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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学27巻2号

1976年04月発行

雑誌目次

特集 分泌腺 総説

顎下腺の比較組織学—多様性の由来

著者: 養老孟司

ページ範囲:P.105 - P.113

 外分泌腺の構造は古くから組織学者が好んで調べてきた主題の一つである。そしてさまざまな種類の外分泌腺の示す構造上の共通性が注目されてきた。すでにClaude Bernardの時代に膵をglande salivaire abdominaleと呼ぶ表現があり1),教科書にも膵をBauchspeicheldrüseということがある21),と書かれていたりするのも,構造の共通性が古くから重視されてきたことを示す。
 一方,顎下腺は種属間に構造のちがいがみられ,また同種の動物でも,性や年令による形態の差が認められる。これは顎下腺の構造の多様性—diversity—として,とくに腺の組織化学を調べた人達が強調してきたことである2〜8)。もちろんそれには耳下腺や舌下腺,さらに膵にはこのような多様さはないという(暗黙の?)前提がある。

分泌腺の形態—唾液腺のいわゆる漿液細胞における分泌を中心として

著者: 市川厚 ,   市川操

ページ範囲:P.114 - P.122

 はじめに
 分泌腺の形態を論ずるにあたつて,その分類には種々の方法がある。たとえば外分泌と内分泌,メロクリン分泌やアポクリン分泌,ホロクリン分泌というように,腺細胞で合成された分泌産物がどのようなメカニズムで放出され,運搬されるかを分類の基準とする場合もあれば,漿液腺,粘液腺というように分泌産物の化学的組成の上から分類する場合もある。また,腺組織の構造上の特徴から単純腺と複合腺,管状腺,胞状腺,管状胞状腺などの区別をすることもできる。以下に述べようとする唾液腺は,上記の分類からすれば,構造的には複合管状胞状腺であり,分泌産物の性質からは漿液腺または粘液腺,および両者を併せもつている混合腺ということになる。そして,分泌物の放出様式の上ではメロクリン分泌を営む外分泌腺である。しかしながら,粘液腺を構成する腺房細胞を粘液細胞,漿液腺のそれを漿液細胞と呼ぶ表現のしかたはあいまいなもので,従来光顕レベルで考えられていたほど単純なものではなく,それぞれの腺細胞が産生放出する分泌物の化学的組成が明らかになるにつれて,ある場合には漿粘液細胞(seromucous cell)と呼ぶのがふさわしい場合もあることが判つてきた。
 漿液性,粘液性の別は,一般に前者が水分に富み,酵素タンパクを主体とする分泌物を容れているのに対し,後者は酸性ムコ糖を主成分とする分泌産物を含むものと定義されている。

分泌腺の物質輸送

著者: 今井雄介

ページ範囲:P.123 - P.133

 はじめに
 細胞はその機能を維持し,自己を存続させるために常に物質を取り込み,かつ放出している。したがつてすべての細胞にとつて分泌と吸収の機能は基本的なものといえる。今回の主題である分泌腺は単に自己存在のためのみでなく生体の他の部分にとつて必要な物質を輸送するように分化発達した組織である。したがつて,その輸送速度は著しく高い。一方,神経またはホルモンの制御を受けて物質輸送をするという特徴をもつている。物質は血液側より取り込まれ,腺腔側に放出される。この方向性ある輸送も特徴の一つとなる。分泌腺で輸送される物質は水溶液の形で起こる。したがつて分泌腺においては水輸送は基本的な機能であるといえる。ことに唾液腺,汗腺,涙腺などでは水そのもののもつ生理学的役割が大きい。胃,膵では酸,アルカリといつたイオンが大きな役割をもつ。溶解蛋白が重要な働きをもつことはいうまでもないが,これとて水輸送に伴うものとみることができる。水輸送はイオン輸送と切り離しては考えることができないものであり,今回の論文ではこの二つを主題とした。
 輸送についてはその他制御に関係してアセチルコリン,カテコラミンおよびそれらの受容器の問題21),制御物質としてのCa++の役割など10,15,26)は重要な問題であり,一方,蛋白合成,腺細胞の超微小形態6)にも諸問題があるが今回は省略した。

分泌腺の細胞間結合

著者: 菅野義信

ページ範囲:P.134 - P.142

 はじめに
 光学顕微鏡にのみ頼つていた組織学の時代にも,上皮組織の表面近くには,細胞表面を帯状に取り囲み,タイルの間に詰めたセメントのメジのように,細胞を相互に強く結合させる構造の存在が記載されている。その他,細胞間橋などの細胞間特殊構造に関する所見は筆者らの学生時代の組織学実習においても取り扱われていた。しかし,細胞間接着部にみられる形態学的特徴が,細胞表面の特殊構造として,接着装置複合体(junctinonal complex)という名で体系的に記載されたのはそう古いことではない1)。この構造については,複合体という名で呼ばれているように,数種の結合形式が明らかにされており,これら結合形式の細胞や組織ひいては生体における機能的意義が何であるか興味がもたれてきた。一方,当時の一部の生理学者の間で,組織によつてはその中の細胞と細胞が非常に低い電気的抵抗で結合し,あたかも組織全体が電気的には1個の細胞のようにみえる事実が見出ざれていた。このような細胞間の電気的低抵抗結合が最初に見出されたのはショウジョウバエの唾液腺を用いた実験によつてであつたが2),その後,後述するように,多くの組織においてこの種の電気的細胞間結合が明らかにされており,したがつて,細胞間結合といつても,形態的あるいは機械的結合を指すのか,それとも,電気的低抵抗結合を指すのかを明確にしておかなくては混乱をきたすことになる。

