197411)(輸尿管);Daemers-Lambert,197419)(門脈血管);Bolton,19758)(腸管),InomataとKao,1975(輸精管)などがある。

解説

ヘモレオロジーとその周辺

著者: 東健彦 ,   長谷川正光 ,   福嶋孝義

ページ範囲:P.536 - P.547

 Ⅰ.ヘモレオロジーとは
 ヘモレオロジー(hemorhelogy)はバイオレオロジー(biorheology)の一分野であり,バイオレオロジーはレオロジー(rheology)の一分科である。レオロジーということばがはじめて用いられたのは1929年にTheSociety of Rheologyが発足したときで,命名者はE. C. Binghamである。Rheo-はギリシャ語のrhéos(=stream)に由来する。レオロジーは,「流動と変形の科学」(Bingham,1929)あるいは「流動を含む変形の科学」(Eirich,1969)と定義づけられており,したがつて物理学のみならず,化学,工学,医学,生物学,農学など多様な学問分野と関連が深い。この学際性がレオロジーの特徴の一つである。
 レオロジーにおいてはそれぞれの物質の固有の性質を反映する物質方程式(constitutive equation)──ひずみと応力,またはそれらの時間的変化率の間の関係──を重視する。すなわち,当該物質の示す力学的挙動をその構造との関連において把握しようとする。このため,一見奇異に感じられるかもしれないが当初から古典弾性論および純粋な空気力学,水力学はレオロジーの範疇に入らないものとされてきた。これらの学問は個々の物質にそれぞれ特有な変形と流動を取扱うのではなく,物質の構造特性を捨象した変形・流動の現象論だからである。

実験講座

新しい圧力トランスジューサー

著者: 菅弘之

ページ範囲:P.549 - P.554

 はじめに
 従来の生体用圧力トランスジューサーは,直径数cmの金属膜の圧力に応じたひずみを,ひずみゲージまたは差動トランスなどによつて電気信号に変換するものである1)。ところが近年の半導体技術の進歩によつて,従来の抵抗線ひずみゲージに替つて半導体ひずみゲージが開発されて,その小型および高感度のゆえに圧力トランスジューサーに応用され,非常に小型のものが開発,市販されるようになつた2)(図1上)。ここでは,そのような新しい生体用超小型の圧力トランスジューサーを,使用者の側に立つて眺め,その特長,種類,特性,使用上の注意などを概説する。
 筆者は,約5年前からそのような超小型圧力トランスジューサーを循環生理学の実験に使用してきたが,後述するように非常に高性能,高信頼度をもつている。ただ自分自身で多種類のものを経験してはいないので,この概説も多くの文献に基づいてまとめざるをえなかつた。

心筋のプルキンエ線維における電圧固定法

著者: 平岡昌和

ページ範囲:P.555 - P.563

 心筋電気生理学における最近のめざましい発展の一つに心筋イオン電流の解析とその研究があげられよう。心筋の活動電位が神経のそれとは異なる特有の波形を呈することは微小電極法の導入からも明らかとなり,その活動電位の基礎となるイオン電流の解析の試みに多くの研究者達が取り組んできた。これらの研究の発展は,外液イオン組成の変化,通流実験などを介して進められてきたが,1964年,当時ハイデルベルグにいたW. Trautwein一派によつて,ヒツジプルキンエ線維を用いての"電圧固定法"が導入され1),この分野の研究に新しい光を投げかけた。事実,彼らをはじめ世界のいくつかの研究室において本法を用いての研究が進み,いままで明らかにされなかつた新たなイオン電流の発見や,神経のそれとは異なる複雑な心筋イオン電流の動態が明らかにされてきた。またさらには,ショ糖隔絶法(sucrose gap method)を用いての"電圧固定法"が心室筋や心房筋にも適用されて,この分野の研究が一段と活況を呈するに至つたのである。
 しかしながら,心筋組織の構造上の特徴から本法には技術上の制約も多く,そのために本法を用いた実験結果およびそれに基づくイオン電流の存在・解釈などに対してきびしい批判があげられるにいたつている2)

話題

プルキンエの生涯と業績

著者: 岩間吉也

ページ範囲:P.564 - P.567

 ふつうの生理学の教科書を手にとつて人名索引を引くと,少なくともつぎの四つの事項でプルキンエの名前に遭遇する。
 ①心臓のプルキンエ線維
 ②小脳のプルキンエ細胞
 ③眼のプルキンエ現象(遷移)
 ④眼のプルキンエ・サンソン像
 戦前に初版が出され,細密をもつて知られる藤田佐武生理学講義の感覚の章には,さらにもう二つの事項がのせられている。
 ⑤プルキンエの網膜血管像
 ⑥プルキンエの回転感覚
 以上に数えあげた事項に冠しているプルキンエの名は,いうまでもなく同一人のヤン・エバンゲリスタ・プルキンエJan Evangelista Purkynĕ(1787〜1869)の名前である。教科書に一つでも名前が残るというのは,およそ容易なことでない。それをいくつも残しているという人がプルキンエである。以下では,プルキンエの生涯について文献2)と3)とによつて簡単な記載をし,そのうえで彼の名を冠した生理学上の発見に限つて二,三の挿話をのべようと思う。

サザランド教授の想い出

著者: 石川栄治

ページ範囲:P.568 - P.571

 サザランド教授の想い出といえば,何といつても,教授の研究に対する限りない情熱と医学への幅広い関心とである。教授は日本の研究者の間では生化学者として知られているけれども,日本の平均的生化学者のイメージからは,ほど遠い,幅広さを感じさせた。医学のありとあらゆる面に強い関心と興味を示しながら,その広い視野の中でサイクリックヌクレオチドの研究を掘り下げてゆく。教授のこの姿勢が筆者の頭の中に描き出されるまでには,教授と接しはじめてから数カ月あるいはもつと長い期間を要した。しかし教授をこのように理解することによつて,筆者の研究に対する考え方が大きく転回していつたのを覚えている。

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生体の科学 第26巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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