文献詳細
文献概要
特集 生体と化学的環境 総説
魚類の淡水・海水環境に対する適応
著者: 内田清一郎1
所属機関: 1東京大学海洋研究所
ページ範囲:P.215 - P.224
文献購入ページに移動 硬骨魚類の血液浸透圧は,談水魚が約300mOsm,海水魚が約400mOsmで,それぞれの環境である淡水(0.1〜1.0mOsm),海水(約1,000mOsm)と著しく異なつている。このような環境にあつて,魚の体表は大部分がうろこや粘液でおおわれ,とくに硬骨魚類では水やイオンの透過はほとんど零に近い。しかし,魚はえら呼吸をするので,えらにおける水とイオンの浸透的移動が大きく,淡水魚は水過剰とイオン不足の,海水魚は逆に水不足とイオン過剰の危機にたえずさらされている。これに対して,淡水魚は浸入した水を,多量のうすい尿として排出することで体内の水平衡を維持し,喪失した体液イオンは,えさをとらなくても,えらが淡水から積極的にNa+およびCl—を摂取して,体内のイオン平衡を保つことができる。海水魚は尿量を極度に減らして水の喪失を防いでいるが,さらに海水をのみ,腸から吸収して水を補給している。この際,不必要な1価イオンも吸収されるので,体内のイオン過剰は著しく,海水魚はえらから多量のNa+,Cl—を能動的に排出している。飲んだ海水中の2価イオンは大部分肛門から排出され,一部吸収したものは尿中に出される。このように魚類は,腎臓のほかにえらおよび腸が浸透圧調節器官として重要な役割を果たしており,その構造と機能は,淡水魚と海水魚で著しく異なつている。
掲載誌情報