解説

昆虫のホルモン

著者: 福田宗一

ページ範囲:P.143 - P.151

 昆虫のホルモンの研究は,マイマイガの幼虫を材料として行なわれたKopeé(1922)にはじまる1)。この研究で幼虫の脳は変態ホルモンを分泌するという結論が提出された。しかし,なおその後,昆虫に果たしてホルモンが存在するかどうかの問題が追求され,血液移注や移植などの実験が行なわれて,その存在が確かめられた。やがて変態に関与するホルモンの分泌腺とその役割についての研究が進められ,発生を支配するホルモン機構の大綱が明らかにされた。これに伴つて次第に研究範囲が拡大され,休眠,卵の成熟など多方面にわたつて,ホルモンの重要な役割が明らかにされてきた。また,一方においてホルモンの生化学的研究が行なわれ,前胸腺のホルモンがエクジソンとして最初に抽出され,ついでアラタ体のホルモンが純粋物質として得られ,それらの構造が明らかにされて,合成が行なわれ,ホルモンの細胞に対する作用機構の研究が行なわれるようになつた。
 したがつて,発表される論文の内容は多岐にわたり,その数ははなはだ多い。この小文では,いくつかの項目について,主な研究のあらすじをざつと通覧することとする。

講義

毛細血管透過性の構造的基盤

著者: 大槻磐男 ,  

ページ範囲:P.153 - P.161

 血管は,血液が流れる単なる容れ物ではありません。血管壁を横切つて,絶えず水や水溶性物質が出入していることが知られています。この種の物質透過は,主として毛細血管部分で行なわれており,体内の組織代謝を維持するため欠かすことができないものです。
 毛細血管透過のうちでも最も論議の多い領域の一つに,血管の内皮細胞膜を透過できない脂質不溶物質の通過経路とその機構をあげることができます。

実験講座

酵素抗体法の新しい知見

著者: 田渕和雄 ,  

ページ範囲:P.162 - P.168

 はじめに
 酵素抗体法は1966年Nakaneら1,2)によつて開発されて以来,ちようど10年の歳月が経ち,その間種々の改良や新しい方法の考案がなされるとともに,一方では数多くの研究グループによつて広い応用範囲にその有用性がはつきりと認められ,免疫組織化学の一方法として確立されるに至つている。
 今回はまず酵素抗体法のあらましと特徴についてふれ,つぎに酵素抗体法の最近の方法論酌進歩ならびに現在私たちが行なつている電子顕微鏡用試料作製の実際について紹介する。

話題

第6回国際薬理学会に出席して

著者: 高木博司

ページ範囲:P.169 - P.171

 学会は1975年7月20日から25日までヘルシンキ大学薬理学教室のPaasonen教授主催のもとに,ヘルシンキ市において開催された。大会事務当局の発表によれば,参加人員は4,000人に達し,史上空前の大会となつた。日本からの参加は210名の多数にのぼり,アメリカの640人についで第2位であり,また家族同伴の人が多く見受けられたのは,日本が経済大国(?)との印象を他の国の人々に与えたようである。第1回のストックホルム大会以来,3年ごとにプラハ,リオデジャネイロ,バーゼル,サンフランシスコとつづき,今回は北欧の森と湖の国フィンランドにおいて開催されたわけで,地域的な物珍しさ(?)もあつたせいか各国から大勢の参加があつて,大会当局は嬉しい悲鳴をあげていたようである。

シンポジウム"伸張反射の理解"について

著者: 本間三郎

ページ範囲:P.172 - P.175

 シンポジウム"伸張反射の理解"は型の如くGranit教授の開会講演と本シンポジウムの組織委員長としての筆者の講演で開始された。
 Granit教授の開会講演の要旨は,運動制御を行なうこの伸張反射は随意運動と関連して理解されねばならない。たとえばこれまでの生理学における運動の反射性制御の研究は脊髄動物や除脳動物,あるいは各種麻酔下の動物で行なわれてきた。随意運動と反射との関係は,その性質からしてこういつた動物からでは研究し得ない。ヒトにおいて自然のままで伸張反射とくにその感覚と随意による運動系の連関を研究することが必要と考えられる。

モスクワの情報処理研究所における研究生活

著者: 森茂美

ページ範囲:P.176 - P.178

 ようやく始まつた日ソ科学者の交流
 昭和49年度から日本学術振興会とソ連科学アカデミーとの間で研究者の相互交流協定がまとまりましたので,医学生物系から私が派遣されることとなり,49年12月1日から50年9月30日までの10カ月間モスクワ市内にある「生体情報処理研究所」で研究生活を過ごすことができました。
 この交流計画は田中前総理大臣がモスクワを訪問したさいに話題になつたことから急に協定としてまとまつたことのようです。西欧,アメリカとソ連との間にはすでに長い歴史をもつ交流協定がありますが,日本とソ連との間にはいまだ平和条約が締結されておりませんのでそのような形での交流は不可能でした。しかし平和条約とは別に戦後30年を経た今日ようやく国家レベルでの研究者の相互交流が始まつたことになります。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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